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第22話 近づく距離

 静かな陽の光が差し込む、王城の一室。

 厚手のカーテンが開かれ、揺れるレースの隙間から、優しい風が流れ込んでいた。


 ふかふかのベッドの上で、アメリアはゆっくりと瞼を開けた。


 見慣れぬ天井――


「……ここは……?」


 その声に反応するように、椅子に座っていたセイラン・アルヴェインが立ち上がる。


「アメリア……気づいたか」


 ベッドの傍らに膝をつき、彼は彼女の手をそっと取った。


「ここは城の医療棟だ。君は……無事、助かったんだよ」


 その言葉に、アメリアの瞳が揺れた。

 思い出すのもつらい、あの夜の出来事――


 けれど、今、隣にいるのはセイラン。

 あの時、助けに来てくれた、力強い腕で抱きしめてくれた――


 そして……あの胸の温かさと、筋肉の厚み。


 顔が少し熱くなるのを感じて、アメリアはそっと視線を逸らした。


「ごめんなさい……心配かけて……」


「謝ることなんて、何もない」


 セイランの声は、柔らかくも揺るがない強さに満ちていた。


「……俺がもっと早く気づいていれば、こんなことには……」


「ううん。来てくれて、ありがとう……本当に、ありがとう……!」


 アメリアは涙を浮かべ、彼の手をぎゅっと握る。


 セイランもそっとその手を包み込み、囁くように言った。


「君を失いかけて……初めて、本当に思い知ったんだ。俺にとって、君がどれほど大切かを」


 その言葉に、アメリアは胸がきゅっと締めつけられるのを感じた。


 けれど同時に、あたたかい何かが胸に広がっていく。


(……この人の言葉は、嘘じゃない)


 それだけは、確かにわかった。


「……セイラン様」


「もう“様”はやめてくれ」


 ふっと、笑顔がこぼれる。


「これからは……名前で、呼んでくれないか?」


 アメリアは一瞬、目を丸くし、頬を染めながら小さく頷いた。


「……セイラン」


 その名を呼ぶ声は、まるで春の風のように柔らかく――

 セイランの胸に、静かに届いた。


 癒えぬ傷は、まだ確かにそこにある。

 けれど今、二人の距離は、確かに少しずつ近づいていた。


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