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おどぅ~ん短編集

主は来ませり

作者: おどぅ~ん

~邪宗門秘伝~

 闇夜。空は曇天の雲に閉ざされ星も月も見えない。寒風に揺さぶられる参道の木々の枝、その下を、すべるように石段をのぼってゆく白い影。

 丑の刻参り。

「ふふふ……今夜で満願……ついに、ついに!!」

 これまでの6夜、女は人知れずこの儀式を進めてゆくことが出来た。

 山深いその神社は、観光ルートから離れた不便な場所にあり、地元民が年に一度の祭りに参詣する以外は、滅多に人が来ることがなかったのだ。

「どうせこの辺りの人間も……知らないのだわ……ここがどんなに重要な霊山なのかなんて。秘密が広まらないように、修験者たちがわざと秘伝にして隠してしまったのだから。探したわ……本当に長いこと……何年も何年も、この山を、この社を!!」

 何かに憑かれたようにつぶやき続ける女。

「でも……小ざかしい……!!

 昨日とうとう、神木に打ち込んだ藁人形を見つけられてしまった……

 イィィィィィィィィィィィ一向に構わなくてよォォォォ!!

 人形はしょせん形代、取り除けられてしまっても、打ち込んだ釘の傷は消えはしないもの。今晩さえ見つからずにしのぎきれば、術が破れることはないわ……

 うふふ……わたしがご馳走してあげたお茶……お気に召したかしらねぇぇぇ……」

 いかに辺鄙な神社とはいえ、たまさか参詣人がくることはある。ご神木に打ち込まれた禍々しい藁人形が発見され、今晩はふもとの村の若者が社務所に詰めて見張ることになっていたのだが。寒さしのぎのため、彼らが七輪で沸かしていたほうじ茶のやかんに、こっそりと女が投げ込んだのは、青酸カリ。

「何でもないことね、人殺しなんて。やってみたらつまらない……

 だって……これから……

 罪も法律も意味を失う世の中になるんですものね!あはははは!」

 やがて。女はご神木の前にやってきた。古びた注連縄のやや下、女の背の高さあたりに、紛れも無く残る6つの釘穴。

 丑の刻参り。

 現代では単純に、憎い相手の人形を釘で打ちつけて呪う術だと思われているが、本来は違う。神域の要、御神木に傷をつけることで結界を破り、常世の世界から鬼神を呼び出す「召喚術」なのだ。それら鬼神の力を借りて憎い相手に復讐するという例が多くあったため、いつのまにか一番肝心の部分の意味が忘れられてしまったのだが。

「私の儀式こそ本物よ……

 先祖代々、失われた秘儀を探し続けた、破戒修験者の一族の裔、それが私……

 復讐なんて、つまらないことのためなんかじゃない。

 私は見たいの……この目で見たいの。一族の悲願、古代の邪神が今に蘇るところを……そのためなら……たとえこの世がどうなったって知ったことじゃないわ!!」

 いよいよ、女は最後の呪法に取り掛かりはじめた。

 頭に五徳をさかさまに乗せ、その足に灯した百目蝋燭を立てた。

「儀式のこんなところだけは一般人にもキチンと知られているのよね。おかしな話……そうね!おかしな話だわ、あははははははは!!

 だって、確か今夜はクリスマスじゃない!なんてすてきなクリスマス!!

 こうして蝋燭をつけて……ツリーに飾るのは、藁人形のオーナメントよ!!

 私だけの……聖誕祭、聖誕祭……あぁ!!まさに今宵こそ『主は来ませり』!!」

 女は藁人形を指し掲げ、五寸釘に金槌を振るった。

 冷たい空気を貫いていく、透明な釘の音。

 その余韻が天にのぼってゆくと、御神木の真上の空に。

「空」に「亀裂」が走った。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 狂喜した女は、尋常ならざる速さで槌をふるった。その一撃一撃ごとに、天の亀裂は大きくなり……

 女は見た。

 亀裂の向こう側、燃え盛る炎に包まれた、多頭の竜。

 女の一族に伝えられた邪神。これぞ古代呪法禁断の禍つ神・「八岐大蛇」!!


 主は来ませり。主は来ませり……

(完)

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