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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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焦燥を飲み下す

 領主デッケルが使用人たちに「暇を出す」と言い出したのは、エドワード王子が毒に倒れた翌日のことだった。

 当然、使用人たちは困惑した。

 昨晩すでに厨房の人間たちを屋敷から出したばかりだというのに、そのうえメイドなどの下働きまで。

 もしや、自分たちはこのまま解雇されてしまうのではないか。

 ローガン家政婦長のもとには不安にかられた使用人たちが朝から何人も押しかけていた。


「わかりました。領主様に直接理由をお聞きして参ります」


 そう言うと、下働きたちもいくらか安堵した様子だった。

 さっそくローガンは領主デッケルの部屋へと向かった。


「デッケル様、ローガンでございます。少し、お話がございます」

「し、しばし待て!」


 扉をノックして声をかけると、中からデッケルの声が聞こえてきた。なぜか慌てた様子だった。


「よし、入っていいぞ!」

「失礼します……」


 扉を開け中に入る。相変わらず部屋の中は雑然としていた。

 見た目の豪華さばかりに重きを置いて統一感のない調度品の数々が所狭しと飾られている。

 執務室とは呼んでいるが、ここはデッケルの自尊心を満足させるためだけの部屋だった。

 その中に見慣れぬ木箱が増えていることにローガン家政婦長は目を留めた。

 デッケルの趣味とはほど遠い、地味でみすぼらしい木箱だ。


「よ、用とはなんだ」


 ローガンの視線が気になったのか、デッケルは木箱を隠すように立つ。


「使用人たちが動揺しております。なぜ、この時期に暇をとらせるとおっしゃったのでしょうか」

「あんなことがあったのだ。使用人たちの身辺を洗い直す必要があるだろう」

「でしたらなおのこと屋敷の外に出すべきではないのでは?」

「う、うるさい! 私に口答えするな!」

「……申し訳ありません」


 やはり、デッケルはひどく緊張しているようだった。

 自分の屋敷で王子が毒殺されかけたとあれば当然と言えば当然。

 だが、それとは別の何かをローガンは感じていた。


「ローガン、貴様もだ。さっさと屋敷を出ろ。いいな、これは命令だ」

「かしこまりました」


 そうして、理由も何も教えられないままローガン家政婦長も屋敷を追い出されることになった。

 屋敷に残ったのはデッケルと未だ昏睡状態のエドワード王子、そして上階の小部屋に軟禁されているルエイム・ランフォードとその見張りだけということになる。


「これは……あの方に報告すべきですね」


 そう独り言ちると、ローガンはどこかへ向かって歩きだした。


 *  *  *


「撤収……ですか!?」


 部隊長の命令に、ジェドは驚きの声をあげた。

 法務官はルエイムを拘束した後で、部隊に一通の命令書を渡してきた。

 命令の内容は「ただちに本国へ帰還せよ」というとても簡潔なものだった。


「し、しかしエドワード様を置いて行くわけには」

「殿下の身は教会の者たちがお守りするそうだ」

「そんなバカな!」


 教会は大陸中に勢力を伸ばしているが、聖王国だけは例外だ。

 敵対、とまではいかないが互いの権威を認めていないという点では関係はお世辞にも良好なものではない。

 そんな連中が聖王国の王子を護衛するなどありえない話だ。


「だいたい、おかしいじゃないですか! 殿下が毒を盛られて、その翌朝には本国から犯人を捕らえに来るなんて! 部隊長だってわかってるんでしょう! ランフォード卿が殿下を殺そうとするなんてありえません! アリスちゃんだって──」

「今すぐその口を閉じろ! ジェド・サルモン一等兵!」


 部隊長の怒号が屋敷の庭に響き渡る。


「我らは兵士だ。兵士にとって命令は絶対だと教えたはずだ。従わぬというのであれば、貴様がここにいる資格はない」

「っ!?」


 ジェドはたじろいだ。

 勇者であるエドワード王子が直属の部隊を作ると言い出したのは数年前のことだ。

 選抜は身分に関係なく平等に試験が行われると聞いて、ジェドは半信半疑で応募した。

 身分に関係ないと言っても、どうせ根回しはすんでいて有力貴族の子息や名のある騎士候が選ばれるに決まっている。

 どこかにそんな諦めがあった。

 だが、試験が進むにつれ貴族や騎士の姿は次々と消えていった。

 そうして残ったのはジェドを含めてほとんどが身分の低い者ばかりだった。

 さらに試験に受かった者たちにエドワードはこう言った。


「俺の部隊にいる限り身分は忘れろ。上司と部下、それだけだ」


 長い歴史を誇る聖王国の中で、生まれや身分は絶対の価値観だっただけに誰もが最初は困惑した。

 だがいつの間にかそれにも慣れ、今では貴族位を持つ同僚と肩を組んで酒を酌み交わすようになっていた。

 勇者であり王太子であるエドワードと共に戦う仲間であるという共通の誇りが、身分という壁を越えた繋がりになったのだとジェドは感じていた。

 

「わかったなら撤収にとりかかれジェド・サルモン一等兵」

「……はい」


 ジェドは、胸の内から込み上げる何かを飲み込むように答えた。

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