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'私'こと幽霊さんの生前のお話
私は人間だった。
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高校を卒業して大学に無事合格し、この部屋で一人暮らしをはじめた。
私はもともと幽霊が見えるほどではないが「あ、いるかも。」と分かる程度の第六感があった。
この部屋に決めたときもいるな、とは思ったけれど害が無いことも分かったからそのまま住むことにしたのだ。
思っていた通り彼女は悪い霊ではなかった。
この部屋にいる霊が女性である、というのは憶測である。
私が講義に遅刻しそうになり、ご飯も食べず化粧もせずただ部屋着から着替えて慌てて出ようとしたときだった。
霊は私が出れないようわざわざ鍵をかけ一瞬にしてテーブルにパンとコーヒーをだして、化粧だけはしていけ!と大きな音をたてて化粧品を鏡の前に置いたのだ。
コーヒーを入れるカップがちゃっかり花柄のかわいいやつになっていたこともあってその時「この霊もしかして女性か…?」と思ったのだ。
彼女は身だしなみにはうるさかった。
声は聞こえないが行動ですべて示してくる。
まるで見えない姉が出来たようだった。
それ以来私はどことなく高圧的な彼女の行動への皮肉も含めて彼女を「お姉さま」と呼ぶようになった。
お姉さまに無事そのあだ名がお気に召したようではじめて呼んだとき花柄のカップにカフェオレを入れてくれた。
私がコーヒーを飲むのは目を冷ましたいときだけで普段は甘いもののほうが好き、ということに気づいていたようだ。
一人っ子だった私にお姉さまのそういうちょっとした気遣いなんかは少しくすぐったくて嬉しかった。
端から見れば一人暮らしだった私だが、実質「お姉さま」に世話を焼いてもらっていたから二人暮らしのようなものだった。