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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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龍の背に乗って

 空の端は微かに白み始めていた。夜明けが近い。

 だけど、この速度ならきっと間に合うはず。

 

 はて? そういえば、この世界では空を飛ぶのは御法度じゃなかったっけ?

 神様の罰が当たるとかなんとか。


「ねえ! 今さらだけど、こんなに高く飛んで大丈夫!?」

「案ずるな。このくらいであれば問題ない。アレが気まぐれでも起こさぬ限りはのう」

「アレ……?」


 私は顔を上げた。

 目を凝らしてみると、そこに薄らと何かが浮かんでいた。


「なにあれ……!?」


 なんとそれは恐ろしく()()()()()()()だった。

 

「『ミドガルズオルム』じゃ。この地の生き物を守り、閉じこめる忌々しい蛇よ」

世界嚥殻(ミドガルズオルム)……」


 その名には不思議と聞き覚えがあった。

 だいたいあんな巨大なものをすぐに「蛇だ」とわかるのもおかしいでしょ。

 どうなってんだ私。

 そうやって私が頭をひねっていると巨大な蛇の身体がスルスルと動き始めた。


「ねえりっくん! なんか動き出したんだけど!」

「ふん……あやつもそなたが気になるのじゃろう」


 りっくんの言う通り、雲の切れ間から超巨大な蛇の顔が現れる。

 その目は間違いなく私を見ていた。

 こんだけ大きいのに見つめられるとさすがに怖いんだけど!


「ていうか、こんなに大きなものが空にいるのに誰も気付かないの?」

()()()()()()()()()()からのう。そういう存在じゃ」

「それって……りっくんと同じってこと?」


 りっくんは、なぜかその質問には答えてくれなかった。

 こういうことがたまにある。

 滅びたはずの龍。

 私にしか見えない存在。

 もしかしたらりっくんはこの世界の秘密に深く関わっているのかもしれない。


「それよりそなた、またツノが生えはじめておるぞ」

「え……!?」


 慌てて頭を触ってみる。

 確かに、短いがツノが生え始めていた。


「そっか、大きな魔法を使ったから<肉体変化(シェイプシフト)>の効果が切れかけてるんだ」

「どうするのじゃ? かけ直すかや?」

「ううん。やめとく。どうせこの後、とびっきり大きなのを使うことになるから」

「どうやら策の一つくらいはあるようじゃのう」

「まあね。不本意だけど私の()()()よ」


 そうしてミドガルズオルムに見つめられながら、私たちは飛び続けた。


「よく考えたら、このまま人前に出るのはマズいわよねー。私の顔を覚えてる人がいるかもしれないし、服だってお屋敷のメイド服のままだし」

「あの騎士どもの被っていた袋でもかっぱらってくればよかったのう」

「う……あれを被るのはちょっと……」


 でも、今となっては背に腹は代えられない。


「街を出る前に着替えとけばよかったわねー」

「……妾の首に、一枚だけ色の違う鱗があるじゃろう」

「え? なに、急に」

「いいから、違う色の鱗を探せ」

「わ、わかったわよ……うーん……あ、あったあった」


 首の付け根の辺りに、他のより妙に光沢のある鱗が一枚あった。


「それを剥がして──」

「わかった! この辺が痒いのね。任せて、かいてあげる! ほれほれここがええんか」

「おおぅ、そうそうそんな感じじゃ……って違うわい!」


 怒られた。

 なんだ、違ったのか。


「いいからその鱗を剥がしてみるのじゃ!」

「え、いいの? そんなことして」

「さっさとやれ!」


 これ以上怒らせたら背中から落っことされそうだったので、素直に従うことにした。


「なるべくさっと剥がすのじゃ。痛くないように」

「そんな、ガムテか絆創膏剥がすときみたいな……」


 ぼやきつつ、言われた通りにした。

 鱗に指を引っ掛けて、一気に剥がす!


「もうちょっと優しくやらんか!」

「ごめんってば! でも、鱗なんて剥がして何を──」


 その時、剥がした鱗が急に光り出した。


「わわっ! なにこれ!?」

「そなた、ちっとは静かにしておれんのか」


 落ち着きのない子供みたいな扱いをされてしまった。

 とか言ってるうちに鱗はうにょうにょと大きくなっていった。


「これ……マント?」

「『宵闇(よいやみ)の翼』という。それを羽織ればいろいろ隠せるじゃろう」

「ありがたいけど、なんでこんなもの持ってるの?」

「もともとは妾を倒した者に与えられる『聖遺物』じゃ」

「『聖遺物』!? これが!? ていうか、なんでりっくんの鱗が『聖遺物』になるの!?」

「知らん。忌々しい神がそのようにした。呪いのようなものじゃ」


 りっくんは素っ気なく言うが、不機嫌さを隠し切れずにいる。

 どうやらこの件はあまり触れられたくないらしい。


「呪いっていうか、強ボス倒した時のドロップアイテムみたいね」

「なんじゃそれは」

「気にしないで。とにかくありがと。大事にするね」

「ふん……」


 私はさっそくマントを羽織ってみた。

 長すぎるかなと思っていた丈は、着てみるとちょうどいいくらいだった。

 ていうか今、私の体型に合わせてサイズが変わったよね?

