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できることから始めよう


 一ヶ月以上も放置してしまい、真に申し訳ありませんでした!


 いや、その、ね。


 体育祭や文化祭って大変ですよね?


 あっ、見捨てないでください!


 ちゃんと更新しますから。


 ではどうぞ。




 翌日。


 ちょうど朝日が昇り始めた明け方に、優平は目を覚ました。


 優平は普段と違う景色に疑問を持ったが、寝起きが良い方なのですぐにこの状況を理解した。


「異世界、か」


 優平は昨夜に聞いたことを思い出していた。


「帰るには時間が掛かりそうだし、父さんと母さん、心配してるよなあ。……(かなで)も心配してくれるかな?」


 もとの世界で親しかった人のことを考えて、一度目を(つむ)った。しかしすぐに目を開いて、ハクを撫でながら微笑んだ。


「でもまあ、悪いことばかりじゃあないか。ケルやハクとも出会えたし」


 優平は物事をできるだけ楽観的に考えるようにしている。なぜなら、その方が辛いことを考えずに済むからだ。


「あっ、トイレ」


 そこで気づいて、一言呟いてハクの上から退いた。そして物音を立てないように注意しながら、洞窟の奥に向かった。


 それから十分程で優平は戻ってきた。


「そういえば昨日は、色々なことがありすぎて荷物の確認とかしてなかったなあ」


 優平はハクの側に置いていたバックを取った。


「取り敢えず、ショルダーバッグとポケットに入っているものを全部確認するか」


 そうして全ての荷物を調べ終えた。


 出てきた荷物は、筆箱、スケッチブック、デジタルカメラ、一リットルの水筒、スポーツタオル、折り畳み傘、財布、携帯電話、メモ帳、鍵、ハンカチ、ポケットティッシュ。


「この世界で役に立たないものは、財布、携帯電話、鍵、かな。……バッグの奥に仕舞っておこう」


 優平はそれらを大事そうに手に取ってから、バッグに仕舞った。


 次に優平はデジタルカメラを見た。


「これは、充電さえできればなあ。でも今は役に立たないから、結局バッグの奥に仕舞うしかないか」


 優平はデジタルカメラも仕舞った。そして今度は水筒を見た。


「飲み水は確保しておきたいけど、水筒のお茶はもう殆どないからなあ。……ハクが起きたら聞いてみるか」


 優平は一口だけお茶を飲んで、バッグに水筒を仕舞った。そして残った荷物を見渡したがすぐに止めて、思考に(ふけ)った。


 その後数秒で、優平は考えを纏めた。


「よし。今から自分の状況を確認するために、筆箱とメモ帳を使う。だからそれ以外のものは、片付けちゃおう」


 その言葉通りに、優平は筆箱とメモ帳以外の荷物を片付けた。


 全ての荷物を片付け終わると、優平は昨日ケルブに教わったことや、自分がこれからどうするべきかというようなことを考えて、メモ帳に書き出していく。


 それを自分が満足できるところまで続けた。


 それが終わっても、ケルブとハクはまだ起きなかったので、優平は手持無沙汰(てもちぶさた)になってしまった。


「結構ゆっくりやったつもりだったんだけどなあ。二人が起きてくるまで、何してようかな?」


 そうして優平が様々なことを考えていると、この世界に来る前の自分が何をしようとしていたのかを思い出した。


「うん。決定だな」


 優平は満面に笑みを浮かべて、バッグの中からあるものを取り出し、作業に取りかかった。



   ***



『ん……』


 優平が〝それ〟を始めてから早二時間。


 熟睡していたケルブがようやく起きた。余程疲れていたらしい。


「ケル、おはよう」


 起きたばかりのケルブに向かって、優平は優しく声を掛けた。


『む……おはよう』


「もう疲れは大丈夫?」


 その問いに、ケルブは驚いたような顔を見せた。


『気づいていたのか。もう心配はない、十分休んだ』


 その答えを聞いて、優平は満足そうに頷いた。


『ところで優平、お前は一体何をしているのだ?』


「何って、色鉛筆画」


 見て解らないのかと言わんばかりの堂々とした返答だった。


『それは解っている。問題は何を(えが)いているかだ』


「ハクとケル」


 その率直な回答に、ケルブは固まってしまった。


 しかしその衝撃からすぐに回復した。


『今すぐ止めろ。そして消せ』


「断固拒否する。この絵は自信作だから簡単には消せない」


 ケルブは頭を悩ませた。


『大体、なぜ私を描いているのだ?』


「絵になるから」


 優平は即座に断言した。


 ケルブはそのことに、とても愕然(がくぜん)とした。


「だって絵心を(くすぐ)られたし、素直に美麗(びれい)だなあと思ったからね」


『美麗って……』


「もう少し絵に手を加えるから、完成したら見せてあげるね」


 自信満々な優平を見て、ケルブは諦めることを決めた。


『解った。もう好きにしてくれ』


「よしっ! ケル、ありがとう。これからも沢山描くからね」


 その言葉に、ケルブはぎょっとした。


『ちょっと待て! 〝これからも〟とは何だ! 私が許可したのは今だけだぞ!』


