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【二章終了】回帰の代償~史上最凶の魔法使い『白い悪魔』ですが、今度こそ殿下を幸せにしてみせます!~  作者: 涼暮月
二章

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66 楽しい楽しい、座学の時間-2

「星屑ほどの記事を収集するほど、第一王子を気にかけて……よもや、惚れているのではあるまいな!」

(え、えええー……)

「いかん、いかんぞ! お前はまだまだ十歳だ。嫁にやるにはまだ早い! 王后の問題が片付いた後でも、王家に嫁がせるのは——」


 たしかに情報収集以外の目的もあって、シアは、新聞にクロヴィスの記事が掲載されるたびに姿絵込みで切り貼りしている。

 だが、それがどうして『嫁にやる』に発展するのか。


(あれか? 夢見る少女特有の『この人のお嫁さんになりたい』ってやつと誤解された?)


 しかしシアがクロヴィスの姿絵を集めているのは、単に「傍で成長を見守れないぶん影から見守りたい」、「初々しいクロヴィス様の姿は貴重だな」、という気持ちの表れであって——祖父のコネを利用して、婚約を取りつけてほしいとかいう甘酸っぱい感情じゃない!


(あ、でもまって)


 突然思いもよらぬところから可能性を提示され、シアは妙案を閃いた気がする。


(今すぐではないけれど、クロヴィス様を守るために、『婚約』という手はありかも。とはいえ、それはおいおい考えるとして……)

「あの、おじい様」

「いや、わかっている!」

(なにが?)


 それ以上何も言うなとばかりに手のひらを向けられて、思わず突っ込んでしまう。


「第一王子であれば、ぎりぎり及第点。候補に入れても、いや、だが……っ」


 なるほど。この時点ですでに、オズヴァルトはクロヴィスに対して、王座の可能性を見出していたわけだ。

 だがいまは、なぜ王后が王権を自らの手に望むのか、その根拠を知りたいのである。


 シアが何か言うたびに、オズヴァルトが懊悩を深めるようなので、シアはちらりと母に助け舟を求めた。


(お母様……)


 サーシャはぱちっと片目をつぶって見せると、両手に顔を埋めてぶつぶつ怨嗟を吐いているオズヴァルトへ向けて、こう告げる。


「お父様。奇行にシアが戸惑っていますよ」

「え……」

「それに、あまり口うるさいことを言うと……ねえ? わたしのように駆け落ちしてしまうかもしれませんね」

「な、なに!?」


 物憂げに吐かれた思わぬ台詞に、オズヴァルトががばりと顔を上げる。


「か、駆け落ちだと!? それはいかん。お前にしてやれなかった分、孫たちの結婚式は盛大に——」


 しかし、なにやら明後日の方向へ向かいかけた話題をあっさり黙殺し、サーシャは淑やかな笑みで答えを促す。


「それで? シアの質問の答えはいかがです?」

「う、うむ。王后が王権そのものを掌握しようとしているのではないか、という質問だったな」


 しばらく懊悩していたオズヴァルトだったが、紅茶を一口飲んで心を落ち着けると、ようやくぽつぽつと話し出す。


「それはおそらく、その通りだろう。王后は間違いなく、己がアウローラ王家の子孫であることを誇っており、意思薄弱なケルサスを見下しているからな」

「アウローラ王家……」


 小さく繰り返してから、シアは記憶をたどる。


(シュエラ王国の開祖はアウローラ王家で、そこから派生したのが今のディザイン王家——かつてのディザイン大公家、だったかな)


 そして王后の家門ルヴォン侯爵家は、王権がアウローラ家からディザイン家へ移り変わる際に、その流れを取り込んだ家門である。


「たしか、アウローラ王家は女児しか生まれず、大公家から養子を取り、王の座を継がせたのでしたよね」

「ああ。そしてラドネ王は王家の姓をディザインへと変えさせた。その数年後、先代王の娘である王女が男児を生み、既に王太子の座についていたラドネ王の息子と王位争いが勃発したのだ」


(それが、王家と魔塔間で交わされた『相互不可侵の誓約(ゲッシュ)』の始まり)


 ディザイン王家が今も覇権を握っている通り、王孫一派は王位争いに敗れた。

 敗走したアウローラ王家は容赦なく弾圧され、唯一、王太子派の筆頭であったルヴォン侯爵家へ降嫁した王女だけが、慈悲を施されたのだ。


「つまり、真の王家とはアウローラ王家であり、その末裔である自分こそが王位に相応しいと、復権をもくろんでいる、ということでしょうか?」

「推測でしかないが、あの女狐が考える——」

「お父様?」

「うむ、こほん」


 にこりと、サーシャから圧のある微笑みを送られて、オズヴァルトはできる限りシア仕様に言い直す。


「あの気位が針山のように高く、トゲトゲしたレディの動機としては」

(トゲトゲ……)

「これが一番近いのではないかとそうわたしは思う。それから、『復讐』だな」


 なんでも、ルヴォン侯爵家はもともと戦争で功績を上げた武家上がり。戦乱の世であれば重宝された一門であったが、時が太平の世になるにつれて、王の寵愛は薄れていったという。