 さすがは『聖遺物』だ。

 他にもなんかいろいろチートな性能がついてそうだけど、検証は今度にしよう。

 しかし、黒いマントなんて、私ってばいかにも魔王っぽくなってきたじゃない。


 *  *  *


「陛下、動き出しました」

「そうか……」


 部下からの報告に魔王フリエオールは険しい表情を見せた。


「同盟軍に不穏な動きがある」


 夜魔族(エムプサ)の偵察部隊から報告を受けたのは昨夜未明のことだった。

 勇者であり聖王国の王子でもあるエドワードが毒に倒れたという件はすでに魔王の耳にも入っていたが、どうやらそれが魔族側の陰謀であるという噂が同盟軍の中には広まっているようだった。

 そして今朝、ジェイムソン将軍率いる同盟軍の一部がポール・ブリッジの間近に集結したという知らせがあったのだ。


「このまま引き返しては……くれないだろうな」


 二十年ほど前のことを思い起こし魔王は自嘲気味に呟く。

 あの時も、聖王国の王子が死んだことがきっかけだった。

 あわや全面戦争というところまで緊張が高まった時、英雄と名高いフランツ王自らやってきて人間側の兵たちを諫めたのだ。

 だが、今はもうフランツ王ほどのカリスマを持った人物は人間側にはいない。

 まさに毒に倒れたとされるエドワード王子にこそ、それが期待されていたのだが……。


「陛下、こちらも戦士団を橋のたもとに移動させるべきかと」

 

 魔王がかつてあった少年王子の姿を思い出していると、参謀役を務めている亡きベルクの妻──エイダがそう進言してきた。

 同盟軍が橋を渡り始めた今、座して見守ることはできない。

 それに、こちらの戦力を見れば引き返してくれるやもしれない。


「……よかろう」


 一縷の望みをかけ、魔王は許可を出した。

 

「鉤爪の戦士団、長牙の戦士団、トネリコの魔法師団、橋まで移動。迎撃態勢を整えなさい」

「承知!」

「わかりました」


 エイダの命令に各戦士団の長たちが応えて移動をはじめる。

 最後に、エイダは副長である我が子たちに向かって言った。


「エルザ、鉤爪の戦士団を任せます」

「はいっ!」


 戦士団を見送って魔王はふたたび居ずまいを正す。

 今はただ、戦端が開かれぬことを祈るより他なかった。


 *  *  *


「ケンネル様、よろしかったのですか?」


 報告を終えた後、女はケンネルに尋ねた。

 フイディールに潜ませていた“草”はそれほど多くない。

 その代わり、少々特殊な経歴を持った優秀な人材を配置している。

 本来であれば、ケンネルよりもずっと立場が上ではあったが本人たっての希望で“草”としてこの街で暮らすことになっていた。


「ん、もしかして姫さんのこと?」

「はい。万が一、あのお方の身に何かあっては……」

「せやけど、僕らがなんかして止まるようなお人ちゃうやろ? だいたい、いつの間にか街から姿を消しとる」

「それについては、目に見えぬ何かが空を飛んで橋の方へ向かったと聞いていますが」

「そう、それ! 目に見えないっちゅうやつ!」


 ケンネルは突然声を上げた。


「姫さん、いったい、どないな手をつこたんかな! きっと僕らでも知らんような魔法や! いや、もっと別の何かかもしれん! それこそ、この世界の“秘密”に関わるような!」


 ケンネルは興奮を抑えきれないようだった。

 草走族(アイーティ)が本能的に求めるのはあらゆる秘密や謎だ。

 そして何よりも『この世界の真実』を求めていた。


「始祖の魔王アリカトルヤは見えぬものを視、聞こえぬはずの言葉を聞いたっちゅう話や。姫さんも小さい頃から僕らには見えへん《《何か》》としょっちゅう話しとった。今回も僕らには想像もつかへん何かをやらかしてくれるはずや。邪魔したらあかん。見届けるんや。千年以上の時を経て生まれた《《本物の》》魔王の御業を──」


 ケンネルは空の先に両手を伸ばす。

 その様はどこか狂信的でもあり、何かを確信するようでもあった。

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