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【二章終了】回帰の代償~史上最凶の魔法使い『白い悪魔』ですが、今度こそ殿下を幸せにしてみせます!~  作者: 涼暮月
二章

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62 第一戦は五月祭で

「ようこそいらっしゃいました、リンドール伯爵」


 結局、公爵の予定が狂ったことで、一同が会したのは夕食の席でのことだった。


「検問所から到着の知らせを聞いたのは良いものの、待てど暮らせど一向にいらっしゃらないので。よもや迷子になられたのかと心配しておりましたよ」

「は、は、は! ……この私が、迷子だと? 面白いことを言うじゃないか、ロナン・フエゴ・ベルデ」


 お互い笑顔で受け答えしながら、がっしりと握手を交わす義理息子と義理の父。その姿は、一見するととても仲がよさそうだ。

 けれどよくよく見れば、握りあう手は白く、弧を描く唇は引きつり、眼光も鋭く——握力と眼力で牽制しあう様子が窺える。

 噂にたがわぬ険悪ぶり。


「若いのに耄碌したか。このっ、こいつめえ。はは、いけすかないやつめ!」

「っ」


 おまけに、伯爵がどさくさに紛れてバシバシと力いっぱい肩を叩いてくるので、そのたびに公爵の逞しい肩が揺れる。

 と、鷹揚に応じながら、公爵もやられっぱなしではいなかった。


「いけすかないとはまた、つれない仰りようですね——お義父様」

「おいやめろ! お義父様と呼ぶでない!」

「ではどうお呼びしましょう? リンドール、()()……?」

「く!」


 そう、舅と義理の息子ではあるが、爵位は伯爵と公爵。

 公爵のほうが社会的地位は上なのである。


「こ、こんな表情筋が凍り付いた、極悪面の義理息子など! 願い下げだ!」

「ふ、何を仰いますか。あなたも大概、極悪ですよ」

(……お父様。さりげなく面を抜いて、性格批判にしましたね)


 お互いがっしりと手を握り合いながら、何とも言えない舌戦を繰り広げていた二人だが、商談自体は大成功に終わった。

 と、いうのも。ひとえにセレンの登場でまるっと収まったのだった。


(なんだか、色々計算づくめで近づいた自分が、馬鹿みたい)


 ちなみにフェランは、「用事は済んだ。仕事が忙しいだろう、東部へ戻れ」と、オズヴァルトより早々に追い払われてしまい、「私も、公爵様や公子様とお話ししたいのに~!」と泣く泣く帰っていった。


 それから晩餐の準備が整うのを待つ間。


『——こ、この子が、あの男の遺伝子を継いでいるだと!?』


 居間でセレンと会したオズヴァルトの第一声は、それだった。


『馬鹿なことを言うんじゃない、我が娘にそっくりじゃないか。いや、その笑い方は、我が妻アイーダにも似ている……』


 愛する妻や娘に似ている上に、聡明で多才——まるで自分のように優秀だ——と聞いたら、祖父としても実業家としても、一目で気に入ってしまったらしい。

 むしろ自分の跡取りに……、とまで言い出したオズヴァルトは、「セレンが主体となってこの事業を進めるのなら、惜しみなく支援してやる」と太っ腹な提案をしてきたのだ。


(もちろん、セレンお兄様はあげないけれど)

 



「王都での社交界デビューは三人ともまだだったな。よし、セレンの後見人はわたしに任せなさい。次の新年の宴で花道を飾ってやろう」


 夕食後。事業の話を本格的に進めようと再び移動した居間で、年代物のブランデーを楽しみながら、くつろいだ様子でオズヴァルトがある提案をしてきた。


「ただし、魔道具、いや魔法細工の披露目は、五月祭でだ」

「五月祭で、ですか?」


 一方サーシャは、紅茶の注がれたカップに手を伸ばしかけ、そのまま怪訝な顔で眉根を寄せる。

 なぜなら、いまは三月。

 五月祭とは文字通り、緑生い茂る五月の中頃の行事のことである。


「お父様。五月祭まで、もう二カ月もありませんよ? 王室への献上品だけならばともかく、貧困層へ配布するギフトの量産までとなると、かなり急を要するかと」

「ふ、そこは根性を見せてもらわねばな。緑玉でも魔道具師でも、総力を挙げれば間に合わせられるだろう」

「そんな根性論で……王都にどれだけの民が住んでいると思っていらっしゃるのですか」

「相も変わらず、無茶をおっしゃいますね」


 サーシャと公爵が何とも言えない表情を浮かべる向かい側で、イリオスもまた、怪訝そうに眉根を寄せていた。


「五月祭? ギフト?」


 聞きなれぬ単語に、ちらりと隣に座る兄を見上げる。


「ああ。イリオスは聞き馴染みがないか……とはいえ俺も、王都での行事だから実際に参加したことはないけれど」


 そう前置きしたうえで、セレンが手短に説明する。 

 五月祭は、王国の建国と繁栄を祝う『建国祭』と、女神の祝福に感謝する『女神の大祭』。その二つを合わせた、王都グランディエで盛大に催される祝祭であること。

 祝祭の期間は約一週間にも及び、始まりと終わりの二日間には王宮で舞踏会が開かれ、中日には王都の中央に位置する大神殿で盛大なミサが開かれること。


 そして一年の中でもっとも王都が賑わいを見せる、この数日間。

 なによりも国民が祭りを楽しみにする理由。それは——。


「王都の通りには様々な市が建ち並び、教会や貴族、実業家たちの慈善事業の一環として、所得の低い層には、様々な『施し』がふるまわれる。その品物のことをギフトと呼ぶんだ」

