表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

6-2

 「だから言ったろうがよ。こんな奴ら、とっとと追い出しちまえってな」

 誰もが唖然と動きを止めた中、フェイトの首から迸る血に濡れそぼり、くたりと崩れたおかみの身体を老人は左腕一本で受け止めた。反対の右手に握った大斧の先端からは、ひたひたと血が滴っている。

 「な、なんだてめぇはっ」「いつからいやがった!?」「か、頭!!」

 恐慌に駆られた賊達は喚き散らし殺気立つ。老人はしかしそれをまるで気に留めたふうもなく。

 「そこの坊主、ちょっと手伝え」

 「え、俺?あーっと、おかみを介抱しろってのなら断るけど」

 「残りをやっといてくれ。おれは手がふさがってるからな」

 斧を床に放ると、おかみを両手で抱え直して無防備に背中をさらした。セイトが戸惑ったのは一瞬だった。

 「引き受けたぜ」

 答えると同時、木剣を振るって踊り込む。賊達の間に先刻までのような粘り強さや連携はもはやなく、囲みはたちまち崩れたった。

 その最中を老人は歩き出した。間近で戦闘が繰り広げられているというのに、独り無人の野を行くがのごとき落ち着き振りだ。

 大きな人だ。アルデは改めて感じ入った。見上げる位置に顔があり、両腕を回しても届かないのではと思わせるほど胸も胴も厚い。

 そして膂力もまた尋常のものではない。片手持ちの斧で生きた人間の首を落とすなど、国中を探しても出来る者が十人と見付かるか。

 加えて、殺気立った場に忍び寄って誰にも気付かせない身のこなしだ。もしも敵に回したなら、これほど厄介な相手もいないだろう。

 しかしアルデはこの老人のことを脅威だとは感じなかった。悪党相手とはいえ、人ひとりの命を奪って平然としている様を目の当たりにしてさえ、ごく自然に近く寄ることができた。

 アルデの傍らを行き過ぎようとした老人は、ふと思い出したように歩みを止めた。

 「そいつは」

 アルデの持つ剣に向け顎をしゃくる。アルデは心持ち身構えた。別に取られることを心配したわけではなかったが。

 「小娘が持つような代物じゃねえな。どこで手に入れた」

 小娘呼ばわりに微妙なものを感じながらもアルデは答える。

 「貰ったんだ。昔の知り人にな」

 「髪の赤い奴かよ。おまえと同じに」

 「そうだ。あなたと同じに」

 老人は笑ったようだった。声を立てず、目元だけで微かに。

 「おれの頭にはもう毛なんざ残ってねえよ。もしあったとしてもとっくに全部白くなっちまってるさ」

 「鹿の角。その人のために持ってきたんだろう。意味は通じなかったようだが」

 老人の腕に抱かれたおかみはアルデからすれば母親か、ことによると祖母に近いような年代だろう。しかし無防備に眠る今は、まるで幼い少女のようにも見えた。

 驚いた奴だな、と老人は低く呟いた。アルデに向けたものではない。ちょうどセイトが最後の一人を沈めたところだった。

 「おまえはまあ小娘にしてはってところだろうが、あっちは正真の埒外だな。昔知ってた小僧を思い出す」

 「それは」

 誰のことだ、という問いをアルデは呑み込んだ。どうせ答えは得られまい。老人もそれきり口を閉ざすと、おかみを連れて奥へと消えた。

 「総帥、終わったぜ。そっちの話は済んだのか?」

 「多分……いや、良く分らない。だがそれより、この者達をこのまま放っておくわけにもいかない。メイヤー、ご苦労だがお前が屯所に行って」

 「俺はもう一眠りする。せっかく部屋も空いたことだしな。あんたはあんたで好きなようにやってくれ。じゃ、また明日」

 セイトはこれみよがしに欠伸を放つと、さっさと階段を上がっていった。二階にはまだ賊が残っているはずだとアルデは気付いたが、呼び止めたりはしなかった。少しして争うような物音が起こり、またすぐに止んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