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【二章終了】回帰の代償~史上最凶の魔法使い『白い悪魔』ですが、今度こそ殿下を幸せにしてみせます!~  作者: 涼暮月
一章

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25  駆け引き(1)

一章クライマックス突入!

……の前に、2話続けてイチャイチャします!

 だがほどなくして、シアの予感は悪い意味で的中した。


 ――第三王子が死んだ。


 国を挙げての狩猟大会で、第三王子一行を魔物が襲ったのだ。

 荒事が嫌いなイザク王子は、狩りに参加しない代わりに、貴婦人らとともに天幕が張られた拠点で、第三王妃主催の茶会を楽しんでいた。その最中のことである。


 当初は事故として片づけられた一件だった。

 しかし現場の検証が進むうちに、事態は急展開を見せたのである。


『第一王子クロヴィス・フォン・ディザインを、第三王子暗殺の容疑者として陛下が承認なされた。詳細が明らかになるまでは、カエルレウス宮にて謹慎されよ』


 王命である。

 事実上の拘束だ。


(やはりこうなったか……)


 何となく予想はしていた。

 魔物の襲撃があった場に、おびただしい血臭と腐臭に紛れてラギメスの臭いがした時に。


「やはり、聖女を味方につけるべきです」

「……」


 予想外の事態を受けて、執務室へ集まった側近たちと共に今後の対策を練っていたシアは、まずそう提案した。


「あちらの思惑は明らかです。このまま殿下を、罪人として亡き者にするつもりでしょう。その過程で直接手出ししてこないとも限らない」


 実際、やつは段々と大胆な行動に出ている。

 魔物を狂わせ、他の貴族もお構いなしにイザク王子を襲わせたのがいい例だ。


「穢れた魔力に対抗できるのは聖女だけ。たとえ殿下がすぐれたソードマスターであろうと、黒魔法使いと対峙すれば勝算はありません」


 けれどやはり。クロヴィスは是とは答えなかった。

 代わりに、感情を消すように瞼を閉じて、こう告げる。


「諸侯へ伝令を」


 それは一種の合図だった。

 ――クーデターへの。


「クロヴィス様!」

「王は乱心なされた。国政にまで影響が及ぶ前に、退位していただく」


 シアの忠言を無視し、クロヴィスは今度こそはっきりと自らの意思を言葉にする。


「必要であれば、武力を持って」


 沈痛な面持ちを浮かべていた側近たちも、揺るぎない眼差しを受けて、ぱっと表情を引き締めた。

 そこに興奮と決意はあれど、躊躇いはない。


「殿下、とうとう心を決められましたか!」

「もう、こうなっては仕方ありません。我々はあなたと共に、どこまでもついていきます」

「今すぐ文書をしたためましょう」


 そして支持者らへ応援を要請するため、それぞれテーブルについて密書をしたため始める。

 一昨年ほど前からすでに、必要な軍備は密やかに整えられていた。いつでも、どんな事態にも備えられるように。


 王都から地方に至るまで、クロヴィスの支持者はこの王国のいたるところに張り巡らされている。それは宮中の兵士や騎士団も例外ではない。

 彼の号令がかかれば、いつでも剣を抜き、正しきものを王位へ導くだろう。

 圧倒的な武力をもって――。


(……それだけは、避けたかったのに)


 真剣な表情でペンを走らせる側近たちの姿を、窓枠に寄りかかって眺めながら、シアは複雑な思いで嘆息した。

 出来ることならクロヴィスには、光の中を歩んでほしかった。

 その手を身内の血で汚すことなく、簒奪者の汚名をかぶらないように……。


(必要なら、邪魔者は私がこの手で排除してみせるし、王を手にかけることだって厭わないのに)


