第17話 2度目の告白
ユリウス様とエリシア様の結婚式から、数日が経った。
それでも、胸の奥にぽっかりと残る喪失感は、消えることはなかった。
(好きだった。……今も、たぶん)
それを認めてしまえば、前に進めるのか。
それとも、より一層苦しくなるのか。
アメリア自身にも、まだ分からなかった。
* * *
夕暮れの庭園。
花々が揺れ、空は茜に染まりつつある。
アメリアは東屋のベンチに腰を下ろし、何も言わず空を見つめていた。
「ここにいると思った」
聞き慣れた声に振り返ると、セイラン殿下が立っていた。
いつもの銀髪に風がそっと触れ、穏やかな微笑を浮かべて、彼は彼女の隣に座る。
「元気……では、なさそうだな」
「……ええ、まだ少し」
「僕も、見てたよ。ユリウスの式には行かなかったけど、報せは聞いた」
「……幸せそうでした」
その一言に、セイラン殿下は静かに目を伏せる。
「アメリア。覚えてるか? 君がユリウスとの婚約を解消した後、俺、一度君に告白した」
アメリアは目を見開いたあと、ゆっくりと頷いた。
「あの時は……ごめんなさい。まだ自分の気持ちが、わからなくて」
「謝らなくていいよ。あれは君にとって、大変な時期だったはずだ」
彼はほんの少しだけ、距離を詰める。
「……でも、今日はもう一度だけ、言わせてほしい。今の君に、もう一度」
その声は、静かで優しく、でも芯があった。
「君のことが、好きだ。前よりもずっと。返事はまだもらえないって知ってる……でも、これからも口説き続けてもいいかい?」
アメリアは、ほんの少し戸惑いながらも、頬を染めて微笑んだ。
「……いいですよ」
そして、言葉を続ける。
「待ってる、って言ってくれたあの日、本当に嬉しかったんです。だから……今度は、私がその言葉を返したくて」
セイランの瞳がやわらかく細められる。
「ありがとう。じゃあ、宣言するよ」
「宣言?」
「これから毎日口説く。――君が俺を好きになってくれるまで、君が誰かを見て泣かなくなるまで、ずっと」
その言葉に、アメリアの心が熱くなる。
「……それって、ちょっと迷惑かもしれませんよ?」
「いいんだ。僕、しつこいから」
二人で小さく笑い合ったあと、セイランはふと付け加える。
「そうそう。今も、ジークと君と三人でトレーニング、続けてるよな。そろそろ、ジークの婚約者も加わりそうで……また賑やかになりそうだ」
「……あの方、すごくしっかりしてますよね。兄様、手綱握られてます」
「そこがいいんじゃないか、あいつには」
柔らかな笑い声が、庭園にこぼれる。
夕陽の光が二人の肩を包み込み、少しずつ、心の痛みをあたたかく癒していった。