「良いじゃん良いじゃん」


 ケルブの怒鳴り声も何のその。優平はどこ吹く風と絵の仕上げに入った。


 ケルブは一々文句を言っても意味がないことを悟って、嘆息した。


 そんなやり取りも終わって絵が完成する時に、丁度ハクが目を覚ました。


「おはよう、ハク」


 優平の挨拶を聞きながら、ハクは一度体を伸ばした。そして洞窟の中を軽く走り始めた。


「朝から元気だね」


『固まった体を(ほぐ)しているのだろう』


「おお、なるほど」


 その無邪気な声音に、ケルブは微笑した。


 数分が経つと満足したのか、ハクが優平の近くで止まった。


 すると優平は労いの言葉を掛けてから、一つの質問した。


「お疲れさま。ねえハク、ハクとケルの絵を描いたんだけど、見てくれる?」


 ハクは一も二もなく頷いた。


「よし、それじゃあケルも一緒に見ようね」


『……そうだな』


 ケルブが答えを返すのに微妙な間が空いたのはご愛敬だ。


 そうしてハクとケルブがスケッチブックを見れる位置まで来ると、優平はおもむろにスケッチブックを開いた。


 そうして優平が見せた絵は、とても素朴で、精美なものだった。


 はっきりと描かれた背景の中で、純白のハクとケルブが、この世のものとは思えないくらいに幻想的に描かれていた。


「どうかな? 良く描けてる?」


 優平が声を掛けたが、ハクとケルブには聞こえていなかった。


 なぜなら、ハクとケルブは優平の絵に見惚れていたからだ。そう、ハクとケルブが、だ。


 言うまでもなく、ハクは魔獣であり、ケルブは七千年以上の時を生きている竜である。


 そんな二人が、たった一枚の絵に魅せられてしまったのだ。


 これ程までの素晴らしい絵を描く優平の才能は、天才──いや、〝鬼才〟とでもいうべきものであろう。


 優平は、元の世界のコンクールで入賞したこともある。それは美術の先生が優平に許可をもらって、出展した時だった。


「おーい、ハク? ケル?」


 返事が返ってこないことを不思議がった優平が、再び声を掛けた。


『っ……ああ。すまない。少し(ほう)けていた』


「大丈夫?」


『心配ない。もう平気だ』


 そう返すと、優平は安堵の溜め息を漏らした。


「良かった。それで、僕の絵の感想は?」


 再びされた質問に、ケルブはゆっくりと答えた。


『予想以上の素晴らしい絵……いや、絵画だった。軽く修正すれば、それなりの金額がついても可笑しくはないと思うぞ』


「え……本当に?」


 優平は信じられないというような顔をした。


『本当だ。嘘ではない。私の今までの経験から保証しよう』


「そうなんだ……。じゃあ、ハクはどう思う?」


 その声によって、ようやくハクは硬直から解けた。


 そして優平の目をじっと見つめた。


「……うん……そう、解った」


 優平には伝わったらしく、(しき)りに頷いている。


「ハクはね、余りに上手すぎて全く動けなかった。心を奪われてしまった、って言ってくれた」


『そうか……』


 そこでケルブがハクに目をやると、丁度目が合った。その時二人の心が通じ合った。


「うん。ケルとハクのお墨付ももらえたことだし、これからはどんどん絵を描くぞ」


『これだけの絵を描けるなら、私を絵の対象にしても良いだろう』


「本当? やった!」


 ケルブの許可がもらえて、優平は今にも小躍りしそうなくらい喜んだ。


「もちろんハクも描かせてくれるよね? ……よし! ケル、ハク、ありがとう!」


 ハクからも許可がもらえて、優平の気分は随分と高揚している。


『嬉しいのは解るが、落ち着け。そろそろ、これからどうするのかを決めるべきだ』


 優平はケルブに指摘されたことで、落ち着きを取り戻した。


「そうだった。これからの予定は……ああ。今朝考えてメモ帳に書いておいたじゃん」


 その言葉は、ケルブを驚かせるには十分だった。


『ユウヘイ。既に決まっているのか?』


「うん。そうだよ」


 優平はバッグを手に取り、中からメモ帳を出した。


「えーっと……ここだ」


 そして『今日中にすべきこと』と書かれたところを開いた。


「あの時書いたことは……あっ!」


『どうした!?』


 ケルブが真剣に聞いた。


「ハク、いつも水をどこで飲んでるの?」


 優平は早口に質問した。


『水……確かに生きていく上で重要なものだ』


「…………なるほど」


 優平はハクの話を聞き終えた。


「ケル、ここからは少し時間が掛かるみたいなんだけど、川があるんだって。それで、今から連れていってもらおうと思ってるんだけど、問題ないよね?」


『うむ。その格好だと少々寒いだろうし、魔獣と出会うかもしれないから、ハクの側から離れなければな』


 ケルブは大きな問題はない、という判断を下した。


「それは解ってるよ。ところで、魔獣って何?」


『ふむ、その説明もしておいた方が良いな。ユウヘイ、魔獣とは魔術を使う生物のことだ。序でにいっておくが、野獣は魔術を使えない生物のことだ。ただ、生物といっても危険のないものは、普通に動物や植物などと呼ぶからな』


