第25話 再会、そして決別
午後の王城。控えの間に静かな空気が流れていた。
その扉をノックし、中に入るアメリアの姿は凛としていた。
セイランとジーク、そして城の使者が立ち会う中――
その場には、かつての婚約者、ユリウスが待っていた。
またしても見違えるほど強く美しくなったアメリアの姿に、ユリウスは言葉を失った。
「……久しぶりだな、アメリア」
「はい。お元気そうで、安心しました」
互いに形式的な言葉を交わした後、数秒の沈黙が流れる。
やがて、ユリウスがゆっくりと口を開いた。
「君に、どうしても謝りたかった。……あのとき、君をちゃんと見ようとしなかったこと、自分の気持ちをごまかして、傷つけてしまったこと。……本当に、すまなかった」
その声には、飾り気のない後悔と誠実さがにじんでいた。
アメリアは静かに彼を見つめ、ゆっくりと頭を下げる。
「私も……あの頃の自分を反省しています。見た目だけで判断して、ユリウス様の本当の姿を見ようとしなかったこと。……愚かでした」
「君が変わった姿を見て、再認識したんだ。俺は……ずっと、君が好きだった。でも、失ってからじゃ遅いんだな」
ユリウスは、自嘲気味に微笑んだ。
「でも今、君の隣にいるセイランのことも、君の笑顔も……まぶしすぎて、もう届かないんだってわかったよ」
「……ありがとうございます」
アメリアは、少し寂しそうに笑った。
「私も、もうユリウス様を“恋”では見ていません。でも、心のどこかでは……あなたが幸せでいてくれたらいいなって、そう思っています」
ユリウスの瞳がわずかに潤む。
それでも彼は、立ち上がり、深々と一礼した。
「……ありがとう。どうか、幸せになってくれ。セイランと、君の歩む未来が……美しいものでありますように」
その言葉と共に、彼は部屋を後にした。
背中はまっすぐに伸びていたが、その歩みはどこか寂しげだった。
扉が閉まると、アメリアはそっと息を吐いた。
「……これで、終わったね」
傍にいたセイランが、優しく彼女の手を取る。
「そうだな。もう、君は前に進める」
彼の手の温もりに、アメリアは小さく頷いた。
過去を断ち切り、恋に区切りをつけたその日。
彼女の心は、ようやく“愛すべき人”だけを真っ直ぐに見ることができるようになっていた。