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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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お仕置きは全力で

「いたぞ! こっちだ!」


 私が待ち構える路地に袋騎士たちがやってくる。

 前後に騎士。さらに左右は高い壁。

 連中は追い詰めたと、そう思っているはず。

 だけど!


「なにっ!?」


 私は騎士に向かって全力で駆け出した。

 驚いた騎士は一瞬遅れて、槍を突き出す。


 だけど、そんなの予想ずみ!


 私は地面を蹴り()()()()()()飛んだ。


「壁を走った!?」

 

 狭い場所での戦いにおいて猫科の獣人族に敵う者はいない。

 身体のしなやかさと俊敏性、さらには肉球と爪を使って壁に登り、張り付く。

 彼らにとって壁も天井もすべて《《地面》》になるのだ。

 私には肉球も爪もないので、それを魔導具で補っているんだけど。


 槍をかいくぐり、壁を走って騎士の背後にまわって、そこからの延髄切り!


「ぐはっ……!」


 思い切り脳を揺さぶられた騎士が地面に倒れた。


「これぞティウル先生直伝! キャット流近接格闘術(CQC)!」


 もちろん私が名付けた。

 ティウル先生はめちゃくちゃ嫌な顔をしてたけど。


「おのれ! 妙な技を!」


 おっと、決めポーズなんかしてたら他の騎士たちが集まってきてしまった。

 だが、慌てる必要はない。

 こんな時の対処方法もちゃんとあるから大丈夫。そう、キャット流ならね。

 

 私はふたたび壁に向かって飛んだ。

 壁を蹴り、反対側の壁に飛ぶとふたたび壁を蹴る。

 そうやって一蹴り、二蹴りと上に登っていけば、あっという間に屋根の上だ。

 そして相手の上をとったなら、今度はこっちが仕掛ける番。

 孤立した敵に屋根の上から襲い掛かる!


「ぐはっ!」


 名付けて、キャット急襲撃!


 ちなみにこれは昔、実家で飼ってた猫がしょっちゅうキャットタワーの上から飛びかかってくるという経験から着想を得た。

 あれ、私のこと飼い主じゃなくて獲物だと思ってたよね。


「ヤツは妙な体術を使う! 常に二人以上で行動し、背後と頭上に注意をはらえ! 弓を持っている者は屋根に上がれ!」


 同じ戦法でさらに三人ほど倒したところで、リーダー格の男が仲間に叫んだ。

 敵ながら対応が早い。

 ぶっちゃけ、キャット格闘術は魔族の身体能力と魔導具でブーストした上での奇襲戦法だ。

 手の内が知られると意外と弱い。おまけに相手は多人数だし。

 ティウル先生クラスの達人になれば話は違うのだろうけど、付け焼き場な私はそろそろ限界だ。

 あっという間に袋小路に追い詰められてしまった。


 目の前には槍を持った聖袋騎士が三人。

 背後は行き止まり。

 屋根に上がれば、着地の瞬間を弓で狙い撃ちにされるだろう。


「もう逃げられんぞ、小娘」


 月並みなセリフを吐きながら、騎士たちが私に迫る。

 いっそ魔法で吹っ飛ばしてやろうかとも思ったが、ご近所さんのお家を壊すのは申し訳ない。

 それにここまで来たら最後までスタイリッシュにキメたいじゃない。


「小娘だからと油断するな。確実に仕留めるぞ」


 ジリジリと距離をつめてくる騎士たち。

 

「あー、やだやだ。おじさんたち、女の子一人に恥ずかしくないの?」


 軽く煽ってみたけど完全無視。

 こりゃ、奇襲はできそうもないわね。


「そういうことなら……!」


 騎士たちにくるりと背を向けて、私は壁に向かって全速力で走った。

 屋根に登った時の要領で、壁を駆け上がり上を目指す。


「弓隊、そっちへ行くぞ! 逃すな!」


 残念。狙われてるのがわかってるのにわざわざそっちへ行くもんですか!

 

 登り切る直前、思い切り壁を蹴って背後に飛ぶ。


 秘技! キャット流宙返り(ムーンサルト)