 その説明に優平は首を傾げた。


「ん? 全部同じじゃあないの? それと、植物ってどういう意味?」


『お前は……』


 ケルブはほとほと呆れたが、気を取り直して付け足した。


『ならば魔獣や野獣はそういうものだと憶えておけば良い。そして植物にも動いて人を襲う物がいるのだ。ユウヘイの世界にはいないのか?』


「食虫植物ならいたけど……それがより危険になったもの、という感じなのかなあ?」


 優平は上手く想像できなかった。


『まあ解らないならば、出会ってみた方が早いかもしれないな』


「ならその方が良いや」


 優平は早々に諦めたようである。


「それじゃあ疑問も解消したことだし、すぐに出発しよう。という訳で、ハク、僕とケルを乗せて川まで運んでね」


 その言葉にハクは力強い声で応じた。


 こうしてハクは優平とケルブを乗せて、力強く走り出した。



   ***



「うわー! 速かったー!」


 ようやく川に着き、優平がはしゃぎ声を上げつつ、ハクの上から降りた。


 ここまで来るのに掛かった時間は二十分弱だった。


『なかなか速かったが、ハクは本気で走っていなかっただろう』


「え? まだ本気じゃあなかったの」


 優平は目を丸くして訊ねた。


『本気を出せば先程とは比べものにならないくらいに速い筈だ。ただ、相当な寒さを感じるだろうがな』


「ああ、さっきの以上に寒いのは勘弁したいなあ。それに風圧とかも強くなるか……さすがに今の格好じゃあ無理だね」


 優平はそう言いつつも酷く落ち込んでいるようだ。


『ユウヘイ、そう気落ちしてないで水を集めた方が良いのではないか?』


「……そうだね。よし! 全速力のハクに乗る方法は今度考えることにして、早く水を集めよう」


『そこはしっかりと考えるんだな』


 ケルブの突っ込みを無視して、優平はバッグの中から水筒を取り出した。


 そして蓋を開けて水を汲んだ。


『それは何だ?』


「え? ああ。これは水筒っていうんだけど、入れた液体の温度をある程度保って持ち運ぶものだよ」


『それは便利だな』


 ケルブは感心した。


 二人がそうやって話をしていると、急にハクがどこかを(にら)んで、(うな)り声を上げ始めた。


「ハク、どうかしたの?」


 その問いに答えたのはケルブだった。


『……人が来る。しかも複数人だ』


「人? そういえばこの世界の人に会うのは初めてだね。どんな人なのかなあ」


 優平の相変わらずののほほんとした声に、ケルブは注意を促した。


『大方ない筈だが、戦闘になるかもしれん。一応気を配っておけ』


「戦闘!? どうして!?」


 優平は驚愕(きょうがく)した。


 それに対してケルブは落ち着いた対応をした。


十中八九(じっちゅうはっく)ないと思うのだが、絶対とは言い切れない。だから気を張っておけということだ』


 その説明で優平も意味を理解して、頷いた。そしてハクの後ろに回った。


「何も起こらないと良いんだけどなあ」


 そんな優平の呟きに、答えを返す者はいなかった。


 それから十秒程過ぎた頃だろうか。


 数人の雪を踏み歩く音が聞こえてきた。


 その間の十秒程度の時間は、普段よりも酷く遅く流れていたようだった。


 そして、ついに姿を表した。


 人数は三人。男性一人と女性二人の組み合わせだ。


 先頭にいるのは男性で、がっしりとした体つきをしていて、身長は優平より頭一つ分程高い。背中には重量感のある剥き出しの直剣と丈夫そうな盾がある。そして犬の耳と尻尾らしき物をつけている。


