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【二章終了】回帰の代償~史上最凶の魔法使い『白い悪魔』ですが、今度こそ殿下を幸せにしてみせます!~  作者: 涼暮月
二章

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50 宝石のような街(2)

「う~ん、イチゴ飴も美味しいですが、このリンゴも程よい酸味と甘みで最高です」

「丸のままだとかぶりつきにくいけど、こうやって切ると食べやすいな」


 少し酸味が強めなリンゴは、シャクシャクとした歯触りのあとに飴のパリっとした食感が加わり、果汁もたっぷりとあって初めて食べるお菓子のようだ。


 喉も乾いていたので、ジュース代わりにもちょうどいい。


 しばし無言で飴がけのフルーツを堪能していたふたりだが、一息つくと「そういえば、先ほどの話ですが」と、シアが中断していた話を切り出した。


「いままではバウゼンやクーロンとだけこっそり作物を取引してきましたが、この分だと領が解放されて流通が始まれば、予想よりも大きな利益と変化が見込めますね」


 王都から退き交流を絶ってきた公爵家だが、周辺領主との交流は続けている。

 とくに公爵領の北西に位置するバウゼン伯爵領やクーロン男爵領は、中央貴族とよりも公爵家との結束のほうが強かった。


 王国の中でも辺境にある二領地は、食料面でも魔物からの防衛面でも、公爵家の支援を必要としているからだ。


(他の北部貴族もおそらく同じような状況だけれど。この二領地は財を生み出す鉱山や特産品もなく、かといって王家からの支援もなく、常に困窮している状況なのよね)


「大きな利益って……収穫した作物を輸出したり、改良した苗を流通させるってことか?」


 イリオスはシアの言葉を受けて首を傾げる。


「作物の輸出はともかく、保護魔法の制約があるから苗の流通は難しいぞ。それに客を盗られた南部が黙っているかな?」

「ふふ。そこはやりようです。国で有数の穀倉地帯とはいえ、南部だけでこの国全体の食糧を供給するには、実際に無理があるのです」


 他国を統合して大国になったシュエラ王国は、広大な国土を誇る。

 その四分の一以上を実り豊かな南部が占めるとはいえ、局地的な災害が襲わないとも限らない。


(そもそも食料生産を一つの地域に依存しているいまの体制自体が、国政としてもっとも避けなければいけない悪手なのよ)


 南部貴族はおそらく弱みを見せないよう、虚勢を張るだろう。

 だが遠くない未来、その弱みが暴かれるような事態が起こるのだ。


「実際に過去——いえ、これから数年後には、記録的な豪雨が南部を襲い、収穫前の作物が大きな被害を受けます」

「……」

「そうなったとき、もっとも影響を被るのは北部です。国の端から端へものを流通させるのは非常にコストがかかるうえに、扱っている商品がなま物であれば、目的地へ到着するまでに廃棄せざるを得ない部分も発生しますから」


 いまは人道的な部分を優先し、北部と食料の取引をしている彼等だが、本音はもっと近場で利率のいい相手に売りたいと考えているはずだ。


「ですから我々の市場はあくまでも北部に絞るのです。北部でのみ取引をすれば、南部の市場を荒らすこともありませんし、かえって南部と手を組み、流通の連携がとれる可能性もあります」

「……うん」


 シアの言葉を咀嚼するように、イリオスは顎に手を当て考え込む。


「商売のことはよくわからないが、まあ、北部の食糧問題が解決すれば財政難にある領地も多少豊かになるな。……そうすると、もともと武に秀でた北部は、本来の姿を取り戻すことができる。それで変化が訪れるってことか!」


 今でこそ疲弊した領地の多い北部だが、もともとはイリオスの言った通り、武芸を誇る小国や連合国であったのだ。


 厳しい気候と魔物の多い北部はオーラマスターが育ちやすい土地でもあるから、王国としても軍事力が高まるのは望ましいはずだ。


(そして高まった軍事力は、やがてクロヴィス様の力となる。……まあ、私としてはこちらの方が最も好ましい変化なのだけれど)


