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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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反撃開始

「あんた、なにやってんのよ」


 自分でも信じられないくらい低い声が出た。

 ナントカって司祭が驚いた様子で私を見ていた。

 マトゥーカさんにあんなことをした男。

 必死に堪えていなければ、今にも魔法をぶっ放しそうだった。


「娘、お前がなぜここにいる……。いや、ちょうどよい。フイディールの民たちよ、そこにいるのが勇者であるエドワード王子に毒を盛った犯人だ!」


 司祭が私を指差して叫ぶ。

 街の人たち視線が集まるのがわかったが、そんなことどうでもよかった。


「この女に鞭打つのが嫌だというのなら、その娘を捕らえなさい! お前たちが神に背く愚か者ではないと行動で示すのです!」


 だけど、誰も動こうとはしなかった。

 そりゃそうだ。


「なぜ言う通りにしない! 神に逆らおうというのか! お前たちの行いを神はつぶさに見ておられるのだぞ!」


 唾を飛ばしてまくし立てる司祭。

 それでも動こうとしない民衆たちが、困惑して顔を見合わせる様子はちょっと滑稽だった。


「おのれ神の思し召しを理解せぬ愚鈍な民め! もはや贖罪の機会は失われたと思うがいい! 今からこのわたくしが──」

「ねえ」


 ナントカ司祭の演説を遮るように私は呼びかける。


「な、なんだ。今さら悔いても遅──」

「あんた、ちょっとうるさい」

「なっ……!?」


 司祭が絶句した。


「わけのわかんないことわめき立てて耳がキンキンすんのよ。だいたい、神が──、神の──、神は──って、そればっか。神様のことはどーでもいいの。私は今、あんたと話をしてるの」


 二の句も継げず、口をパクパクさせるナントカ司祭。

 なーんか、だいぶ効いちゃってるみたい。

 もしかしたらこんな風に反論されるのは初めての経験だったのかもしれない。


「だいたいね、みんながあんたの言うこと聞かない理由ちゃんとわかってんの? ドン引きしてるのよ。あんたの話に。マトゥーカさんを鞭で打ったら許される? 私を捕まえたら良いことしたことになる? 意味わっかんない! あんたバカじゃないの!?」


 「ぷっ……」と、どこかで誰かが思わず吹き出した。

 それに気付いたナントカ司祭の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「こ、こ、ここ……」

「こ? なによ、ハッキリ言いなさいよ」

「小娘がああああああああああああああっ!」


 司祭が絶叫した。

 うーん、やり過ぎちゃったかも。

 でも、まあいいか。こっちもスッキリしたし。


「聖袋騎士たちよ! この娘を捕らえよ! いや、殺せ! 神に仇なす悪魔を滅するのだ!」


 司祭の命令で変な袋をかぶった連中が動き出した。

 あっという間に彼らの槍のが私をぐるりと取り囲む。


「ああ、そうだ。一つ言い忘れてたわ。私は別にドン引きなんてしてないから安心して。ただ──」


 私はそこで言葉を句切り、思いっきり息を吸い込む。


「めちゃくちゃムカついてるだけよ!」

「早く殺せえええっ!」


 四方から槍の切っ先が迫る。

 その瞬間、私は地面を蹴って思い切り高くジャンプした。


「なにっ!?」


 袋私を串刺しにするはずだった槍は空を切って交錯する。


「秘技、ハリウッドっぽいスタイリッシュ回避……!」


 決まった。空中で身体を捻って後方に着地した私。

 ぶっつけ本番だったけど成功してよかった。

 これも魔族の身体能力とティウル先生に教えてもらった体術の賜物だね。

 

 私みたいな普通の娘がそんなスタイリッシュな動きをしたことに一瞬驚いたものの、聖袋騎士たちはすぐに気を取り直して私に向かってくる。

 けっこうちゃんと訓練されてるらしい。

 さて、問題はここからだ。

 正直、あの司祭も含めてまるごと魔法でぶっ飛ばしたいくらいには腹が立っている。

 だけどそんなことをしたらマトゥーカさんや街の人たちにまで被害が及んでしまう。

 <(ソーン)>系の魔法で拘束することも考えたけど、あれは刃物に弱いのですぐに抜け出されてしまうだろう。

 それに、ぶっちゃけそんなやり方じゃ私の怒りが収まらない。

 どうせ魔法を使うなら徹底的に、二度とこの街に手出しできなくなるくらいのトラウマを植え付けてやりたい。

 大人げないって? 知らんがな。

 マトゥーカさんにあんなことしたヤツ。絶許!


「さあ、どうやってお仕置きしてやろうかしらね……ん?」


 ふと顔を上げると、少し高いところを見慣れた黒ナマコが飛んでいるのが見えた。

 口には私のカバンを咥えている。


「りっくん、ナイス!」


 私は叫んで、大通りを走り出した。


「逃がしてはなりません!」


 ナントカ司祭の命令で、袋騎士たちも私を追ってくる。

 だが、こっちは出前の配達で街の入り組んだ路地はだいたい把握しているのだ。

 簡単に掴まるもんか。

 さっそく手頃な路地に身を潜め、りっくんからカバンを受け取った。


「ひとつ貸しじゃからな」

「わかってるって。今度、なんでも好きなもの食べさせてあげる」


 さっそくカバンを漁って魔導具を取り出した。

 猫の足を模したグローブとブーツ。

 城を抜け出す時に使ったアレだ。


「そんなものどうする気じゃ?」

「ふふーん。まあ、見ててよ」


 私はニンマリと笑ってグローブを装着した。

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