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私の恋は罪だった

作者: Rj
掲載日:2026/03/11

 私の恋は罪として裁かれる。


 町の広場に集まった人達からの罵声が肌を刺す。人の声が痛いと感じることを初めて知った。


 いつもは町の行事や祝い事に使われる広場の演壇に立つと「汚らわしい」「男を誘惑する妖婦」「娼婦」ありとあらゆるののしり言葉を投げられた。


 両親が亡くなっていることを良かったと思う日が来るなんて考えたこともなかった。両親だけでなく王都に出稼ぎにいっている兄さんが私のこのような姿を見ずに済んでよかった。


 私が犯した罪が読み上げられる。


「既婚男性を惑わせた淫婦よ、何かいうことはあるか?」


「何もありません」


 集まった人達から再び激しい非難の言葉が投げつけられた。親しくしていた近所の人達がこれまで私が見たことのない恐ろしい顔をして叫び、友人も汚いもののように私を見る。


 これまで私と関わりのあった人も、関わりなどまったくなかった人も、けがらわしい女に罪をつぐなわせろと叫ぶ。


 恋をしただけなのです。


 私の声は誰にも届かない。






 恋をした。


 王都から定期的にこの地を訪れる男性と出会い恋におちた。


「よそ者には気をつけるのよ」


 女の子は他地域からくる男性に警戒するようくどいほど言われて育つ。「よそ者は旅先だと気が大きくなり気軽に女に手をだして捨てる」といった話をうんざりするほど聞かされる。


 だから私は彼から好意を持っていると伝えられても信じなかった。


 王都の男は口が上手くしゃれたことをするので本気にするなと大人達はいった。その言葉は本当で王都から訪れる商人や役人は垢抜けていて、王都の話や冗談をいって女性を笑わせたり、ほめるのが上手かった。


 それに王都には着飾った美しい女性が多く王都の男性は美しい女性を見慣れているという。王都の男性が田舎の女にひかれるわけがなく遊び相手としてしか見ていないとさんざん言われてきた。


 彼は長年この地方で作られる絹の買い付けに来る商会の三男だった。この地方ではめずらしいハチミツのような薄茶の目をした彼は、商会の仕入れを担当している彼の叔父と一緒にさまざまな場所を回っていると言った。


 彼の薄茶の目を見た時に思わず見とれた。ハチミツ色の目はとても美しかった。彼がその美しい目で私を見て笑いかけてくれると胸が苦しくなった。


 彼に好きだといわれた時はからかわれているとしか思えなかった。彼から好かれるようなことをした覚えもなければ、町で一番きれいといわれる近所のお姉さんのように男性からほめられたこともない。


 でも彼が町に滞在している間は毎日のように顔を合わせ、可愛い、好きだと伝えられるのがとても嬉しかった。お世辞だと分かっていても好きな人からほめられると浮かれてしまう。


「時間切れで残念。僕のことを忘れないで」


 彼が王都に帰る前日に私に会いに来てくれた時に彼は私の手を握り手の甲に口付けた。


 まるでお芝居のようだった。お芝居で騎士が愛する女性に永遠の愛を誓う時にひざまずき彼女の手の甲に口付けた。あんな風に愛を誓って欲しいと友達や近所のお姉さん達と盛り上がった。


 でも私に騎士のような口付けをしてくれる人がいるなんて本気で考えたことはなかった。


 彼が去ってしまえば以前と同じ生活に戻ると思っていたのに彼のことばかりを考え会えないことが苦しかった。もっと素直に彼の気持ちに応えていればと後悔した。もしかしたら私のことを本当に好きになってくれたのかもしれないのに。彼への気持ちはつのるばかりなのに彼に会うことができない。彼を追いかけたかった。


 それでも彼に会えない時間が長くなると気持ちが落ち着き冷静になれた。私が王都へ行かない限り彼に年に一度か二度しか会えない。生まれ育ったこの土地をはなれ王都に行くなど考えるだけで怖い。王都に出稼ぎに行っている兄が戻ってくると王都での生活は疲れると愚痴っていた。


「よそ者を好きになっても結局どうしようもないのよ」と言われる意味がようやく分かった。私が王都に行くなんて考えられないように、彼もこの地に住むなんて考えられないのだから。


 これ以上彼のことを考えても仕方ないとあきらめがついた頃に再び彼が町へやってきた。年に数度顔を合わせるだけの知り合い。それ以上を望んではいけない相手と自分に言い聞かせた。


 それなのに「あなたのことが好きだ。ずっと会えなくて死にそうだったよ。王都にこないか? というか王都に一緒に来て欲しい。僕と結婚を前提に恋人になって」彼に再び気持ちを打ち明けられた。


 王都に来て欲しい、結婚を前提にといわれ彼は本気だと嬉しかった。両親が亡くなり兄は王都に出稼ぎにいっている。いつも寂しかった。だから彼の家族になれると涙がでるほど嬉しかった。


 嬉しくて、幸せで、夢のようだった。私に愛を誓ってくれる人がいる。ずっと一緒にいたいといってくれる人がいる。


 結婚するまで純潔を守るべきだけどその教えを破った。彼が誰も言わないだけで結婚前に契るのは普通だ、それにもうすぐ結婚するのだからと言われ彼を受け入れた。彼と結婚するのだから契ることを迷うべきではないと。


「このままあなたを王都に連れて帰りたいけど両親にまず結婚することを報告してからじゃないとね。それに新居の用意をしないといけないから待ってて。すぐ迎えに来るから」


 彼が迎えに来てくれるのを焦れる思いで待っていたが体調が悪くなり、彼が迎えに来る前に死んでしまうのではと不安になった。死にたくない。彼に会いたい。大丈夫だと抱きしめて欲しい。


 幸い体調は回復したが彼が来ない。王都とこの地を往復するだけでなく結婚や新居を用意するのに時間がかかるので仕方ない。もうすぐ彼と結婚して幸せになるのだからと思っても寂しさはどうにもならず何度も泣いた。


 お腹の辺りにこれまでにない感覚がありお腹がふくれてきたことで子が出来たと分かった。でもどうすればよいのか分からない。文字の読み書きができない私が彼に連絡を取るには代筆をしてくれる人に彼への手紙を書いてもらう必要がある。


 代筆を頼むと結婚前に妊娠していることを知られてしまう。彼が迎えにくるまで妊娠のことは隠さなくてはいけない。純潔であるべき教えを破ったと罰せられる。


 彼が一日でも早く迎えに来てくれるよう祈ったけど妊娠を隠し通すことは出来ず知られてしまった。


 未婚の女が妊娠したという醜聞はあっという間に広がり、子の父である男に責任を取らせると神官が王都の神殿に連絡を取った。それで彼が結婚していることが分かった。それだけでなく彼は私が彼を誘惑したと言ったらしい。


 結婚をする前に契り神の教えに背いた女の言うことなど信用できないと誰も私の言うことを信じてくれなかった。結婚している男性を誘惑した淫婦と呼ばれるようになった。


 そして罪を犯した私では子を正しく導くことは出来ないと生まれた子は孤児院で育てられる。私が知らない遠くの地で。会うことは許されない。


 恋をした。その恋が叶い好きな人と結婚し幸せな家族をつくると思っていた。


 私の恋は罪だった。私の恋は裁かれ一生その罪を背負って生きる。


 私はただ恋をしただけなのです。でもこの言葉は誰にも届かない。

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