 それからと告げると、シアは顔の前に指を一本立ててみせた。


「もう一つ。ある家門が打撃を受けます」

「ある家門……」


 束の間の逡巡の後、イリオスが「あ」と声を上げる。


「東部って言えば、ルヴォン侯爵家か?」

「そうです。南部からの物資はそのほとんどが東部の街道を通過してやってきます。彼らは北部の弱みをいいことに、莫大な通行料で財を得ていますから。その状況が崩れれば、ルヴォン侯爵家にとっては、かなりの痛手となるでしょうね」


 ルヴォン侯爵家はそのほかにも王都で多数の事業を展開しているし、優れた結晶石鉱山を有している。

 つまり魔塔と専属契約を結ぶことでかなりの利益を得ているのだ。

 だが、いつまでも同じ状況が続くとは限らない。


(その構図はすぐに塗り替わる。我が家門がすべての役割を奪うから)


「でも……そううまくいくか」


 不安そうなイリオスの言葉に、シアはゆるく瞬く。


「兄様は、うまくいかないと思いますか」

「うーん。だってあの王后がみすみす許すと思えないしなあ。粛清を恐れて北部貴族はしり込みするかもしれないぞ」

「そこは心配いりません」


 顔をしかめて懸念を漏らすイリオスに、シアはにっこりと断言した。


「武人気質の北部貴族は義理堅いのです。長きにわたり中央から見捨てられ、ルヴォン侯爵家に搾取されてきたことを理解しているので、変化を嗅ぎつければ獰猛にくらいつくでしょう。それになにより、公爵家に救われたという結果が、我が家門に忠義を尽くす大義名分となります」


 回帰前もそうだった。

 公爵家が支えている二家を始め、多くの家門がフエゴ・ベルデを滅ぼした凄惨な事件を解明するべきだと声を上げた。


 ルヴォン侯爵家が北部への物資を差し押さえ、それに反意を示した南部のある一門をも没落させるまでは。譲らない姿勢を見せていたのだ。


(そこに忠義があったかはともかく、北部貴族は確実に王后を追い落としたがっている)


「我が家門が健在であれば、ルヴォン侯爵家がこれ以上の隆盛を誇ることはありません」


 公爵家が陰に隠れた貴族ではなく不動の地位にあれば、王后であろうと迂闊に手は出せない。

 そして王国の守護者として君臨すれば、王ですらも手が出せない。


「たとえ目障りだと感じても、排除できない理由を仕立て上げればいいのです。そのためにも、いくつか策を練っているところですが——」


 そう言うと、シアはぴょんと勢いをつけてベンチから立ち上がった。


「とりあえずは人々の暮らしを豊かにする魔道具、というところでしょうか」


 それから近くにあったゴミ箱へ紙のカップと串を捨て、立ち上がった兄を振り返る。


「イリオ兄様」

「ん?」

「ぜひとも我が領地の粋をつぎ込み、王后の欲すらも刺激するような、そんなとっておきの切り札を育て上げましょうね」

「ああ」


 にっと意地悪く笑い、イリオスは両手を打ち鳴らす。


「もちろん。ついでに魔塔も黒魔法使いも、完膚なきまでに叩きつぶしてやるさ」


 それから二人は、カラフルな瓶詰めや外国からの輸入品らしき食材を取り扱う屋台を通り過ぎ、美味しそうな匂いを放つ軽食の誘惑を振り切って、魔道具店が立ち並ぶ小道へと折れたのだった。


