PAGE.1 魔力無しの貴族令嬢
新作がスタートしました。
PAGE.1の内容が少し長いと思います。
読んで頂けると幸いです。
宜しくお願いします。
(……いよいよ洗礼式だわ)
私はこの日が来るのを心の底から待ちわびていた。
今日という日を、この洗礼式を、私はずっとこのチャンスを待ちわびていたのだ!
私が言う洗礼式とは何か。
シンプルに答えると、年に一度、13歳を迎えた者が神々から恩恵スキルを授かるというもの。
平民は教会。
王族と貴族はアルスガルド王国の城内にある聖堂で行われる。
この世界の大行事の一つよ♪
と言う訳で、13歳を迎えた貴族令嬢の私にも神々から恩恵スキルを授かるチャンスを得られるというわけ(笑)
心待ちしていた感情が爆発して、神の石像の前で私は念を込め、手を合わせて神頼みをした。
(お願いします、アルフィナ様! 私はどうしても、Aランクの恩恵スキルが欲しいのです!)
聖堂には複数の神々の石像があって、私はその中央の神の石像に目掛けて神頼みをした。
見た目からも偉大さと清楚な雰囲気が感じられるでしょ?
くびれる所とふくらむ所がはっきりした体つきをしていて、ルックスもスタイルも文句無しの美しい姿♡
その神を創世の女神アルフィナ様と呼んでいるわ♡
その周囲には戦、知恵、生命、魔法、大地、愛、6人の神々の石像も祀られているの。
ズバリ!
アルスガルド王国は多神教って事(笑)
それにこの7神以外にも、数多の神々はこの世界に存在するのよ。
それの説明をすると数日掛かっちゃうからこの話は別の時にね(笑)
話を戻すけど、とにかく私はアルフィナ様の恩恵スキルがどうしても欲しい!
と、アルフィナ様の石像に目掛けて強い欲望の念を送り続けたわ(笑)
(アルフィナ様、お願い致します。何卒、あなた様の恩恵スキルを私に与え下さいませ! 私の壮大な計画を成し遂げる為にも……)
周囲から怪しまれている事に私は一切気付かず、表顔に良からぬ不気味な笑みを浮かべていた。
が、そんな私の表情から何かを悟った一人の30代前半の男性が私の頭上に握りしめた拳を振り下ろしてきた。
ゴン!
「痛っ!?」と叫び、私は両手で頭上を支え、俯きながら痛みを堪えた。
拳を振り下ろした部分には大きなたん瘤が出来てしまい、「か弱い女性に手を出すなんで、どこの誰よ!」と心の中で叫び、その相手をジロッと睨み付けつてやった。
が、100%の確率で相手が悪かったわ。
睨み付けた相手とは私の父、ラックス・フィン・アッシュフォードだったから……。
「お前の父だが……文句、あるか?」
「……文句はありません……」
父上に心を完全に読まれている!?
絶対に喧嘩を売ってはいけない存在なのに、私は普通に父上に喧嘩を売ってしまったというドジを踏んでしまったわ。
恐ろしすぎて真面に父上の顔を見る事が出来ない。
だって! 父上の身体から凄まじい覇気が漂ってるし、威圧感もバリバリ感じるし、チラッと見たけど父上の表情が鬼の形相になってて、間違いなくこれって、私……詰んでるよね?
ガーン!!
両頬を手で抑え、口も大きく開口し、顔も青ざめてこの世の終わりのような表情をしていると、背後から若い男性が私に爽やかフェイスで微笑みながら気軽な雰囲気で声を掛けてきた。
「マレンは相変わらずだな(笑)」
「……ロイス……」
「ラックス殿、お久しぶりです」
「これはロイス様! 久方ぶりでございます」
「そう、畏まらないで下さい」
颯爽と姿を見せたのは、アルスガルド王国の第三王子である、ロイス・フィン・アルスガルド。
ちなみにロイスと私は幼馴染みであり、許嫁でもあり、私の初恋の人なの……♡
その事はもちろん、ロイスも知らない……。
だって、私の最大の秘密なのだから♡
父が床に跪くと、ロイスが慌て始めた。
頭を上げて欲しいと父に頼む姿はいつ見ても異様な光景だ。
普通、王族は貴族にべこべこはしないでしょ?
