4. 常磐色
カラーコード #007b43, #007c45, #007b49
補色は紫がかった赤色。ワインレッドがよく合います。
"常磐"とは永久に変わらないこと。
「とこいわ」より転じた、永遠に形の変わらない岩石を指すようで、またモミの木のような植物の中でも年中葉の色を変えない"常緑樹"の事も指すようです。
その緑色は、鮮やかというよりも、松や杉、モミなどの常緑樹が持つような茶色みを含んでおり、色濃くどちらかというと、どっしり落ち着いた雰囲気があります。逆に言えば、雪が降るような寒い地域の木々の緑を描く場合はこの"常磐色"が適切な色、表現ということになります。色彩の限られる冬景色の表現では、背景を彩るための貴重な色の一つになるでしょう。
もちろん、寒い場面だけでなく、春から夏にかけての緑が生い茂る時期、そして夏の暑さにも耐え抜く生命力豊かな自然の緑としても十分映える色、常磐色は季節を通して用いることが出来るでしょう。
ちなみに、英語にすると"Ever Green”。釣りやアウトドア好きな方にはなじみがあるかもしれません(特にルアーでバス釣りをする人)。
個人的に、植物というと諸行無常のイメージを抱いておりましたが、くすみがかった緑色に永遠が結びついているとは、なんとも深みのある美意識です。命という本来限りあるものだからこそ、永遠不滅という概念もより強調されるのかもしれません。
自然だけでなく人や場所にも結びつき、"常磐"と名のついた地名やスポットも日本各地に数多く存在します("常盤"の表記もあり地名、人名では間違えないように注意が必要ですね……本来の意味としてはどちらも不滅の意味を指しているようです。"盤"の方は常用漢字となっていますが、色の場合では"常磐"で表記される場合が多いように思えます。尚、"じょうばん"と読む場合は茨木と福島東部および宮城県南部からなる地域、常陸国と磐城国を指すようです)。
ときわ、大人気。名前だけでも永く栄え、緑豊かなイメージをもたらしそうですね。
また、年末年始や季節を彩るイベント、お祝いごとにも常磐色は好まれ、縁起の良い色として起用されます。門松にクリスマスツリーも同じく常緑樹による常磐色、どちらも補色である赤といっしょに飾られますね。和洋を結びつける色でもあるように思えます。
おめでたい席、華やかに飾られる席にも登場する常磐色ですが、"常磐"には日本においては渋いエピソードを持つ神様との縁もあったりします。
岩石にまつわる永遠の生命を象徴する超有名な女神様のお話……そう、イワナガヒメ(磐長姫)のお話です。
これは高天原から地上に降り立ったニニギが、笠沙の御崎においてコノハナサクヤヒメという美しい乙女に出会い、お父様に結婚を申し出るのですが、お姉さんのイワナガヒメも一緒でした。
しかしながらその外見を理由にニニギはお断りし、その子孫である天皇は花のように美しく栄える代わりに、見えないところで生命を支える岩のような永遠の生命とはならず、寿命という概念を抱えることになります。
ルッキズムのお話も昨今なにかと話題になりますが、なんとも哀しいお話。イワナガヒメは嫉妬に狂い、ニニギだけでなくコノハナサクヤヒメのことも恨んでしまうのですが、一方で妹は優しいという、どことなくコミカルなエピソードにも思えます。伝説として何年語り継がれても色褪せない魅力もあり、面白いのでいつか独自の解釈で拙著にも執筆してみたいです。
尚、イワナガヒメの別名は苔牟須売神。君が代にもあるように、日本では苔むすことが縁起が良いこととされ、この伝説の影響もあるものと思われます。苔の色であるモスグリーンと、茶色みがかった常磐色……親戚のようでとても良く似ています。
常磐色を用いた作品、名画はそれこそ沢山存在しそうですが、僕としての推しは、学生時代に山本二三展で目にした、もののけ姫の"シシ神の森"です。
この作品は"常磐色"以外も用いた様々な緑が用いられているのですが、背景美術の極致であると思います。各地で展覧会が行われているので、機会がありましたら是非ご覧になってみてください。
もののけ姫の舞台のモデルはご存知のとおり"白谷雲水峡"。屋久島の標高600~1050mに存在する、神秘的な原生林で、照葉樹に加えてツガやモミといった数多くの常緑樹が混生するスポット。こちらは実物を目にしたことはないのですが、いつか自らの目で推定樹齢3000年を一度感じてみてみたいものです。
暑さ寒さも凌ぐ忍耐強さと生命力にあふれ、途方もない年月を感じさせる色。そして毎年私達の人生の節目を祝ってくれるありがたい色。
常磐色のお話でした。
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