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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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渦巻く策謀

 朝霧に煙る早朝、フイディールの街に異様な一団が現れた。

 チュニックと腰帯に描かれた聖印からノルン教会の者であることは誰の目にも明らかではあるが、異様なのは頭に被っているものだった。

 顔をすっぽりと覆う袋状の頭巾。左右に張り出した歪なかたちはさながら角のようでもある。


 『聖袋騎士団』


 ノルン教会ではそう呼ばれていた。

 かつて、女神ノルンは魔物や魔族に苦しむ人々の為に自ら地上に降り立ち武器をとり戦った。

 その際に強い光輝を隠すためこのような袋を被っていたという言い伝えがある。

 そこから生まれたのがこの『聖袋騎士団』だ。

 騎士団とは名乗りつつも、その実態は謎に包まれていた。

 こうして、人前に現れることすら稀。教会のためならば暗殺や誘拐、脅迫などといった非合法なことも平気で行うという噂もあった。

 そんな連中が街の大通りを進む様子は、人々に様々な憶測をよんだ。

 なにより『聖袋騎士団』が護衛しているのがエオスティア聖王国の紋章が刻まれた法服に身を包んだ人物であることは口さがない者たちの想像をかきたてた。

 そしてその異様な集団は領主の屋敷に向かっていた。


 *  *  *


「ルエイム・ランフォード様。貴殿には聖王国貴族院への出廷命令が出ております」


 扉を蹴破るようにして乗り込んできたルエイムにそう告げた。


「私に出廷命令? いったいどのような理由でしょう」

「貴殿の父、ルドルフ・ランフォード卿にはエドワード殿下暗殺の嫌疑がかけられております。当然、ルエイム殿もそれに共謀した疑いがあるということです」

「父上が殿下を暗殺ですか。そんなことをしてなんの得があるというのです。そもそも証拠は在るのですか?」

「それを審議するのは貴族院の法廷です。お前たち、ランフォード卿をお連れしろ」


 法務官はルエイムに見せつけた召喚状を丸めて仕舞いながら護衛の騎士たちに命じた。


「私はどこに連れていかれるのですか」

「帰還の馬車が用意出来るまでこの屋敷で軟禁させていただきます。どうか大人しくしていただきたい。彼らも手荒なことはしたくないでしょうから」

「聖袋騎士団ですか。どうして教会の猟犬が我が国の法務官殿に付き従っているのでしょうね」


 法務官はルエイムの質問には答えなかった。

 代わりに顎をしゃくって早く連れて行くよう促す。

 ルエイムもそれ以上は何も聞かず聖袋騎士たちに従った。


 *  *  *


「誰も来ない……」


 牢屋に放り込まれてまる一晩。

 私は完全に放置されていた。


「おーい、誰かしませんかー。ていうか、尋問とかないわけー?」


 呼びかけても誰も答えない。

 まさか、見張りすらいないとかじゃないだろうな。

 こんな世界だし、食事や待遇には期待してなかったけど餓死するまで完全放置とかになるとさすがに予想外だぞ。


「あーあ、暇だぁ……そんでもってお腹すいたぁ……」

「なんじゃ、早くもへこたれておるのか」


 鉄格子の向こうにりっくんがいた。


「なんだ、また来たの?」

「ひどい言い草じゃの。外のことが知りたいじゃろうと思ってわざわざ来てやったというのに」

「ウソウソとっても知りたいです! さすがりっくん!」

「調子の良いやつめ」


 ブツブツと文句を言いつつもりっくんは窮屈そうに鉄格子の隙間を抜けてくる。


「外はどうなってるわけ? 尋問とか事情聴取とかそういうのぜんぜんないんだけど」

「それなんじゃがな。真犯人が捕まったぞ」

「真犯人が!? どういうこと!? それじゃ私は無罪放免ってわけ?」

「まあ、落ち着くがよい。そう上手くはいかんじゃろう」

「どういうこと? ていうか、その真犯人って誰なのよ」

「ほれ、王子にくっついておるあの眼鏡じゃ」

「ルエイムが!?」


 なんと、真犯人はまさかの人物だった。


「いやいやいや! あのエドワード大好きなルエイムが毒殺なんてするわけないじゃない!」

「妾に言われても知らん。今朝方、聖王国の法務官とやらが街にやって来てルエイムを捕らえおった」

「今朝……?」


 それはおかしな話だ。

 だって、毒殺未遂事件があったのは夕べの話だ。

 いきなり翌朝に遠く離れた聖王国から犯人を捕まえに来るなんていくらなんでも早すぎる。


「そなたも気付いたようじゃの」

「うん。これって、あらかじめ仕組まれてたってことよね」


 王子の暗殺か、それともルエイムの失脚が目的か。

 はたまたその両方か。

 いずれにせよ何か大きな企みが動いているのは間違いない。


「やっぱり私、巻き込まれただけじゃない」


 許せん。ぜーんぶあの陰険眼鏡(ルエイム)のせいだ。

 ここを出たら文句の一つも言ってやりたい。


「って、ルエイムも捕まったんだっけ。今頃は冷たい牢屋の中ってわけね。ふっふっふ……せいぜい私の苦しみを味わうがいいわ」

「いや、あやつはまだ屋敷におるぞ」

「なんですと!?」

「屋敷の一室で軟禁状態じゃ。三食昼寝付きの優雅な囚人生活じゃな」

「なにその待遇の差は!?」


 おのれルエイム! ずるいぞこのやろう!

 心配して損した!


「それで、どうするのじゃ? まだここに残るつもりかや?」

「うーん……どうしよっか……」


 今、私が逃げたらルエイムはどうなるだろう。

 マトゥーカさんたちに迷惑がかかったりしないだろうか。

 なんだか事態が複雑になりすぎていて判断がつかない。


「あー、もう! めんどくさーい!」


 私は思わず牢屋の天井を仰いで叫ぶのだった。

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