 私の身体は宙を舞い空の月と重なりながら放物線を描く。

 騎士たちの頭上を飛び越えて着地。

 唖然とする彼らをその場に残して、私は全速力で逃げ出した。


 *  *  *


 それから軽〜く追いかけっこをした私はふたたび広場へと戻ってきた。

 遅れてやってきた騎士たちはみんなヘトへトだ。


「お前たち、こんな小娘相手に何をやっているのです! それでも女神に身を捧げた聖袋騎士ですか!」


 ナントカ司祭はかーなーり、おかんむりだった。

 いるよねー、こういう上司。

 自分は何もせずふんぞり返ってるだけのくせに。


「ねえ、今度はあんたがかかってくれば? ダイエットに付き合ってあげるわよ」

「黙りなさい!」


 怒られちゃった。

 ま、いっか。煽るのも面倒になってきたところだし。

 そろそろ本気でお仕置きする頃合いだ。


「くっ……これを使うことになろうとは……」


 そう言うと、司祭は懐から何かを取り出した。

 よーく見ると、どうやら“鳥の脚”のようだった。

 すると司祭は三つに分かれた指爪の一つを無造作に折った。


「“雷鳥の脚”よ! 神の使徒たちに天の雷を与えたまえ!」


 うげっ、気持ち悪ぅ。

 なんて思いながら見ていたら、なんと聖袋騎士たちの槍が突然バチバチと電気を纏い出した。


「ご覧なさい! 神の光である雷すらわたくしの手によって操ることができる! これこそが女神の加護! おお、女神ノルンよ貴女様の愛し子はここにおります!」


 なーんか、また悦に入っちゃってるわ。

 確か、空は女神様の領域なんだっけ。

 鳥は神様の使いなのと同じように、空から降ってくる雷は神の力ってことなのだろう。知らんけど。

 しかし、ほんとに男子って雷とか好きよね。

 魔界でも『雷の魔法』は男子の憧れだったのを思い出すわ。

 あと『黒い炎』ね。

 とくに効果は変わらないのに、なぜかみんな炎に色を着けたがるのよね。青とか黒とか。

 

 そんな男の子に大人気な『雷の魔法』だけど、実際のところ使う人はほとんどいない。

 理由は簡単で、とにかく使い勝手が悪いからだ。

 当たり前だけど雷は電気だからむき出しのまま一所に留めておくのが難しい。

 魔法は発動した瞬間から『自然現象』になるわけで、下手をすれば術者にすら牙を剥く。

 <炎>の魔法を現出させらば熱いし、触ればヤケドする。

 魔法を習う時、一番重要だと教わるのはこの『現象』から自分の身を守る術だ。

 武器に雷を纏わせてそれを長時間維持するなんてこと魔法でやろうとすれば、とんでもなくコスパが悪くなる。

 それをあっさりやれちゃうってことは、アレも『聖遺物』の類なのだろう。

 エドワードの『聖剣』といい、なんかチート過ぎない?

 魔法の方は妙に現実的なのに。


 ……話がそれた。

 使う人が少ないからといって『雷の魔法』が無いわけじゃない。

 むしろ魔法開発の歴史においては研究し尽くされたジャンルと言ってもいい。

 私も一つ、二つくらいは学んでいる。


「なるほどね、雷は神様のお力ってわけ。じゃあ、アンタよりすっごい雷を喚んだら私の方がより偉いってことね」

「はっ! なんと愚かな! お前などにできるわけが──」


真白き種子トゥ・イティウム・ハガル


 月夜に私の詠唱が朗々と響く。


逆巻く風(トゥイル) |道しるべは夜の雲の上に《ドゥ・ディエフ・ウイム・ティール》──」


 夏も近いというのに、ヒヤリとした風が広場を吹きぬけた。

 先ほどまで煌々と光を放っていた月を分厚い雲が覆い隠していく。


「ちょっと何よこれ!?」


 広場にいた女性が、重力に逆らって逆立つ自分の髪の毛に驚いて声をあげた。

 すると他の人にも次々と同じようなことが起きはじめる。

 金属の装飾品が小さな静電気スパークを起こしたりと、そこまでくるとさすがに誰もが異常事態を感じていた。


「こ、これは呪文か! 小娘、まさかお前は魔法を……!」


 今さら気付いても遅い。

 魔法はもう完成した。

 あとは、具現化するだけだ。

 さて、問題はどこに落とすかだ。

 

 あ、いいもの見っけ。


「おっきいのが来るわよ! みんな伏せて!」


 大丈夫だと思うけど、一応忠告しておいた。


「<滾る雷神の天吠(ミョルニル)>!」


 その瞬間、轟音と閃光が世界を震わせた。


 空を切り裂くような極太の雷が、広場に面した教会の高い位置に飾られた女神像に直撃したのだ。

 やがて黄金の女神像を撃った雷は膨大な熱エネルギーへと変わり、美しい女神の肢体をドロドロに溶かしていく。

 しばらくすると、どこかから火の手が上がった。

 恐らく溶けた金が何か燃えやすいものに触れたんだろう。

 火は、あっという間に建物を飲み込んでいく。

 天を焦がす落雷。

 炎に包まれた教会。

 信心深い人たちからすればその光景はまさに『神罰』とでも呼ぶ他なかっただろう。

 騎士たちは恐ろしさのあまりその場に膝をつき神に許しを乞うた。

 そしてナントカ司祭は……腰を抜かしていた。

 私はダメ押しとばかりに言ってやった。


「それで? 次は誰があれを落とされたい?」

Cat-Quarters Combat 略してCQC

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