きっと正しくはない勇者の倒し方
どうも。炎の料理人アリスです。
本日のメニューは『領主様をおもてなしするイタリアンフルコース』となっております。
まずは前菜。
なんか厨房にあった鴨のローストとかを見栄えよく配置。
大きな皿にちょこんとのった鴨肉はいかにも高級っぽい感じでしょう。
ソースはケチャップにスパイシーな香辛料を混ぜてそれっぽく仕上げました。
第一の皿はパスタ。
先日、採用された麺状のパスタを採用。
具なしだとちょっと見た目が物足りないのでトマトクリームのソースを絡ませました。
盛り付けには高さを出すこと。これまたでっかいさらに少なめに盛ると高級感倍増です。
第二の皿はもちろん肉です。
メインディッシュは奇をてらうよりも肉が正解。
とりあえず肉を出しとけば男子は喜ぶだろうの精神です。
付け合わせは無難にサラダ。ちゃんと野菜も食えというメッセージを込めました。お残しは許しません。
そしてお待ちかねのドルチェ。
なんか、ドルチェの前にチーズを食べるパターンもあるみたいだね。
それはそれとして、気合い入れました。
イタリアのデザートと言えばやっぱりティラミス。
さすが領主様の屋敷、砂糖も生クリームもカカオパウダーだってある!
たくさん作ったので終わったら厨房の人たちとドルチェパーティだ!
とか、思っていたのに蓋を開けてみれば私は一人だった。
なぜか厨房の人たちは暇を出されて昼のうちに帰されたし、かろうじて手伝いに残ってくれたメイドも料理を運ぶ以外のことは一切手を貸してくれない。
それどころか、私が声をかけても完全無視ときた。
「パスタ出来ました。お出ししてください」
私が声をかけると、やっぱりメイドは返事どころか目合わせずさっさと料理を持って行ってしまった。
そんなに毛嫌いすることないじゃん。
終わったらティラミス一緒に食べようと思ってたのになあ。
* * *
「ほお、これが……」
料理が出されると、領主デッケルは興味深そうに皿の中を覗き込んだ。
「なんとも芳しい香り。いや、さすがはエドワード殿下のお眼鏡にかなっただけのことはありますな」
今日のデッケルはやけに饒舌だった。
貴族位にあっても、もともと傭兵上がりであることに、この男は強いコンプレックスを持っている。
そのせいか、やたらと貴族であることに固執していた。
そんなうわべだけ取り繕うような“貴族らしさ”は、料理や屋敷の内装によく現れている。
自分たちに屋敷を自由にさせているのも、“聖王国の王子が逗留した”という箔を付けたいがためだろう。
わかりやすい小物。
ルエイムはデッケルという男をそう分析していた。
だが、今日はどこかいつもと違っていた。
媚びた言葉とは裏腹に、こちらの顔色をうかがうような態度はなりをひそめエドワードの前でも妙に堂々としている。
こちらが招いた立場なのに、むしろ自分たちの方がデッケルという男のテリトリーにいるような気分だった。
「おしゃべりはそのくらいにしておけ。俺はさっさと食事をすませたい」
「おお、これは失礼しました。私に構わずどうぞお食事をお続けください。私は先にワインをもう一杯いただこうかな」
「ふんっ……」
デッケルがメイドにワインを持ってくるよう命じる。
「かしこまりました」と答えたメイドは、すぐそこにワインのボトルがあるのも関わらず、なぜか部屋を出て行った。
ルエイムが、その不自然な行動の意味に考えをめぐらせていた時だった。
ガシャン!
突然、室内にグラスの割れる音が響き渡ったかと思うと、エドワードが苦しげに呻き声をあげていた。
「エドワード殿下!?」
ルエイムが駆け寄るより先に、エドワードは食器をなぎ倒しながら床に転げ落ちた。
「ぐっ……! がっ……!?」
「まさか……毒を……!? 誰か、水を持って来てください!」
エドワードのノドをかきむしるような仕草を見たルエイムは咄嗟にそう叫んだ。
だが、その命令に応える者は誰もいなかった。
咄嗟に振り返ったルエイムが見たものは、この惨状の中、慌てた様子もなくグラスに残ったワインをゆっくりと味わいながら飲み干すデッケルの姿だった。
* * *
「え? なに? なんなの?」
厨房に兵士たちが押しかけてきたのは、まさにメインディッシュが焼き上がったところだった。
「あの女です!」
そう叫んだのは、給仕を手伝ってくれていたメイドだ。
ていうか、この人たちなんなの? エドワードの部下とも違うみたいだし。
「貴様だな。エドワード殿下の食事に毒を盛ったのは!」
「は……?」
私が、エドワードの食事に毒?
いや、待ってなんのこと?
「この女を捕らえろ!」
「ええええっ!? ちょ、なんなのよこれー!?」
いきなりやってきた完全武装の兵士たち数人がかりで取り押さえられた私はわけもわからないまま屋敷から連れて行かれたのだった。