「……ロイス……変わってる……」
「へ?」
「……王族なのに……父上にべこべこしてる……」
「年上の人が床に跪ついているんだから、慌てるのは当たり前だろ?」
「……そんなものなの?……」
「そんなもんだよ」
なんか、ロイスにいいように丸め込まれたような気か……
「気のせい、気のせい(笑)」
ロイスにも私の心を読まれてる!?
「さすがに心を読むスキルは持ってないよ(笑) マレンの表情が分かりやすいんだよ(笑)」
私って、そんなに分かりやすい表情をしているのかな?と思いながら、自分の顔をベタベタと触っては確認していた。
触っても分からないんだけどね(笑)
と、一人ツッコミをしていると、ロイスの顔が私の顔に接近してきたのだ!?
しかも、その距離は1cm!?
これはどういう状況なの!?
ロイスもロイスで甘い顔で「マレンのその表情も仕草も可愛いよな(笑)」と言いながら、私の頭上を優しく撫でてくる。
そんな事をされたら顔が真っ赤になって、やかんのように沸騰しちゃうよ!
というか、もう沸騰しちゃってま~す♡
「……は……恥ずかしいよ……」
「恥ずかしい? 何か?」
「……ロイスは……天然すぎるよ……」
「そうかな?」
「……そうだよ……」
ゴホォン
「……二人共、イチャイチャはその辺にして頂こうか?」
軽く咳払いをし、明らかに私のみを睨み付ける父上に、私はただ恐怖するしかなく、なるべく視線を合わせないようにしていた。
「ラックス殿は固いですね。マレンは私の許嫁ですよ? 私とマレンがイチャイチャしてて何か問題なんですか?」
「……ロイス……声が大きい!……皆の前で許嫁と……叫ばないで!……」
「何で? マレンは私の許嫁でいるのか、そんなに嫌なのかい?」
「……わ……私……コミュニケーション力が……低いのを……知ってるでしょ?」
私は幼い頃から人と関わる事、会話する事が苦手で、普通の人以上にコミュニケーション力が底辺並に低い。
唯一私とコミュニケーションを取れる人間は、父上とメイドのユーフィとロイスだけだ。
「昔と比較したら、随分とコミュニケーションが上達したと思うけどな」
「……ロイスだから……喋るんだよ……」
「そっかぁ……私だけの特権って事か(笑)」
ロイスはさりげなく私の顎に触れ、1cmの距離があるかないかの距離感で顔を私の顔に近付けてきた。
この男は恥ずかしいという感情を持ち得ていないのか!
と、ツッコミを入れつつも、本心はめちゃくちゃ嬉しかったりして♡(笑)
「もう一度聞くけど、マレンは私の許嫁でいるのか嫌なのかい?」
「……嫌……じゃない……私……ロイスの許嫁になれて……嬉しい……」
赤面しながら俯いた状態でモジモジしながら、ロイスの質問に返答した。
「モジモジしてて、照れている姿もめちゃくちゃ可愛いな♡」
「……ロイスの……バカ……」
ロイスの発言通り、ロイスは私の許嫁。
私の父とロイスの父は昔からの旧友であり、私達の婚約も二人が決めたもの。
ちなみにロイスの父は、このアルスガルド王国の国王である、フェルト・フィン・アルスガルド。
私がロイスの妻になれば、この国の王妃となる……予定(疑問形)。
そうなれば、国王は私の義理の父親となる……かなりのプレッシャーよね、これって?(笑)
「マレン、緊張してるかい?」
「へ?」
「そろそろ君の番だろ?」
「……うん……緊張よりも……ワクワクはしてる……でも……ちょっと不安……」
「そんな風には感じないけどな?」
「……ロイスは……どうだったの?……」
「私か? 私は戦の神ヴァルカス様からAランクの恩恵スキル【戦神】を授かったよ」
ロイスは王族らしく、戦の神ヴァルカス様から恩恵スキルを授かった。
【戦神】というAランク以上のスキルらしい。
騎士の道を進むのであれば、これ以上のないロイスにとって最高のスキルだと思う。
「……凄いね……ロイスは……」
「そうかな? どんなスキルを授かったとしても、使う側次第じゃないかな?」
「……使う側次第?……」
「そう。」
ロイスは相変わらず楽観的だった。
そんなロイスと対照に私は真逆の気持ちだった。
楽しみにしている気持ちと反面、不安な気持ちもある。
不安の理由は、魔力無しの貴族令嬢だからだ。
この世界では、魔力無しの貴族は貴族として認知されないのだ。
幼い頃から周囲に白眼視で見られ、私は魔力無しという劣等感に苛まれてきた。
でも、それは今日で終わりよ!
