魔王らしくいこう
兵士たちを指揮するジェイムソンは泣いていた。
剣を教えて兵法を説き、幼い頃より可愛がっていたエドワードの死。
理不尽な運命に嘆き、共に王子の仇を討たんと立ち上がってくれた兵士たちの心意気にも心が打ち震えていた。
戦場で度々泣く彼を“滂沱のジェイムソン”と呼ぶ者もいる。
ジェイムソンについてきた兵の数はおよそ二〇〇。
聖王国の他にイルランド、グディア連邦の兵たちがいる。
北の帝国と南の海洋都市国家の兵たちは加わらなかった。
両国とも元よりサルラ同盟には慎重な立場を見せている。
ジェイムソンに彼らを責めるような気持ちは毛頭無い。
むしろ二〇〇名もの勇敢な者たちが集まってくれたことにこそ感謝し、感涙していた。
「全軍このまま進め! 殿下の……勇者エドワードの弔い合戦である!」
ジェイムソンは自分に付き従う兵達に向かって高く右手を掲げる。
それに呼応するように兵達から鬨の声が上がった。
その時だった。
「ちょおっと待ったー!」
場違いな若い女の声が、ジェイムソンたちを立ち止まらせた。
* * *
「ちょおっと待ったー!」
やっとのことでギヨッド河に到着した私は、すでに橋の中程まで来ている兵の一団を見つけた。
そこで、慌てて止めようと声をかけてみたんだけど……。
兵士たちは突然現れた私を見上げてぽかーんとしていた。
うん。第一声を間違えたかもしれない。
いや、でも他になんて声かければよかったんだ?
まあいいや。とにかくエドワードが生きていることを伝えないと。
「エドワード王子は死んでいない。だから仇を討つ必要なんてない」
今度は兵士たちが困惑していた。
うーん、今度も何か間違ってしまったようだ。
「殿下が生きているだと!? なぜそのようなことを知っている!」
私に向かって声をあげたのは先頭で兵士たちを率いている人だった。
確か、ジェイムソン将軍だっけ。エドワードが大好きおじいちゃん。
「だいたい、貴様は何者だ!」
「え? 私? 私はその……王子の知り合いっていうかなんていうか……」
「嘘を言うな! 貴様のような怪しげな者が殿下の知り合いのはずがない! 人が宙に浮かぶなどありえん!」
「へ?」
あ、そうか。
りっくんの姿は他の人には見えないんだった。
ってことは、彼らには突然現れた黒いマントの女が宙に浮かびながら「王子様は死んでないよー」なんて言ったことになるわけだ。
うん。そりゃ怪しすぎるわ。
「将軍、相手にする必要などありません。進軍しましょう。エドワード殿下の無念を晴らすためにも」
「う、うむ。そうだな。我らの進軍を阻めば容赦せんぞ!」
兵の一人がおじいちゃん将軍にそう進言した。
……なるほど。こうやって焚きつけられたのか。
ってことは兵士の中に、ナントカ司祭の手下か何かが紛れ混んでるんだろう。
「進軍再開! もはや我らを止めるものはなし!」
ジェイムソン将軍率いる兵たちがふたたび進軍を始める。
「だから言ったじゃろう。話してわかるようなら魔族も人も争ってはおらぬのじゃ」
「わかってるわよ。一応、声をかけてからにしようと思っただけ」
こんな世界だけど、いや、こんな世界だからこそいきなり力に訴えるのは良くないと思うのだ。
とはいえ言葉だけではどうにもならないことの方が多いのも理解している。
だから、ここまで来たら私も魔王らしくやるしかない。
「<火巨人の逆毛>!」
私の呪文に源理が応える。
無象無形の魔力は燃えさかる炎の壁という現象へと変換され、兵士たちの行く手に立ちはだかった。
「ぬぅ! これは魔法か!?」
「ほう、その程度のことはわかるようだな」
たじろぐジェイムソン将軍に向かって私は余裕たっぷりに言って、被っていたフードをとった。
天を突くように伸びた二本のツノが陽光の下にさらされる。
「そのツノ……! 貴様、魔族か!? ……いや、だが、なぜそのようなものを被っている?」
一瞬、驚愕した将軍だったが私が頭から被っているズタ袋を見て怪訝そうに眉を寄せた。
うん、まあそうなるよね。
「これは一身上の都合。顔出しNGというやつだ」
「かおだしえぬじー……?」
「それはともかく!」
わかんないか。わかんないよね。
とりあえず勢いで乗り切っちゃおう。
「愚かな人間ともよ! 誰の許可を得て魔界へと足を踏み入れようというのか! あまつさえ、我が慈悲を讒言と吐き捨て耳を傾けぬ始末! その愚行に相応しき報いと恐怖を与えてやろう!」
私が合図を送ると、りっくんは一度大きく羽ばたいてさらに上空へと舞い上がった。
「よし。この高さなら、橋が一望できるわね」
「そなた、本気でやるつもりかや」
「当然。ていうか、今までどうして誰もやらなかったのかって話よ」
「それは……まあよい。やってみるがよい。期待しておるぞ」
期待してるなんて、りっくんにしては珍しいことを言うもんだ。
なんかちょっと、気合いが入ってきた。
「じゃあ、いっちょやっちゃいますか!」




