第26話 崩れ落ちる仮面
王都の裁判広場。
多くの貴族や市民が詰めかけたその場で、重々しく判決が下された。
「エリシア・グランフェルト。お前は公爵夫人としての立場を悪用し、誘拐・暴力・洗脳・名誉毀損といった数々の罪を犯した」
審問官の声が響くたびに、エリシアの顔から血の気が引いていく。
「これにより、貴族籍を永久剥奪。家名から除籍、財産はすべて没収。加えて――」
場がざわついた。
「本日より、ラグラン鉱山において十年間の労役刑を命ずる。期日を超えての減刑は認められない」
その言葉に、エリシアの脚が崩れ、地に膝をついた。
「な、なんですって……!? 貴族の私が、鉱山で!? そんなの聞いたことも――っ」
「もはや貴族ではない。お前は“ただの罪人”だ」
金の装飾に彩られた美しいドレスはすでに脱がされ、囚人服のような粗末な麻の衣に着替えさせられていた。
その髪も、象徴だった長い金髪は容赦なく短く刈り落とされる。
「やめてぇえええ!! 私のことを、誰だと思ってるのよぉおお!!!」
叫びは誰にも届かない。
家族は縁を切り、婚姻関係も破棄された。
見下していた使用人たちからは、冷たい視線が注がれるだけだった。
護衛に腕をつかまれ、無理やり立たされる。
「このまま鉱山に送るのが妥当だが、希望するなら特赦として娼館へ送ってやってもよい。……“働き方”は選べる」
官吏の皮肉交じりの言葉に、会場は冷笑に包まれた。
エリシアの瞳が見開かれる。
つい先日まで、王都一の“儚く美しい公爵夫人”と讃えられた女が――
今や、鉱山か娼館かを選ぶしかない、追放者へと成り果てていた。
「や……やだ……行きたくない……助けて……ユリウス様……っ……!!」
しかし、そのユリウスは――
無言のまま、背を向けていた。
その姿に、エリシアは最後の希望までも失った。