今日の洗礼式で魔力無しを凌駕するAランクの恩恵スキルを獲得すれば、問題が全て解決する。
が、万が一に外れスキルを付与される事があれば、私の運命は破滅のルートへと突き進む事になる。
それだけは絶対に回避したいのだ!
「……私……魔力無しだから……」
「へ?」
「Aランク以上の……恩恵スキルが……欲しいの……」
「マレン、そんな事をまだ気にしてたのか? 魔力なくたって君は君だろ?」
「……ロイスは……いつも優しいね……でもね……Aランク以上の……恩恵スキルがないと……私……侯爵令嬢として……いられないの……」
「それはどういう意味たい?」
私がAランクの恩恵スキルを希求している理由、それは洗礼式でAランク以上の恩恵スキルを授からない場合、アッシュフォード侯爵家から勘当されるという条件があったからだ。
つまり勘当されれば、貴族令嬢ではなく平民となり、ロイスとの婚約も白紙となってしまう。
そんな破滅のルートを私は望んでなんかいない!
「理由を知りたいですか、殿下?」と悪趣味な黒色の扇子を扇ぎながらロイスと私の方へと歩を進める父上と同年代の女性。
妖艶な雰囲気が漂うこの女性は私の母上だ。
「お久しぶりでございます、殿下」
「これはこれは、ご無沙汰ですね、リアンナ殿」
なんで、母上がここに?
「マレン、その顔は何かしら?」
「へ?」
「私にここへ来て欲しくなかったのかしら?」
「……それは……」
「でも、安心しなさい。洗礼式に来た理由はあなたの為じゃないから。私の娘の為よ(笑)」
だと、思った。
母上が私の為に洗礼式に来る訳がない。
私の事を娘とは思っていないのだから。
あの人が娘と思っているのは、双子の妹のカノンだけだ。
そのカノンも洗礼式に来ているようだ。
「……カノンは?」
「あの子なら後から来るわ。まあ、あなたには関係ないけどね(笑)」
冷たい視線。小馬鹿にする態度。この人は昔から全然変わらない。
魔力無しと分かった日から、私の事を娘として見なくなった。
今回の勘当の件も母上が提案したものだ。
魔力無しの上にAランク以下の恩恵スキルを持つ者はアッシュフォード侯爵家には必要ないと。
私がAランク以上の恩恵スキルを授からない前提で話を進めている。
だから私は、母上の思惑通りに進む気は毛頭ない。
「マレン、リアンナ殿とは相変わらずの関係みたいだね」
「……うん……」
「リアンナ殿、洗礼式が行われますのでお話は後程……」
「そうですわね。マレン、楽しみにしてるわ(笑)」
私を嘲笑いながら母上はこの場を去った。
「大丈夫かい、マレン?」
「……助けてくれて……ありがとう……」
「婚約者として当たり前の事をさせて頂きましたよ、私のお妃様(笑)」と、ロイスは私の額に軽くピッとデコピンをする。
不意打ちだった事もあり、私は照れ臭く頬を真っ赤に染めていた。
「それでは今年度の洗礼式を行います。順にお呼びしますので、名前を呼ばれた方は聖壇の前にお越し下さい」
年配の女性のシスターが洗礼式の開始の挨拶を始めた。
聖壇には大きなサイズの碧色の水晶が浮遊していた。
その水晶に接触する事で神々から恩恵スキルを授かり、手の甲に神紋が刻まれる。
神紋の模様と色でランク別けがされている。
模様は神紋器の形状になっている。
例えば、剣、弓、槍、杖、斧etc。
色は、虹、金、銀、白、碧、緑、紅、黒。
虹、金、銀、白、碧、緑、紅、黒という形でランク別けをされている。
神紋が刻まれた者のみに神紋器が扱う事が出来る。
「マレン・フィン・アッシュフォード様、聖壇の前までお越し下さい」
私は聖壇のシスターに呼ばれた。
いきなりのトップバッターだった。
もし万が一Aランク以下の恩恵スキルを授かれば、私の人生はジエンド。
破滅のルートにまっしぐらとなる。
(……だから……お願いします……アルフィナ様……私にAランク以上の……恩恵スキルを……授けて下さい……お願いします……)
恐る恐る私は聖壇の前に浮遊している巨大な水晶まで歩を進めた。
周囲の視線が凄く嫌って程に感じる。
白眼視の視線もあれば、温かい視線も数少なからず感じられた。
多分、これはロイスと父上だろう。
視線すら感じないのはきっと母上だ。
私に関して全く眼中に無いのだろう……。
「マレン、アルフィナ様と自分自身を信じるんだ!」
「……うん……」
ロイスの声援で勇気が出た私は頑固たる決意で水晶に接触する事にした。
とは言ったものの、手の震えが止まらない。
「ふ~」と一回吐息をし、気持ちを落ち着かせて水晶に触れた。
ん? あれ? 何も起きないわよ?
