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【二章終了】回帰の代償~史上最凶の魔法使い『白い悪魔』ですが、今度こそ殿下を幸せにしてみせます!~  作者: 涼暮月
二章

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47 おでかけしましょう(1)

「え? おれが必死にラナイのしごきに耐えてる間、二人は仲良くピクニック? しかもエタムに会ってたとか。別に気にしてないし、ほんと」

「に、兄様……」


 結局その夜、シアたちがエタムに会ったという話を聞いてイリオスは拗ねてしまったのだが。

 一夜明けても機嫌は治っていなかった。


(完全にいじけてる)


 例の図書室の奥にある書庫でお気に入りの寝椅子にゴロンと横になりながら、クッションを抱きしめたイリオスは、燃え尽きたような顔で窓の外を眺めている。

 昨日からずっとこんな感じだ。


「いいんだよ。人生何が起こるかわからない」

「……」

「獅子と追いかけっこすることもあるかもしれないし、腹を空かせた熊から逃げるために木登りすることだって、あるかもしれない」

「え」

「人生どこで教訓が生かされるかわからないもんな。絶対あり得ない、なんてことはないんだからさ。……まじで、死ぬかと思ったけど」

「——……」


(あー、ラナイったら……)


 明らかになったラナイの無茶ぶりに、シアは心の中であちゃっと額をはじく。


(いったいどんな鍛錬をしたの? 命を懸けた獅子との追いかけっこに、熊から逃れて木登りだなんて)


 アッシュの場合は暗殺者たちとのリアル鬼ごっこだったが、ラナイもなかなか負けてはいない。


 ここ最近は午前の鍛錬の後でも精力的に動ける体力がついていただけに、精根尽き果てたイリオスのこの様子は、体力的にも精神力的にも相当追い詰められたのだとわかる。


(うーん。幻影魔法を使ったとは思うけど、緑玉の幻影は心臓発作が起きるくらいリアルなのよね)


 頭では幻だと理解していても、本能を騙すのはとても難しい。

 ラナイとしては安全だが確実な方法で、イリオスを追い込みたかったのだろう。

 だがしかし、容赦がない。


(私がいない分、手加減がなくなったか……いや、それにしたって虐めすぎでしょ。しかも、イリオ兄様が拗ねてるもう一つの要因は、昨日のあれにもあるのだろうし)


 一つの心当たりに、シアは眉間に寄った皺を揉んだ。


 体力づくりの訓練はいつも午前中だけだ。

 昨日も鍛錬の後、アルシェ達の研究に顔を出す予定だったのだが、そんなこんなで追い込まれすぎて立ち上がれなくなったイリオスを、ラナイが城へ送り届けたという。


 ——なぜか、お姫様抱っこで。


 背負うでもなく、担ぐでもなく。何故お姫様抱っこなのかと問いたいが、そこはラナイなりの思いやりがあってのことである。たぶん。


 しかし、思春期の少年に『お姫様抱っこ』はダメージが強かった。

 そればかりか追い打ちをかけるかのように、マーサの強壮剤が待っていたのだ。


(これは、機嫌を取るのが難しいかも)


 わかっていたことだが、なだめすかそうが鼓舞しようが、反応が薄いのである。


(仕方ないなあ、もう)


 小さくため息を零すと、シアは兄の前に立ち、覆いかぶさるように身を乗り出した。


「イリオ兄様、元気出してください。ほら、今日は久しぶりに訓練がお休みの日なので、一緒にお出かけしましょう? エスメラルダの魔道具店を巡ろうって、約束したではないですか」

「えー、兄貴と行けば? 今日のおれは安息日、そう決めた」

「——……」

(ふっ)


 予想通りのいじけた反応に、シアは心の中でニヤリとほくそ笑む。


(そう言うだろうと思っていました。想定内です)


 それから左手を腰に当て、右手の人差し指を顔の前で振りながら、思わせぶりにこう言った。


「そんなこと仰っていいんですか? もしかしたら予想外の掘り出しものがあるかもしれませんよ。特にロメロ王国の魔道具とか」

「……なんでロメロ王国?」


 大陸の中でも医療大国と名高い国の名を聞き、イリオスがぴくりと反応する。


「商団がやって来るにはまだ少し早いだろ?」


 うろんげな様子でこちらを見上げたが、緑柱石の瞳に隠された好奇心を、シアはもちろん見過ごさない。


(ふふ、そうですよね。気になりますよね)


 ロメロ王国の医療魔法やそれに関連する魔道具はフエゴ・ベルデの技術ともまた違い、緑玉ですらも一目置いている。


 しかも彼の国は大陸の東端に位置するため、大陸の南寄りに位置するシュエラ王国を訪れるのは、夏と冬の年に二度。

 その中でもエスメラルダには、初夏の頃にしかやってこないのである。


 しかし今はまだ三月。商団の訪問時期にはふた月ほど早い。

 魔法オタクのイリオスが、この異例の来訪に興味を示さないはずがなかった。


(確か商団がエスメラルダを通過するのは、王都への道すがら往路だけ。そのときにロメロ王国の特産品と物資とを交換したり、国内で持て余したいわくつきの魔道具を『寄贈』したりするのよね)


 ロメロ王国とエスメラルダは、公国時代から密やかな交流が続いている。

 領地に張られた保護魔法の例外として、特別扱いが適用されるのもこのためだ。


 もちろん食料や旅の必需品を除いて、エスメラルダの財産を領外へ持ち出せないルールはそのままなので、領内で仕入れたものを商品として販売することはできない。


 だが、外から持ち込んだものを領内へ置いていくことは可能なのである。


(だから医療以外には魔法に関する知識の乏しいロメロ王国にとって、どんな厄介な魔道具でも嬉々として引き受けてくれるエスメラルダの魔道具店は、まさに渡りに船なのよね)


