第23話 三度目の正直
療養室の窓から差し込む朝日が、アメリアの髪を柔らかく照らしていた。
数日前までの出来事が嘘のように、空は澄み、風は穏やかだった。
それでも、胸の奥には小さな棘のような痛みがまだ残っている。
そんな中、セイランが花束を手に現れた。
花瓶に活けながら、彼は小さく微笑む。
「……もう、顔色が良くなったな」
「おかげさまで。セイラン……ありがとう、何度も」
アメリアがそう返すと、セイランは少しだけ視線を逸らした。
「実は……今日、言いたいことがあって来た」
その言葉に、アメリアの胸が小さく高鳴る。
「……君が目を覚ましたときも、最初に同じことを言おうと思ってた。でも、やっぱり……君の回復を一番に考えたくて、黙ってた」
アメリアは黙って耳を傾ける。
セイランは、ベッドの横に膝をついた。
その瞳は、真っ直ぐに彼女だけを見ていた。
「……俺は君が好きだ。誰かと比べてじゃない。ずっと、君自身を、君の強さを、優しさを、全部……好きだった」
それは、3度目の告白だった。
最初は淡い願いとして、2度目は本気の覚悟として、そして今回――
“愛”として。
アメリアは、涙が滲みそうになるのをぐっと堪え、少し俯いた。
「私……自分の気持ちに整理がつくまで、時間がかかってしまった」
「……うん。わかってる」
セイランは彼女の返答を急かさない。
アメリアはそっと彼の手を取り、顔を上げた。
「でもね……私も、セイランが好き。あの夜、あなたの腕の中で守られたとき……心のどこかで、もう答えは決まってたのかもしれない」
その言葉に、セイランの目が大きく見開かれる。
「……本当に?」
アメリアは、小さく微笑みながら頷いた。
「はい。これが、私の答えです」
彼の手をぎゅっと握り返すその力に、もう迷いはなかった。
セイランはしばし言葉を失い、やがて、深く深く息をついた。
「ありがとう……ありがとう、アメリア」
ふと、セイランの瞳がうるんでいることにアメリアは気づく。
「泣いてるの?」
「……嬉しいだけさ」
二人は見つめ合い、小さな笑いが重なる。
初めて心を重ねた朝――
静かに、けれど確かに、二人の物語が“始まった”。