毒
「な、なんだいあんたたちは!」
突然店に押し入ってきた集団にマトゥーカは声を上げた。
修道服に身を包み、しかし頭には歪な形の袋を被った男たち。手には二股の槍を携えている。
そんな異様な集団をかき分けるように店に入ってきたのはリンデン司祭だった。
「ここが、あの娘の働いていた店ですか。なんとも小汚い場所だこと」
「なんの用だい。飯を食べに来たってわけじゃなさそうだね」
「わたくしがこんなところで食事を? 冗談としても笑えませんね。店の中をくまなく探しなさい。魔族と通じている証拠が見つかるはずです」
リンデンに命じられ、袋を被った男たちが家捜しを始めた。
棚を開け、乱暴に食器をなぎ倒し、食材の入った袋に遠慮無く槍を突き立てて行く。
「あたしの店に何するんだい!」
止めに入ろうとしたマトゥーカを男たちは乱暴に押さえつけた。
「邪魔をするならあなたもあの娘の共犯とみなしますよ」
「共犯……アリスのことかい!?」
床に顔を押しつけられたまま、マトゥーカは驚愕した。
ちょうどそこへ、アンたちがやってくる。
「ちょ、ちょっと何やってんのよ!?」
「てめぇら、マトゥーカさんに何しやがる!」
めちゃくちゃになった店内と、床に組み伏せられたマトゥーカを目の当たりにしてリズは怒りに任せて男の一人に掴みかかった。
「あうっ!?」
屈強な男は向かってくるリズの顔を躊躇無く殴りつける。
リズの細い身体が店の壁に叩きつけられた。
「リズちゃん!」
「リズ! あんたたちリズに何すんのよ!」
今度はアンが殴りかかろうとする。
だが、袋をかぶった男たちに槍を突きつけられてしまう。
「これだからポーリア人は……。魔族などという穢れた獣をこの地に招き入れた恥知らずどもめ」
蔑むような目でマトゥーカたちを見下ろすリンデン。
その顔に、いつもの貼り付けたような笑みはどこにもなかった。
「リンデン様、あちらに地下室を見つけました」
店の奥から戻って来た男が、リンデンに報告する。
「わたくしがこの目で確認しましょう。そこの女を連れてきなさい」
男たちはマトゥーカを無理矢理立たせるとリンデンの後についていく。
厨房の裏口を抜けて小さな庭に出ると部下たちが地下室の入り口の脇で待ち構えていた。
扉を槍で壊し、リンデンたちは地下へと降りていく。
「う……なんですか、この匂いは」
男たちが漂う匂いに顔をしかめた。
リンデンはハンカチで鼻を覆いながら、奥へと進んでいく。
そこに大きな樽が一つ安置しあった。
「この紋章……魔族の作った魔導具ですね」
「それは、あたしのひい婆さんがポーリアのお妃様からいただいたんだ!」
叫んだマトゥーカを一瞥すると、地下室においてあった太い縄を手に取る。
そして固く結ばれた縄でマトゥーカの顔を打ち据えた。
「あぐっ……!」
「誰がしゃべっていいと言いましたか。まったくポーリア人は躾けがなっていませんね。お前たち、壊して中身を確認しなさい」
男たちが槍の柄を樽に打ち付けはじめる。
金属の留め具がひしゃげ、木板がめきめきと音を立てた。
「や、やめとくれ……それは大事なものなんだ……アリスが直してくれたんだよ……」
か細いマトゥーカの声を掻き消すように耳障りな音を立てて樽に大きな穴が空いた。
発酵途中の魚醤が無残にも地面に流れ出てしまう。
「うっ……なんという匂い。しかも生き物を腐らせているとは……間違いありません。これは毒です! エドワード王子の食事に入っていたものでしょう! となれば、この女も共謀者に違いない! 連れていきなさい!」
男たちはマトゥーカを連れていった。
リンデンはそれを見送り呟いた。
「さあ、この街の浄化をはじめましょう。我らが女神の名の下に……」




