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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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長い夜の始まり

 ルエイムは扉の鍵が開く音を聞いて目を開けた。

 自分を聖王国へ護送する準備が出来たのかと思ったが、とっくに日は暮れている。

 奇妙に思いつつ狭いベッドから起き上がると、いつの間にか扉の前にいた見張りたちがいなくなっていることに気付いた。

 扉を開け、外に出てみたがやはり誰もいない。

 外から鍵を開けた人間もすでに立ち去った後だ。


「私にここを出てほしいということですか……。いいでしょう。その思惑に乗ることにします」


 ルエイムは少し考えた後、誰にともなくそう言って歩き出した。


 *  *  *


 屋敷の廊下はひどく暗くて、デッケルはわざわざ灯りを持って歩くはめになっていた。

 使用人たちを追い出せば廊下の灯りを点ける者もいなくなる。

 そんな当たり前の事に今さら気付いていた。


「くそっ……」


 悪態をつきながら、デッケルは右腕にはめた腕輪と懐に隠した短剣を確認する。

 ほんの少し力を込めて胸に突き立てれば、エドワードは息絶える。

 そしてすべての罪をルエイムにかぶせ、自分は王子殺しの犯人を捕らえた英雄になるのだ。

 何度も自分にそう言い聞かせながら王子の部屋の前までやって来る。

 護衛はリンデンの命ですでに屋敷を離れている。

 見とがめる者は誰もいない。

 デッケルは灯りを消して部屋に入った。

 奧の寝室で王子が眠っているはずだ。

 足音を立てないように静かに寝室へと向かう。

 暗くて顔までは見えないが、ベッドに誰かが寝ているのはわかった。

 確認するまでもない。エドワード以外のはずはない。

 デッケルは『惨毒の小刀』を取り出し、逆手に持った。


「大丈夫だ。出世のために俺は何人もこうやって殺してきたじゃないか。今回は相手が王子ってだけだ」


 最後にもう一度、自分に言い聞かせるとデッケルはベッドに眠る人物に短剣を振り下ろした。


 *  *  *


「しかし、ほんと誰も来ないわねー」


 牢屋に入れられてからそろそろ丸一日。

 なーんもすることがないので、ひとり言ばかりが増えていく。

 りっくんもどっか行っちゃったし。


「私がここにいることみんな忘れちゃってたりして」


 そんでもって、このまま食事も与えられず、数日後に餓死した私が遺体で発見とか。

 元の世界だったら夕方のニュース番組あたりでさらっと流されそうな事件だ。


「そろそろここから抜け出すべきかなー」

「アリスちゃん……」


 と、思わず口に出していた私に誰かが声をかけた。


「ち、違うんです! 脱走とかぜんぜん考えてません! 本当です! ……って、あれ? ジェドさん?」


 鉄格子の向こう側にいたのはジェドさんだった。


「どうしてこんなところに? ていうか、どうやって入ったの?」

「監視の人に頼み込んだんだ。……ちょっとだけお金も握らせた」


 あれま。真面目なジェドさんらしくもない。


「そこまでして私に会いたかったの? いやー、照れちゃうなー」


 冗談めかして言ってみたものの、ジェドさんは笑ってくれるどころか逆にうなだれてしまった。

 しかもなんか憔悴しちゃってるし。

 うーん、さすがにブラックジョークが過ぎたか。


「ランフォード卿が捕まったんだ。エドワード殿下に毒を盛った真犯人だって言われて」

「ああ、うん。聞いた」

「聞いた……? 誰に……」

「あ、いや! そう、看守の人が噂してるのが聞こえたの!」


 あぶなー。


「ランフォード卿がエドワード殿下を殺そうとするはずなんてない。わかってるはずなのに、僕たちには何もできないんだ……」

「ジェドさん……あの、私のこと疑ってないの? だって、私の料理を食べてエドワード殿下は倒れたのよ?」

「アリスちゃんがそんなことするわけないじゃないか。だいたい、僕たちだってアリスちゃんの料理を食べてるんだよ」


 ジェドさん信じてくれてるんだ。

 なんか、ちょっと感動しちゃったよ。


「ちゃんと調べもせずアリスちゃんやランフォード卿を犯人扱いして、おまけに僕たちの部隊にはすぐに本国へ帰るようにって命令が出されたんだ。こんなの絶対におかしい。なのに部隊長は何もせず帰る準備をはじめてて……」

「そう……なんだ」


 ジェドさんともお別れか。

 いや、それ以前に私の方がサヨナラする予定ではあるんだけど。


「ごめん。アリスちゃんの方がずっと苦しい思いをしてるのに」

「気にしないでよ。誰にだって愚痴を言いたい時くらいあるってば」


 私が言うと、ジェドさんはやっと笑顔を見せた。


「すごいな、アリスちゃんは。こんな状況でも明るくて、強くて……」


 それはいつでも脱走できるからなんだけどね。

 でも、せめてマトゥーカさんや店のみんなに疑いが向かないようにしてからにするつもりなんだけど。


「僕は無力だ。殿下のこともランフォード卿のことも……マトゥーカさんたちが連れて行かれたって聞いても何もできなくて……」

「……は?」


 私は思わず聞き返した。


「ジェドさん、今なんて?」

「あ、うん。お別れを言おうと思って行ったら、お店がめちゃくちゃになってたんだ。それで近くにいた常連さんに聞いたらマトゥーカさんたちが教会の人たちに連れていかれたって──」


 その瞬間、私の中で何かが沸騰した。


 ズガンッ!


 牢屋の扉が内側から吹き飛んだ。

 ひしゃげた鉄格子が床に転がる音を聞きつけて、監視の人が慌てて駆け込んでくる。


「な、何事だ!? ……ひぃっ!?」


 監視の人は私を見るなり小さく悲鳴をあげたかと思うと、その場で腰を抜かしてしまった。

 女の子相手にひどい態度だ。

 まあそんなことどうでもいいや。


「ジェドさん、教えてくれてありがとう。おかげで踏ん切りがついたわ」

「ど、どういたしまして……」


 助けに行かないと。

 教会の人がどうとか言ってたっけ。いや、誰だっていい。

 

「マトゥーカさんを傷つけたら絶対に許さない!」

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