 その男性の後ろにいる女性は、長身であり、こちらも優平より高い。手足が長くて顔立ちも整っている、文句の付け所のない美人だ。右の腰に剣だと思われるものがある。そして猫の耳と尻尾らしき物をつけている。


 最後は一番後ろにいる女性で、身長は優平より少し低いくらいだ。ゆったりとしたローブを着ていて、フードを被っている顔立ちはとても愛らしいといっても良いだろう。そして耳が尖っている。


 三人は優平たちと五メートルくらいの距離を空けて止まった。


 ハクは警戒しているようでいつでも飛び掛かれるように構えているし、ケルブも鋭い目線で相手を見据えている。


 そのために現れた三人も各々(おのおの)の武器に手を添えている。


 両者の間の緊張感が高まっていく。しかしそんな中で優平は相手の方を見つめて、


「その耳と尻尾を触らせてください!」


 とお願いした。


 その一言のお蔭で高まっていた緊張感は霧散(むさん)したが、替わりに何ともいえない微妙な空気になってしまったので、手放しで喜べそうにはない。


「ねえ、駄目かな?」


 しかし、当の本人はそんな空気の変化に微塵(みじん)も気づかずに、懇願(こんがん)していた。


 ハクですら困惑しているこの空気に、終止符を打ったのはケルブだった。


『ユウヘイ……お前は本当に……どうしようもない、な』


「えっ? 何が?」


 ケルブは呆れ入って溜め息すら出なかった。


 しかし今は優平のことを考えていても仕方がないので、ケルブは三人と向き合った。


『何といったら良いか……取り敢えず、こちらは戦闘がしたい訳ではない。むしろゆっくりと話がしたいのだが、応じてもらえるか?』


 その提案を聞いて、三人は素早く目配せをした。そして耳の尖った女性が代表して返事をした。


「解りました。私たちも何の用意もなしにブレジードウォルフと争うのは危険が大きすぎますから、丁度良かったですし……」


 そこで一呼吸入れて、優平の方に目をやった。けれども一瞬でケルブの方に戻した。


「それにこちらも、小型とはいえなぜ竜種がこんなところにいるのかや、そこにいる少年(・・・・・・・)のことなど、聞きたいことがいくつかありますから」


 女性はそう毅然(きぜん)とした態度で言い切った。


『解っている。その辺りの事情も話せる部分までなら話す。ユウヘイもそれで良いな』


 優平はすぐに頷きを返した。その目は相変わらず二人の耳と尻尾に釘付けだったが。


「それならここでそのまま話すのは寒いですし、近くに私たちが作った拠点があるので、そこで話しませんか?」


 既に敵意も全く感じなかった上に、優平たちにもありがたい提案だったので、優平たちはその申し入れを簡単に受け入れた。


 そして全員で拠点に向けて歩き始めた。


 これが優平にとって、この世界で初めての人との邂逅(かいこう)だった。


 さて、また新しいキャラの登場です。


 というより、優平以外の人の初登場です。しかもファンタジー的ですしね。


 しかし、まだまだ話は進みそうにない……。どうしたものか。


 まあ、書くしかないんですけどね。


 それはそうとして、優平の暴走は自分で書いておいてなんですが、シュールですよね。


 暴走中はそのことにしか気が向かないというか、思考の埒外というか……でも、自分の欲求に正直で羨ましいですよね。その場の状況を一切考えないところとかも。


 そして優平ハイスペック化計画その一、画家。


 動物の絵を描きまくっている内に、ここまでの絵を描けるようになったのだ!


 取り敢えず優平は色んな意味で才能の塊です。


 きっとこれからも皆さんを驚かせるでしょう。


 では。

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