「実は今、ロメロ王国の小規模な商団が市内に滞在しているらしいのです。国営ギルドの所属ではないため正式な訪問にはならないそうですが、街で魔道具店について情報を集めていたと聞けば、何か面白い予感がしませんか?」

「……どうせ、デマだろ」

「あら、私は確かな情報だと思うのですが……そうですね」


 あまり乗り気でないイリオスへ、「うーん」と考える素振りを見せると、シア乗り出していた体を引いた。


「わかりました。イリオ兄様は興味がないご様子ですので、オルタを誘うことにします」


 そのままくるっと踵を返し、扉に手をかけながらさりげなく顔だけ振り返る。


「昨日の帰り道、セレン兄様からお聞きしたのですが残念です」


 そうして部屋を出ようとしたときだった。


「なに、兄貴から!? いく!」


 うん。単純で助かる。

 長兄の名を聞いた途端、ガバッと身を起こすあたり本当に単純だ。


 先ほどまでの、岩の上で日向ぼっこをするトドか、とろけたチーズか、というような姿から打って変わって。いそいそともつれてくしゃくしゃになった髪を手櫛で整えているイリオスに、シアは心の中で大きく頷く。


(昨日、セレン兄様から聞いておいてよかった)


「ほらシア! なにぼうっとしてんだ、時間は有限。とっとと支度!」


 他の人からの情報であればイリオスは信じなかったかもしれないが、イリオスは兄を絶対的に信頼しているのである。



 * * *

 


 そういうことで、気分転換もかねてふたりは街へ出かけることにした。


 エスメラルダの街へ行くには馬車を出すか、東塔の移動魔法陣を使って街の中心に聳える庁舎へ転移するか、二つの方法がある。


 どちらにしろ外出には両親どちらかの許可が必要なので、二人は父のいる書斎を尋ねることにした。


「お父様?」


 執事のロバートが開けてくれた扉からひょっこりと顔を出し、シアは中の様子を確認する。


 公爵はどっしりとした執務机の前で、立ったまま何かの書類を確認しているところだった。

 コートを着たままのところを見ると、またすぐに出かけるようだ。


(忘れ物でも取り戻られたのかしら? お母様もお父様も今日は一日留守だってロブが言ってから、うまくすれば街へ戻るとき、一緒に魔法陣の使用を許可してくれるかも)


 街へ行くための魔法陣は、そのまま庁舎の執務室につながっている。

 そのためシアたちが私用で利用することはできない。だが公爵が一緒なら別だ。


(公爵家の馬車は改良されていて快適だけど、やっぱり魔法の方がずっと早いし、便利よね)


 そんな魂胆を腹に収めつつ、シアは父の反応を伺った。


「いま、お忙しいですか?」

「どうした? 遠慮しないで入ってきなさい」


 促されるまま書斎に足を踏み入れると、書類から移動した鋭い双眸が歩み寄る二人の全身へじっと注がれる。


 やがてひとしきり検分し終えた公爵は、ニヤリと薄い唇の端を持ちあげた。


「街へ出かける準備は万端だな。ロメロの商人が滞在しているとセレンから聞いたのだろう」

「はい!」

(さすがはお父様)


 ラフな格好をした二人を一目見て、ズバリ目的を見抜いてしまった。


 イリオスは、シンプルな灰色がかったシャツにチェック柄のベストとコート、それに色味をあわせたトラウザーズ。

 シアは春を待つような若草色の踝丈のワンピースという、『裕福な商家の子供』といった服装に着替えていたのだ。


「へへ。エスメラルダまで二人で出かけてきてもいいですか?」


 大きな手で頭を撫でられ、笑みを浮かべながらシアは父を見上げる。


「ああ、暗くなる前に屋敷へ戻ると約束できるのなら。お前たちは夢中になると、すぐに時間を忘れるからな。特にイリオス」

「う」

「今は魔法が封じられているのだから、危険なものに手を出さないように」

「はい。気をつけます」


 父が厳しい顔で示したのは、イリオスの左手首に巻かれているフィタだ。緑玉の訓練についてはもちろん公爵にも報告がいっている。


「ロメロから持ち込まれる魔法具はそのほとんどが曰くつき。最初にちゃんと分析してから手を出すようにします」


 きりっと背筋を伸ばして約束を口にする兄の隣で、シアも声をそろえる。


「安心してくださいお父様。お兄様のそばには私もついていますし、実は前から魔道具の生産を委託する工房の下見をしようって話していたのです」


 魔道具の開発は緑玉が行うが、モデルができれば量産はエスメラルダの工房が行う。それは領内で流通している魔道具も同じだ。


「王都へ流通させるとなると、性能の他に見た目の精巧さやその他の機能も大事になってきますから。信頼のおける工房を厳選するつもりです。ね、兄様?」

「ああ、シアの言う通りです父上。ロメロの掘り出し物も……もちろん目当てですが、今回の目的はそちらがメインになるかと」


 イリオスとシアは交互に街を訪れたい理由を説明する。

 すると公爵が「ほう?」と感心したような声をあげた。


「そうだな。耳に入る情報だけに頼らず、実際に現場へ足を運ぶのは情報収集の基本だ。いいだろう。この書類をすぐに片付けてしまうから、庁舎までは一緒に行こう」

「お父様は封臣家門と会議ですか?」

「ああ、いや。これから人と会う約束があるのだ。本当はついていきたいところだが、後で話を聞かせてくれ」


 公爵が出迎える程の客とは、近隣の領主だろうか。「はい」と頷きながら、シアは内心で首を捻る。

 エスメラルダに客人とは珍しい。


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