 けれど今のこの状況でシアが動けば、その結果は弑逆という形で、確実にクロヴィス自身へと向かってしまう。


「事態を短期間で終息させるためには王を拘束し、議会の承認を得る必要がある」


 つまり、クロヴィス自身が軍を率いて議会を包囲し、王位の正当性を求めなくてはならないのだ。


「誤報を受けた諸侯らが下手に蜂起し、国民が暴動に巻き込まれるような事態だけは避けねばならない」

「次の議会は三日後。殿下の審問会の時ですね」

「ああ。その場で潔白が証明できればいいが、絶対にないだろうからな」


 自嘲の混じった呟きに、誰もがぐっと言葉を呑み込んだ。

 否定出来たらどれほどいいだろう。けれど、クロヴィスへ罪状を申し渡したのは国王であり、王国の貴族で構成される議会は、国王の決定に逆らえない。

 つまり最終的に王が黒だと言えば、どれほど潔白が証明されていようと黒になる。

 もはや決定が覆される可能性は、ないということだ。


(ただし、いままでに例外がひとつだけある)


「その場に神の意思を伝える者が同席すれば、可能性はあるのでは?」

「シア」

「いくら国王と言えど、神の目の前で嘘偽りを貫くことはできません」


 そのためにもやはり、聖女を審問会の場へ引き吊り出す必要があるのだ。

 だが。


「教会へ申請しても、聖女への面会が叶うのには数日かかる。そのうえで議会へ同席させるとなれば? 途方もないな。時間と労力が無駄になるだけだ」

「……」

「俺の決定が不服か?」


 そう言ったクロヴィスの眼差しは、責めているというよりも、どこか『仕方がない』とでも言うように、寂しさと物悲しさにあふれていた。


 彼もわかっているのだ。

 この方法が決して最善ではないと。

 けれど同時に、自分にはこの方法しかないのだと。


 だからシアは静かに否定する。


「いいえ。あなたが下した決定に、私が否ということはありません」


(たとえそれがどれほど険しい荊の道でも)


 彼が決めたのならシアはそれを成功に導くだけだ。


「では、密書が完成しだい諸侯へ届けてくれ。カエルレウス宮全体が監視されているいま、自由に動けるのはそなただけだ」


 そう告げたクロヴィスの後を引き受けたのは、側近の三人だ。


「頼んだぞ、小娘。この計画はおぬしにかかっているのだからな」

「シア殿、頼ってばかりで申し訳ありません」

「貴方だけが頼みの綱だ」


 そしてジュノーまでもが、切なる眼差しでシアを見つめる。


「どうか、我々の分まで」


 だからシアは頷いた。その言葉のままに。


「ええ、必ず。お役に立って見せますよ」



 * * * 



 その日の夜。すべての後援者へ今後の計画が記された密書を直接届け終えてから、シアはそっとクロヴィスの寝室へ忍び込んだ。


(もう、お休みになられたかな)