「最初の動機は、いつまでも公爵へしょう爵されない家門に業を煮やして、婚姻によって貴族の頂点に君臨しようと考えたのかもしれない。だが……」


 その地位に近づいてみると、王の妃、王太子の母、国母など——結局は「男」の付属品。


「侯爵家を破竹の勢いで盛り立てたマチルダを、社交界は『侯爵家当主の器』だと評した。ただし、『女でさえなければ』とな」


 当時、社交界のあちこちで交わされていた会話を思い出し、オズヴァルトは眉をひそめながらこう語る。


「今代の王ケルサス・ディザインは穏健といえば聞こえがいいが、何事も穏便に済ませようとする欠点が目立つ。マチルダのように望んでもその地位に付けない人間からしてみれば、至上の椅子で安穏としているケルサスは、さぞ愚鈍で憎らしく見えたことだろう」——と。


「だからおじい様は、次第に王后が、愚鈍な王に諾々と追従することに嫌気がさして、『ならば自分がその地位についてやる』と逆心を抱いたと、そうお考えなのですね」

「ああ。いまだに男子相続制を絶対視する貴族社会において、マチルダのように野心があり才覚に優れた女性は、兎角生きにくいものだからな」


 そう呟いて、オズヴァルトは「だから王后が初心のまま、純粋に家門の隆盛だけを望んでいると考えるには、疑問が残る」と続けた。


「第一王子は、旧王家と現王家、そのどちらの血も継いでいる。つまり由緒正しい血を引く息子を王位につけるだけで、王后やルヴォン侯爵家は国母や王の外戚として権勢を揮うことが出来るわけだ」


 しかしシアが指摘したように、王后は王太子の選定を急かさず、むしろ第一王子を粗雑に扱っている。

 その様子から推測するに、第一王子はただ血を繋ぐための駒、とでも考えているのではないか、ということだった。


「目障りな王を廃した場合、第一王子が玉座に座ることになる。わたしや反王后派の支持を得てな。だが、王が存命であれば、国を動かすのは正妃であるマチルダだ。今の王の健康状態を見ればなおのこと。だからあえて生かしているのだろう」


 オズヴァルトがこう推測するのは、マチルダが自らを『王后』と称したところにもあるのだという。

 いくら王家がその血を守るために一夫多妻制が認められているとはいえ、王の正妻は正の妃——つまり、正妃と呼ばれる。


 しかしマチルダに至っては、先王が崩御し現王が戴冠の儀を終えたその日に、『王后』——王が崩御した後、幼い息子に代わって国を治めた、ある正妃の(おくりな)——を用いて、自らをそう称したのだ。


 これは王に代わって舵を切るという、意思の表れではないか。当時のオズヴァルトもまた、そう危ぶんだそうだ。


「ルヴォン侯爵家が魔塔を私物化しているのも、王后の指示ですよね?」

「ああ。相互不可侵の誓約は、ルヴォン侯爵家を仲介することで無効化される」


 これはおまえたちの方が詳しいな、そう苦笑したオズヴァルトにシアはこくんと頷く。


「そして対外的に見ても、アウローラ王家と魔塔がともに歩んできた歴史を振り返れば、魔塔がルヴォン侯爵家に従っていてもおかしなことではない、ということですね」

「そうだ。魔塔にとっても、権力にすり寄っていれば甘い汁にあやかれる。ただ……」


 言い淀むと、オズヴァルトは眉間に皺を寄せた。


「どうやら、魔塔とは別に、王后には子飼いの魔法使いがいるようなのだ」

「それは……」

(それはつまり。すでに王后は、黒魔法使いと関係しているってことを暗示している)


 オズヴァルトの持つ情報だから、疑う必要はない。

 王后がゲッシュの処罰を逃れられた理由。それはただ単純に、取引した魔法使いが魔塔ではなく、黒魔法使いであったからだ。

 魔塔に所属していようと、黒魔法使いは誓約の対象から外れる。

 まるで言葉遊びのようだけれど、『相互不可侵の誓約(ゲッシュ)』はなにぶん古い誓約ゆえ、実は抜け穴も多いのだった。


(ううーん)


 シアは心の中で唸りながら、あることを検討する。


(ちょうど話題も出たことだし。おじい様に、黒魔法使いの情報を伝えておくか……)


 アルトヴァイゼン公爵家との関係を公表すれば、オズヴァルトも無事ではいられないだろう。

 むしろ、以前は無関係であったのに、王后の毒牙にかかった。今回は率先して行動する分、より早い段階から排除する動きを見せるかもしれない。


 なにしろテネブレが魔塔を追放されたのは、公爵家の襲撃があったからである。

 その事件が起こらない未来では、黒魔法使いであることを暴露されない。つまり魔塔を隠れ蓑に、派手に動く可能性があるということだ。

 ならばこそ、きちんと情報を共有し、備えておくべきではないだろうか。


(そのほうが、おじい様も対策を立てられるし、賢いひとだから。身を守るのが第一優先……よね?)


 最終的に、優雅にお茶を嗜んでいる母へ眼差しで確認を取ると、彼女は静かに頷いた。


「お父様、このことは他言無用ですが」


 サーシャはそう切り出し、封臣家門たちにも通達されている情報をオズヴァルトに語る。



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