03
お気に入りが300件突破しました!
本当にありがとうございます
家具もなにもない部屋でずっと過ごすのはそれはもう退屈だった。
そして寂しかった。
一日が今までになく長く感じた。
変化のない部屋に新たな発見などあるわけもなく、どれくらい過ぎただろうか。
私には数ヵ月に感じたが、ベランダから見える少しの木や花があまり変わっていないようだから数日だったのかもしれない。
何回目かの朝。
私の家に人がやって来た。
私の家は賃貸のアパートで、駅から自転車で数分、徒歩圏内にコンビニとスーパー。
もう少しいくと大通りに出てホームセンターや飲食店が並んでいたりする。
まぁそれなりに便利なところではあるのだ。
だからきっと新しい住居人が不動産の人と下見に来たのではないだろうか。
見えていないと知りつつも姿勢をただして、人が入ってくるのを待った。
が、入ってきたのは大きなベッドを持った引っ越し業者のお兄さんたちだった。
もちろん今日このときまで新しい住居人らしき人が下見にやって来ていない。
それは気が滅入るほどこの部屋に居座っていた私が一番よくわかっている。
なら、新しい住居人は下見もせずこの部屋に決めたのだろう。
確かにここは私が入るときから人気ではあったが…
前の住居人が死んで間もないと言うのに、そんなにあっさり決めてしまうものなのだろうか。
私がそうこう考えている間にも引っ越し業者のお兄さんたちはせっせと新しい住居人の家具を運んでいる。
うわ、すご。あのお兄さん一人で洗濯機運んでるよ。
てかあの棚でかくね?ドアのところ通るかしら?
…っと違う違う。
どうやら運ばれてきた家具の感じをみるに、新しい住居人は男性だと思われる。
生前の親しい異性は父しかいなかったため全く参考にはならないが。
新しい住居人は荷物が少ないらしく、引っ越し業者のお兄さんたちは午前のうちに撤退していった。
テレビにテーブルにソファとベッド、棚。それといくつかの段ボール。
私が引っ越してきたときよりも、少なく感じるがこれだけあれば明日からにも生活できそうだ。
…ん?
'明日からにも生活できそうだ'……?
それはそうだろう、家具やなんかが部屋に運ばれてくるということはすぐ住居人もこちらに移ってくるということ。
急すぎるだろう!
いやいやこちらのことも考えてくれよ!心の準備と言うものがだな!
と、自分が幽霊だということを忘れて焦った。
しまったな、あの腐るほどあった時間でなぜ新しい住居人が来たときのことを考えていなかったんだろう。
こんなに焦るならもっとイメージトレーニングをしておくべきだった。
私はあの家具ひとつなく、私以外誰もいない気味の悪いほど静かな空間で、
(幽霊の私が住み着いている時点で部屋自体気味が悪い、というのはこの際無視である)
十分自分は幽霊であり、もう人間ではない。ということを認識したつもりでいたが、本当に‘つもり‘だったようだ。
いつかくるとどこかでわかっていた新しい住居人が、近いうちに来るとわかっただけで焦るなど、まるで幽霊として自覚できていないではないか。
私はまだまだである…
しかし、反省はここまでだ。
新しい住居人がこちら来るまでの時間はそうないだろう。
あるだけの時間で最低限のことを考えなくては。
いまだに主人公私の名前が出ていないという…
おそらく次の次辺りで名前が明かされるはず。