 深い青を基調に重厚な家具で整えられたその部屋へ、シアが足を踏み入れるのはこれで二度目。

 一度目は、契約を交わして少し経った頃、揶揄うために忍び込んだのだが――危うく刺客と間違われて殺されそうになった、苦い経験がある。

 以降、クロヴィスに近づくときはわざと足音を立て、極力気配を断たないように気を付けている。が、このときばかりは、その気遣いも必要なかった。


「やはり来たな」

「……」


 部屋に置かれた椅子の一つに、クロヴィスは足を組んで座り、こちらを見つめていた。

 灯のない部屋は薄暗く、彼の表情まではわからない。カーテンの引かれていない硝子戸から差し込む月明かりが、そのシルエットをぼんやりと闇の中に浮き上がらせるだけだ。


「どうあっても、そなたは行くのだろう?」


 クロヴィスは静かに立ち上がると、バルコニーへ続く硝子戸を背に佇むシアへと、ゆっくり近づく。


「あまりにも素直だから、そうだろうと思った」


 短いその台詞の中には、あきらめと、呆れと、それから理解が滲んでいる。

 だからシアも、目の前に立ったクロヴィスへ、誤魔化すことなく本心を告げた。


「ええ。『聖女を味方につけるべき』その考えはどうあっても変わりません。たとえクーデターが成功しようと、黒魔法使いに対抗する手段を講じておくべきなのです」

「そなたでも、大聖堂の最奥へは簡単に忍び込めないぞ」

「そうでしょうね」


 教会は魔法使いを嫌っている。そしてそれ以上に、欲望のままに悪事を働く罪人を、その懐へ招き入れたりはしない。

 教会が疎む要素を二つも有した自分が、厳重に保護されている聖女の元へ忍び込むのはかなりの危険が伴うだろう。見つかれば最悪、その場で殺されるかもしれない。


(聖女にはそれだけの力があるし、私も王国人である以上、『アウラコデリスの祝福』を取り上げられれば無事ではいられないもの)


 それでもシアは出来ると信じていた。いや、出来なければならないのだ。


「クロヴィス様……」


 シアは彼の名前を呼びながら、間近にあるその美しい顔へと手を伸ばす。

 硝子を通して差し込んだ月明かりが、クロヴィスの顔を正面から照らしている。

 淡いブルーの瞳は相も変わらず、表情豊かとはいえないけれど、今の彼は感情の凍った『氷の王子』ではなかった。


「そんなに心配なさらなくても大丈夫です。私は必ず、無事にあなたの元へ戻ります」


 その瞳に宿るのが、シアの身を案じるものだと彼女にはわかっていた。だからこうも続ける。


「止めても無駄ですよ。その命令だけは聞けません」


 命令されればシアは従わずにはいられない。

 だから先に、そうしてくれるなとくぎを刺す。


「……止めたりはしない」


 やがてクロヴィスは、頬に添えられたシアの手を取ると、その平に唇をつけながら囁いた。


「馬鹿だな、そなたは。俺がそなたから自由を奪うことは絶対にない。これまでも、これからも」

「……っ」


 あまりにも甘い仕草に、シアは思わず息を呑む。

 手の平に触れた唇は柔らかく、まっすぐ見つめてくるその眼差しはいつになく優しい。

 だからこそ気の利いた返しもできず、柄にもなく狼狽えてしまったのだが。


「ふ、不意打ちは反則です」

「ん? そうだな。不意打ちはそなたの得意とするところだったか」


 そう言うと、クロヴィスは目に見えて意地悪に、唇の端を引き上げた。


「またしても夜這いに来たのかと、少し深読みしすぎたようだ」

「~~~~」


 過去のことを持ち出され、シアはとうとう音を上げた。

 完全に揶揄われている。


「そ、そこに唇をつけたまま、話さないでください」


 くすぐったくて、ぞわぞわして、むずむずする。

 思わずぎゅっと目を瞑り「離してください」と、懇願してしまう。

 それでようやく解放してもらえたものの、なぜだろう。


(なんか、じっと見つめられている気がする……?)


 シアは片目を開けて、こっそりクロヴィスの様子を窺った。


「……」

「なんですか?」


 なにやら思案するような眼差しに、シアはぱちっと両目を開ける。


「いや……」

「いや?」

「……そなたは迫ることに慣れていても、迫られることには慣れていないのだなと思って」

「!」


 なるほど、としみじみ口にされた発言に、シアの負けん気に火がついた。


(はん、まるで初心な小娘扱いされた気がする!)


 内心でふつふつと対抗心を滾らせ、シアはふっと、初な小娘では醸し出せない妖艶な笑みを浮かべる。

 それから攻勢へ転じた。


「ずいぶんと強気でいらっしゃいますね?」

「そうだな」

「私のことをなめているでしょう」

「そうかもしれない」

「……今のうちに非を認めないと後悔しますよ」

「どうだろうな」

(このっ)


 のらりくらりとした返しに、シアは今度こそカチンときた。


(見てなさい、すぐにその余裕を突き崩してやるんだから)


 そう心の中で言い返し、きらっと瞳を煌めかせる。

 ――と。


「!」

「ふふ、いい眺めですね。クロヴィス様?」


 一瞬にして形勢逆転だ。



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