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6-3

 捕縛部隊の長、ダヤンの態度は昨夜とはうって変わって丁重なものと変わっていた。アルデへの接し方はまるっきりの別人に対するようで、そしてある意味では実際にその通りだった。

 トゥーリアの町はダヤン達の属するクーリエ侯の領内からは外れており、従って本来は司法権もないのだが、近在の大諸侯の威光はここでも十分に通用する。

 誤認して襲撃を仕掛けた側に明らかな非があったとはいえ、セイトとアルデの応対も穏当からはほど遠い。町の参事会に圧力を掛けるまでもなく、隊に多大な打撃を与えた者達を扱うのに遠慮は無用のはずだった。

 なにしろ正規の隊士とも思えないような流れ者の戎士が二人だ。たとえ斬って捨てたところでどこからも文句は出ない。少なくとも当初、ダヤンはそのように考えていたことだろう。

 「一味は完全に壊滅しました。幾人か取り逃がした者もおりますが、匪賊として活動するには数が足りません。これで我が領内も平穏を取り戻すことでしょう。首魁のフェイトの命が失われたのは残念ですが、やむをえますまい」

 ダヤンの言葉はことさらフェイトの死を悼んでのものではなかった。生かしたまま捕えたい事情があったのである。

 フェイトはその氏をカフィールといい、クーリエ侯とも縁戚に連なる小身貴族の出自だった。カフィール家の現当主が小間使いに生ませた子であるという。

 「まったく良くある話です。庶子であるために疎んじられ、されど当主の側にも負い目があるために、暮らしだけは何不自由ないものを与えられる。結果、ひどく自己中心的で攻撃性向の強い人間が出来上がってしまったというわけです。せめて怠惰な道楽者にでも育っていれば、大した害もなかったのでしょうが」

 なまじ小才があって独立心が強かったために周囲に災いを引き起こした。ダヤンはそう結んだ。

 「耳の痛い話だな」

 素気なくアルデが応じると、ダヤンは喉を詰まらせたみたいに顔の色を白くした。

 「いえ、その、閣下はもちろん別であられさせ、いやあらせられます。現にこうして王国のために働かれているわけですし、今回も閣下のお力添えがあってこそ落着したわけで、さすがは王家の血筋を引かれるだけのことはあると」

 「役目ご苦労だった。いずれクーリエ侯にお目にかかる機会があれば、貴方の世話になったことをよしなに伝えておこう」

 一方的に切り上げると、深々と低頭するダヤンの存在をアルデは過去の領域に押しやった。

 通りではとっくに仕度を済ませたセイトが待っている。早くしろ、と表情はもちろん全身の態度で語っていたが、アルデは敢えて無視した。まだ他にやらなければならないことがあった。

 「迷惑を掛けた」

 「…………」

 「分ってくれとは言わない。許しも請わない。私はあなたの生命よりも自分の目的を優先した。それが全てだ。もし再び同じ状況に陥ったとしてもやはり同じ選択をすると思う」

 奥の壁によりかかり腕組みをするおかみにアルデは銀貨を差し出した。もともと約束していた三倍の額である。おかみは贋金でも扱うみたいに指先だけで摘み取った。

 ダヤンの態度の急変から、アルデがしかるべき身分の者であることは当然推察がついただろう。しかしあくまで硬い姿勢を崩そうとはしなかった。当然だ、とアルデも思う。

 「あなたに一つだけ話しておきたいことがある。多分、大切なことだ」

 おかみは眉間に皺を寄せた。露骨に迷惑そうな態度だったが、アルデは引かなかった。

 「今ではもう失われてしまった古い習俗だ。友人や親族や愛する……そういう、自分にとって大切な誰かに、鹿の角を贈るんだ。意味は」

 「もうお前には愛想が尽きただろう。知ってるさそのぐらい。あたしが若い頃にはね、あれの眷属はこの辺りにはまだ大勢いたんだ。行き交いもあった。諍いもね。あたしの夫はそのせいで死んだんだ」

 色褪せた過去を悼むように、おかみは束の間瞳を閉じた。

 「──グルダが一方的に悪かったってわけじゃない。そのぐらい分ってる。でもだからって好きにもなれないね。仕入れ先なら他にもいくらだってあるんだ。あっちがつき合いを止めるっていうなら、こっちにだって異存はないよ。……新しい商売相手が誰だろうと、食材を届けるのに裏口に回るぐらいの分別は持ってるだろうからね」

 言い捨てると、おかみは亭の中へ戻っていった。閉ざされた扉を前に、アルデは黙って踵を返した。

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