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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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あの子はいない

昨日の更新では間違えて同じ話を投稿していまいました。すみません。

正式なものに差し替えておりますので、よろしければ前話からどうぞ。

 日が傾いた頃にアン、リズ、メイの三人は裏通りを歩いていた。向かう先はマトゥーカの店だ。


「あー、さすがに寝過ぎたわ」

「なに言ってんのよリズ。あんた、あたしが起こしに行かなかったら今も寝てたでしょ」

「お昼ご飯食べ損ねちゃったぁ」


 三人はいつもの調子を取り戻していた。

 広場を占拠していた舞台も昼間のうちに早々に撤去されている。

 それもこれも、いつもの日常を早く取り戻したいという街の住人たちの想いが強かったからかもしれない。

 三人が店の前にやってくると、この時間にも関わらず店の前には人だかりができていた。

 集まっているのは皆、店の常連たちだ。


「あんたたち何しに来たの? 店はしばらく休業だよ」

「あたしらはこれから荒らされた店の片付けをしにきたんだ」

「残念だけどぉ、ごはんは余所で食べてくださいねぇ」

「いや……その……」


 ところが常連たちはばつが悪そうにしつつも立ち去ろうとはしなかった。


「もう、いったいなんなのよ」


 呆れたアンが溜息まじりに聞く。

 すると、常連の一人が意を決して口を開いた


「お、俺たちに何か手伝えることはねえか!?」


 思いも寄らない言葉に、目を瞬かせるアンたち。

 常連たちは理由を口にする。


「俺たち、マトゥーカが連れてかれる時、見てることしかできなかったからよ。その、罪滅ぼしというかなんというか……」


 彼らはマトゥーカが鞭打たれるのを見ていたのだという。

 鞭を受けとるなんてことはしなくても、止めに入ることができなかった。

 そのことにひどく申し訳ない気持ちがありいてもたってもいられなくなって様子を見に来たのだった。


「あの時、鞭で打たれたのが女房や娘だったらって思うとよぉ」

「アリスちゃんは教会の連中に立ち向かったのに、俺たち情けねぇよな……」

「ウジウジウジウジうっとおしい!」


 アンが常連たちを一喝した。


「情けなかったと思うなら、次は頑張ればいいじゃない。いつまでも引きずってるんじゃないよ! ほら、片付け手伝うんだろ! さっさとついてきな!」

「は、はい!」


 思わず直立不動になった常連達を引き連れて店に入って行くアン。

 ところが、店の中はすっかり片付いてしまっていた。


「ど、どうなってるの? 今朝はあんなに荒れ放題だったのに……」

「おや、雁首揃えてどうしたんだい」


 アンたちが驚いていると、店の奥からマトゥーカが出てくる。


「マトゥーカ! もうケガはいいのかい!?」

「貴族の旦那が魔法で治してくれたよ。それより、店を片付けたのはあんたたちじゃないのかい?」


 マトゥーカはアンたちに尋ねた。


「ううん。あたしたちは何も」

「日も昇り始めてたし、いったん帰って休んでからまた来ようってことになったの」

「お腹も空いちゃったからぁ」

「そうかい……じゃあ、やっぱりあの子がやってくれたんだろうね」


 マトゥーカの言う“あの子”が誰なのか、皆すぐに気付いた。


「いくらなんでもあれを一人でぜんぶ片付けるなんて……」

「そうだよ。壊れた椅子やテーブルまで直ってるんだよ?」

「アリスならきっとやっちまうさ。特別な子だからね。そこの樽を見てごらんよ」

「これって……確か、あの司祭が壊したヤツよね?」

「魔法がかかった樽なんだっけ」

「でも、新品みたいに元に戻ってる」

「その樽と一緒に、アリスの置き手紙があったよ。“迷惑かけてごめんなさい”だってさ」


 マトゥーカから手紙を受け取ったアンたちは中身に目を通す。

 そこにはマトゥーカへの感謝と顔も見せず街を去ることへの謝罪が書かれていた。

 そして、せめてものお礼に店と大事な魔法の樽を直していくと。

 急いでいたのだろう。別れの手紙としてはとても短いものだった。


「謝ることなんかなんにもないのにねぇ。むしろ礼を言うのはこっちのほうさ。あたしは何度もあの子に助けられたんだから」

「アリス……行っちゃったのか……」

「もともと、こんな小さな街に長く留まるような子じゃなかったのさ」


 マトゥーカはさっぱりとした口調で言う。だが、その横顔にはどこか寂しさが感じられた。


「ところで、あんたたち腹減ってんじゃないのかい?」

「え……いや……だけど……」

「なに遠慮してんだよ。店は元通りだし、あたしもしっかり休んで元気いっぱいだ。だったら店を開けないのは勿体ないじゃないか」


 そう言って、マトゥーカはいつものように豪快に笑った。


「あたし、準備してくる!」

「あたしも!」

「やったぁ、夕飯はマトゥーカさんのまかないだぁ」


 アンたち給仕三人娘がドタバタと店の奥へと駆けていった。

 激動の一夜が明けて街は日常を取り戻そうと動きはじめていた。

 ただ、そこにあの明るくて風変わりな少女の姿はなかった。


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