第19話 救出への兆し
アメリアが行方不明になってから、すでに一日以上が経過していた。
ヴァレンティナ侯爵邸では、徹底的な捜索と聞き取りが行われていたが、依然として有力な手がかりは得られない。
執務室の中、アメリアの兄、ジークリフトは机の上に両肘を突き、深く頭を抱えていた。
その傍らには、第二王子セイランの姿。
二人の間に、沈黙が重く垂れ込めていた。
「行方不明当日のルートは確認済みだ。だが、使用人の証言に……おかしな点がある」
セイランの声が静かに響く。
「“護衛の交代を、アメリア付きの侍女が指示した”……それも、普段命令を下す立場にない者が、だ」
ジークが顔を上げる。
「命令を下した侍女は元々“グレイスベル伯爵家”で働いていたと判明した」
「……!」
沈黙が再び落ちる。
しばしののち、ジークが重く口を開いた。
「エリシア、か」
「可能性は高い。君の妹の婚約解消をきっかけに、ユリウスとの婚約を取りつけた。アメリアがユリウスと婚約した直後から侯爵家内に人を何人も送り込んでいたようだ。」
セイランの言葉に、ジークは手のひらで机を叩いた。
「俺が……もっと早く気づいていれば!」
「責めても仕方がない。問題は、どう動くかだ」
セイランは、懐から一通の手紙を取り出した。
「ユリウスに会う。彼は、エリシアの夫であり、元はアメリアの婚約者でもある。……あの人は、今でもアメリアを想っているかもしれない」
ジークはその言葉に目を細めた。
「ユリウスが、妻の陰謀を暴くと?」
「もし、彼がエリシアの本性を知らないのなら……知らしめる。彼女の“中身”を暴く鍵は、内部にいる彼しか持っていない」
静かに頷き合い、二人は立ち上がった。
「明日、王都に向かう。セイラン、あとは任せた」
「任されるまでもないさ。……アメリアは、僕が取り戻す」
* * *
その夜、セイランは自筆で一通の手紙をしたためた。
“至急、内密に会いたい。アメリアの命が危険だ。協力を求む”
宛名は、ユリウス・グランフェルト。
(あの男が、まだ彼女を想っているなら――必ず、動いてくれる)
夜の静けさの中で、確かに何かが動き始めていた。