 ***


 十数軒あるエスメラルダの魔道具店は、東地区にまとまっていて、各店舗ともに基本的な生活を助けるような魔道具を扱っている点は変わらない。


 だから差別化を図るため、隣接する工房でオリジナル商品を生み出したり、オーダーメイドの対応や修理を請け負ったりしている。


「どのお店も、大型の魔道具は予約制なのですね」


 木製の戸棚やガラス張りのショーケースに陳列されているのは、雑貨や装身具、ちょっとした小型の魔道具だけだ。


 どこの店舗も店の規模は小さく、ぐるりと店内を一周するのにそれほど時間はかからない。


 けれども店舗数が多いうえに、中には興味深い魔道具もあったので、ついつい時間を忘れてふたりとも没頭してしまった。


「やっぱりどこも一定の基準を満たしているな。あたりまえだけど」


 ようやく最後の店を回り終え、カランカランと涼やかな音色を奏でるドアベルに見送られながら外へ出る。

 店内が思いのほか暖かかったので、ひんやりとした風が火照った頬に心地いい。


 イリオスはうーんと伸びをし、それからシアが抱きかかえる()()()を胡乱げにみやった。


「……ところでさ」

「はい?」

「それ、本当に持って帰るのか」

「もちろんです。だってかわいいでしょ?」


 そう言ってシアが顔の横に抱えて見せたのは、三十センチくらいの猫のぬいぐるみだ。


 黒い毛並みは手触りのいいスウェード素材でできていて、つぶらな瞳は赤い色の結晶石。

 首に巻いた赤いリボンには鈴が取り付けられていて、動かすたびにチリンと鳴る。


 一見すると小さな子供が貰って喜びそうな、とても愛らしいぬいぐるみだ。

 けれども、実はこれこそが例のロメロ王国から持ち込まれたという、いわくつきの魔道具なのである。


「かわいいって……」


 その性能を知っているイリオスは、心底嫌そうに顔を顰める。


「どう考えても全然かわいくないだろ。暗がりに置くと歌い出すんだぞ。それも地獄の底から響くような金切り声で」

「……まあ、そうですね」

「いわくつきって言っても、ただ単に処理に困ったってだけだし。付与されてる魔法式も全然珍しくもなんともないし。言うなればただの不気味なオルゴール付きのぬいぐるみ、っていうかさ——……」


(あーあ、期待外れだったから、拗ねちゃって)


 なおも不満そうにぶつぶつ呟くイリオスに、シアはこっそり唇を綻ばせる。


 このぬいぐるみは先ほどの店で偶然発見したのだが、もっと凄いものを期待していただけに、イリオスは実物を見てとてもがっかりしてしまったのだ。

 だからこんなにもこき下ろすのだろう。


(まあ吹き込んである歌も『呪歌(じゅか)』って言っても差し支えないくらいに禍々しかったから、兄様が嫌がっても無理ないけど)


 きっと他の人に聞いても、十人が十人同じ反応を返すだろう。

 シアとしても触り心地のいい黒い毛並みに目を惹かれただけで、完全な衝動買いだった。


(うーん。あんまり使い道はなさそうね)


 暗い場所に反応して延々と歌い続けるから、倉庫へしまっておくにも自己主張が激しいだろう。だが、かといって魔法を解いてただのぬいぐるみにしてしまうのも、なんだか勿体無い気がする。


「…………」


 つぶらな赤い瞳を見つめながら「とりあえず、どこかに飾っておこうかな」と考えていると、何かを察知したようにイリオスがこう言った。


「それ、自分の部屋に置けよ」

「え? 書庫に置くつもりですが」

「なんでだよ」

「だって夜に騒がしいとか嫌じゃないですか」


 けろりと答えるシアに、イリオスがひくっと口元を引き攣らせる。


「……」


 けれども懸命なことに反論はしなかった。

 代わりに諦めたようにため息を吐き、話題を変えた。


「……それで、店を回ってみての印象はどうだった?」

「そうですね」


 シアは亜空間へぬいぐるみを押し込むと、歩き出したイリオスに並んで質問に答える。


「どの工房を選んでも、技術的には遜色ないでしょうか」 

「ああ。魔道具店は年に二回、緑玉のテストを受けることが義務付けられているからな」

「オリジナルやオーダーメイド商品に使用する構築式も、緑玉の許可が下りないと付与することができないのでしたね」


 魔法とともに発展してきたここエスメラルダでは、魔法使いとは呼べないまでも魔力を宿した領民が多い。


 そのため魔道具の取り扱い方や魔法使いへの法律は、厳しく整備されている。

 もしもルール無く魔道具や魔法を乱用すれば、大事故も起こりかねないからだ。


「そのうえ魔道具師には緑玉の身内も多い。領民の目も肥えてるから、性能の悪い魔道具は絶対に流通しない」

「うーん。つまり、規律を守り安定した品質を守ることに関しては、ほとんど条件はクリアということですね。私の見立てでは六軒目のお店が一番装飾に凝っている気がしたのですが、イリオ兄様はいかがでした?」

「おれは——……」


 ふたりは来た道を戻りながら、それぞれ今まで巡った魔道具店、一軒一軒についての意見を交わした。

 

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