水晶に触れたものの、光が放つなどの大きな変化が一切見られないのだ。
私が怪訝な表情をしていると、周囲も状況が飲み込めずあたふたしていた。
「何も起きない?」
「……故障?……」
「それはありません。何も起きないという事は決してありません。調べますので離れてお待ち……」
聖堂のシスターが水晶が起動しない理由を調べようとした瞬間、水晶側から「ギィギィ」という鈍い音がし、それ以外にも「ザーザー」という雑音も聞こえてきた。
「なんだ、この音は?」
しばらくすると、音が一瞬で静止した。
「……音が……止まった……」
音が収まったと同時に水晶が突然、凄絶な碧色の閃光を放ち、碧色の光は私を飲み込んでいく。
え!? な、なに!?
碧色の光が私を侵食していく!?
碧色の光に侵食されたと思った瞬間、私は目を閉じた。
ん? あれ? 痛くはない……
身体からは痛みも違和感も感じない私は、様子がおかしいと思い瞼を開けて見ることにした。
ゆっくりと瞼を開けてみると、視界に映ったのはさっきと代わり映えもしない聖堂だった。
あれ? さっきの碧色の輝きは?
一体、どうなったの?
ピコン♪
ん? なに、今の音?
音と共に私の目の前で表示画面が展開された。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
創世の女神アルフィナより
『文字』
授かりました
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アルフィナ様から恩恵スキルを授かったって事?
しかもこの『文字』ってスキルの字、どこかで見たような……。
『文字』の字に見覚えがあった私は思考をフル回転させた。
パッと思い出せないという事は、普段は目を通さないもので見た可能性がある。
だとすれば、数年前に私が調べていたルーン文字で書かれた古の書物かもしれない。
更に思考をフル回転させると、古の書物にルーン文字で『文字』と書かれていたのを思い出した。
ルーン文字で書かれていた為、全ての文字を読み取る事が出来ず、一部分の文章しか読み取れなかった。
現状で私が『文字』で知っている情報は、数千年前に存在したスキルという事だけ。
後の文章は分析中であり、能力に関しては何も分かっていない。
取り敢えず私は何も知らない振りをして、近くにいた聖堂のシスターに『文字』というスキルについて質問をした。
「……あの……」
「は、はい!」
「……この……ス……スキル……何?……」
「このスキルですか? そ、その……少々お待ち下さい!」
聖堂のシスターが慌てて分厚い書物で何かを調べ始めた。
あの慌てようはシスターもあのスキルに関して何も知らないようだ。
「お待たせしました」
「……分かった?……」
「調べましたか、このスキルは書物にも記載されていないスキルという事が判明しました」
「へ?」
「マレン様、神紋を拝見させて頂けますか?」
私はシスターに言われた通りに自分の手の甲を見せた。
が、シスターの反応がおかしかった。
怪訝な表情で何度も何度も私の手の甲を確認するのだ。
「そ、そんな!?」
「……どうしたの?……」
「手の甲に神紋がない!?」
「へ?」
「不明のスキルに、神紋がない……」
って、結局はどういう事なの?
「……現状で言える事は神紋器がない恩恵スキルを授かったという事です」
「……つまり……」
「マレン様のスキルはランク外の外れスキルという事になります」
「へ?」