(……たしか)


 一方、セレンの流れるような説明を聞きながら、シアは過去の記憶をたどる。


(慈善事業は一般的な炊き出しから、司祭たちによる治療、その費用を後援したり様々だったはず)


 貧困層の救済が目的なので、基本、無償でギフトを享受できるのは、ごく限られた者たちだけである。

 けれども多くの商会が、富裕層や一定の所得を得ている国民に対しても、この期間だけは破格の値段でギフトを販売するのだった。


(なかでもフラメル商会の施しの品(ギフト)は別格だって、国民から好評だったのよね)


 なにしろ、王国随一の看板を背負っている大商会。

 貴族相手にしか商売をしないルヴォン侯爵家とは違って、フラメル商会の顧客は王家から庶民と幅広い。

 どのような顧客がなにを好み、なにを求めているのか。

 徹底的に調査しているので、嗜好や需要にマッチした『施しの品』は、まさに贈り物(ギフト)なのである。


(五月祭までに、おじい様の協力が得られると確信できなかったから、あまり視野に入れてなかったけれど。やっぱりこの方法が一番効率的かな)


 心の中で、うんうんと、シアが祖父の偉大さを噛みしめていると。

 ようやく事態を呑み込んだイリオスが「え? てことは……」と、たちどころに青ざめた。


「二か月で魔法細工を完成させて、それを量産するってこと!?」


 ちなみに、エスメラルダ産の魔道具を魔塔のものと区別するために、『魔法細工』とそう名付けた。


「まあ、そうだな」

「な……マジで? これから魔法細工に、領地外でも使用できる処置を施して、他者に分解されたり改造されたりしないような仕組みにして、ついでに転売を防ぐような対策も立てたうえで……量産する。それも、エスメラルダよりもはるかに人口の多い王都で、ばらまける量を?」


 そこまで一息に告げながら、ざっと試算したのか、イリオスがひくっと口許をひくつかせる。


「は、はは」


 もう、笑うしかない。

 虚ろな瞳がそう物語っていた。


 セレンもまた、イリオスや緑玉、魔法細工師に降りかかる苦労を思って、戸惑ったような理解が滲むような曖昧な笑みを浮かべる。


「伯爵、いや、おじい様は、未来への投資を惜しまない方だから」


 ついでに付け加えるのなら、合理化も惜しまない、もだろうか。

 だからオズヴァルトが不敵な笑みを浮かべてこう述べても、シアは驚いたりしなかった。


「我が商会は毎年、この祭りで新商品の披露目を恒例としている。今年のギフトとして、魔法細工を広めれば、国民へ布教する時間も手間も省けるだろう。そう、初めの商品として——」


 オズヴァルトが見やったのはクリーム色に塗られた壁。そこへ等間隔に取り付けられた照明だ。


「魔法灯といったか? あれはなかなか便利でいいな」


 本来どこの屋敷でも蝋燭をかける燭台やランタンを掲げる装飾があるものだが、建物自体が魔道具であるようなウィリデ城では、少々趣が違った。

 繊細な模様が施された銅製の胴と、白の曇りガラスでできたシェード。

 鈴蘭を模した傘のなかで、蝋燭や油を燃やした火とは違う、揺らぎのない橙色の明かりが灯っている。


「要は光源が火から結晶石へ転換されただけの照明器具だが、小さい割に彩光は十分。結晶石を動力としているから燃えカスが残ることも、火事になる心配もない。街内の魔道具店でもランタン型の魔法灯が並んでいたから、すでにこの街では普及しているのだろう」

「ええ。防災にも効果的ですから」

「ならば、国民へ普及させる最初の魔法細工としてもうってつけ、ということだ」

「……ですが。あまりにも、ありきたり過ぎではありませんか?」

「そうか? 私の手がける事業としても、これほど趣向が一致するものはないと思うぞ」


 と言うのも、オズヴァルトは王国内で最も貧しい西部の救済事業として、蝋燭の生産を広めた第一人者だ。


 魔法灯の普及していない王国では、経済力のある王族や一部の貴族を除き、皆、蝋燭や火による光源で夜を過ごしている。

 一方、西部は農作には向かない不毛の大地で魔物も多い。

 つまり、オズヴァルトが手を入れるまで、獣脂の原料がうじゃうじゃいるのに、人手が余っている状況が野放しにされていたのだった。


 もちろん、フラメル商会が主導して立ち上げた蝋燭事業は成功した。

 たとえ獣臭い蝋燭であろうと需要は高く、西部の人々は働き口と生活の糧を求めていたのだから。


「蝋燭事業は年々成果を上げている。消費されるものだから、当然だな。ただし、行政や富裕層が買い占めるばかりで、国民全体に行き渡るほど潤沢ではない」


 だからオズヴァルト・フラメルが、新たな光源にかわる資源を求めているのは、職人や同業者の間では有名な話だということだった。


「なにもこの城のように、完璧な照明設備を求めているわけではない。第一の目的は、魔塔の独占市場を揺るがすこと。魔法とはかくあるべきかという認知を広め、情報を正すこと。そして目下のターゲットは、金を落とす一部の上流階級ではなく、大衆だ」

 

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