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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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神を壊す魔法

「ふはははは! アリステルめ、やりおったわ!」


 会議は竜人族(ドゥムイス)の長の豪快な笑いからはじまった。


「グラガン、笑い事ではない。人間の軍隊が橋を渡ろうとしたのだぞ」

「結局、渡りきらなかったではないか。問題なかろう」


 グラガンは上機嫌に鼻を鳴らす。


「そして今や人間の国とを結ぶ唯一の陸路はなくなり、開戦の危機はふたたび遠ざかった。すべてアリステルのおかげだ!」


 アリステルのおかげという言葉に魔王フリエオールは軽く頭を抱えた。

 グラガンは昔から玄孫であるアリステルにことさら甘いが、今回はとくに肩入れしているように思えた。

 理由はおそらくアリステルが使った“謎の魔法”だろう。

 見る者が見ればあれが二十四種のどの源理にも属さない力であることは明白だった。

 『秘匿源理』と呼ばれ、始祖の魔王アリカトルヤがその存在を示したものの未だ誰も見つけることができていない幻の源理。魔法の本質であり神髄。すべての研究者が目指す頂をアリステルは見出したのかもしれない。

 すでに“塔”やその周辺ではこの噂で持ちきりだった。


 ちなみに、魔王と共にアリステルの魔法を目の当たりにしたメリッサは興奮のあまり熱を出して倒れた。

 体内に<火>の源理を多く持つ竜人族が熱を溜め込みすぎるとこうなる。

 重度のアリステル推しであり魔法マニアであるメリッサには刺激が強すぎたようだった。


「問題なのはぁ、橋が壊れたことじゃなく()()()()()()()()という点だと思うのぉ」

「どういう意味だ?」


 長耳族(ルネース)の長イルミナが口を開いた。

 いつもの眠そうな眼差しはなりをひそめていた。


「あの橋はぁ、私たちのご先祖様がこの世界に来る前からあるでしょぉ」

「うむ。『大樹』と同様に創世の際に神がお作りなったと言われておる」


 女神に仕える神官でもあるグラガンが答える。


「神様が作った物はぁ、神様にしか壊せないのぉ。でもぉ、姫様は壊せちゃうのよねぇ。それって大変なことじゃない?」


 そこまで聞けば、イルミナの言いたいことが魔王にも理解できた。


「つまり、あの魔法は『聖遺物』を破壊できるということか……!?」

「たぶんねぇ」


 魔王は驚愕する。

 事実なら、人間の王たちは今頃大混乱に陥っているだろう。


「陛下、どういうことでしょう? 確かに『聖遺物』は人間たちの戦力を大幅に底上げしていますが、そこまで大ごとなのでしょうか?」


 ティウルが聞いてきた。

 確かに生粋の武人であるティウルにはピンと来ないのかもしれない」


「聖王国の『剣の結界』を知っているであろう」

「はい。確か王都を守る障壁のようなもので、害意ある存在が触れれば立ち所に切り刻まれるとか……あっ!」


 どうやらティウルも気付いたようだった。

 人間の国の首都には『最終防衛装置』のようなものがある。

 それらもまた創世の時から存在し『大聖遺物』と呼ばれていた。

 この数千年、暗殺や内部の反乱で王が討たれたことはあっても、他国からの侵略や魔物の襲撃で滅んだ国はただの一つもない。

 その理由が『大聖遺物』だった。


「ウティルエの『守護機神(ガーディアン)』、ディオス帝国の『大鐘楼(アンガー・ベル)』、イルランドの『白銀湖(はくぎんこ)』……どれも絶対の守りを誇る国の防壁だ。『大聖遺物』がある限り王のいる都が脅かされることはありえない。人間たちはそう信じていただろう。昨日まではな」


 創世の神が作った物は壊すことはおろか傷一つつけることができない。

 その常識が崩れた今、人間たちはどう打って出るか。

 アリステルを──魔族を脅威と見なして一刻も早く滅ぼそうとするか。

 それとも、恐れを抱いて今一度和平への道を選ぶか。

 今の時点ではどの国も決めかねているだろう。


「ケンネルは戻っておらぬのか?」

「各国の様子を探りに向かうと連絡がありました」

「同盟軍の演習が終わったなら一度戻るよう言っておいたはずだが……」


 魔王の問いかけに小鬼族(グイブル)の宰相が答えた。

 おそらくケンネルもアリステルの魔法が人間たちの国に与えるであろう衝撃に気付いたのだろう。

 秘密と騒動が大好きな草走族(アイーティ)にとって、今や世界中がオモチャ箱になったようなものだ。

 喜び勇んで他国へと向かうケンネルの姿が見えるようだった。


「まあいい。今は各国の出方を知るのが先決だ。そして和平への道をふたたび見出さねば……」


 無駄な努力と思われるかもしれないが、亡きフランツ王のためにも諦めるわけにはいかなかった。


「タイユウよ、ギヨッド河に橋をかけるとしたらどれくらいの時を要する?」

「そうだねぇ。今すぐはじめても二十年ってところかな」


 豚鼻族(イディク)の長は答えた。

 二十年は、魔族にとって決して長い時ではない。

 だが人間にとってはそうではない。

 十年もあれば、政治的状況がどう転ぶかわからない。

 地道な和平への努力は続けねばならないだろう。


海洋都市国家(ウティルエ)との交渉は続けているか?」

「はい。水竜族(ディフィルク)が間に立ってくれております」

「あの魚どもが協力だと?」


 グラガンは露骨に顔をしかめた。

 竜人族(ドゥムイス)水竜族(ディフィルク)はお互い龍を祖とする種族だが、昔から犬猿の仲だった。

 原因は、アリカトルヤが魔族の国を作ろうとした時、水竜族(ディフィルク)だけが氏族の一席として加わらなかったことに起因する。

 魔界の“統一”にこだわる竜人族は水竜族も加わるように粘り強く説得を続けた。

 ところが、そんな竜人族に水竜族が言い放った言葉は──


「暑苦しい」

 

 だった。

 これ以降、二つの竜族は互いに顔を合わせるのを避けるようになったという。

 熱い性格の竜人族とクールな水竜族の反りが合わないだけという説もある。

 だが、地上と海という大きな生活圏の違いもあり“魔族”の一員にならなかっただけで友好的な関係にはあった。


 海をナワバリとする水竜族と海洋都市国家(ウティルエ)の関係は長い。

 ウティルエがサルラ同盟に加わった後も表だっての交流は控えながらも互いに取り引きは続けている。


水竜族(ディフィルク)の長と一度話しがしたい。私が出向くと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 人間界との陸路がなくなった今、唯一の窓口がウティルエだった。

 細い糸ではあるが、すべてが無に帰したわけではない。

 アリステルのやったことは、良くも悪くもサルラ同盟の在り方を大きく変えるだろう。

 ならば父として娘が作りだした流れを良い方向に導かなければならない。

 そう自分に言い聞かせて魔王は息を吐いた。

※こっそり竜人族の長の名前を変更しました

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