表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
72/131

麺が食べたいんです(切実)

 砕いた骨、くず野菜。

 ジェドさんたちにはそんなものどうするのかと散々聞かれたが、要するに鶏ガラスープを作るのだ。

 コンソメほど味が決まるわけじゃないけど、ずっと手間が少なくて作りやすい。

 最後にスープと魚醤を合わせて完成させる。

 

「まずは、砕いた骨と野菜くずを大鍋に入れてそこに水を入れます」

「沸騰させてから入れた方が臭くならないんじゃないか?」

「ちゃんと臭みの元はとったし、あとでアク取りもするから大丈夫です。何より水からじっくり煮だした方が美味しい出汁が出るんですよ」


 大鍋に材料を入れて、火にかけた。

 あとはじっくりと弱火で煮込むだけだ。

 できれば圧力もかけたいけど、魔法でも使わないと無理だから今回は諦めた。


「さて、じゃあ次は()にとりかかりましょうか」


 もうわかっただろう。

 私が作ろうとしているのはラーメンだ。

 正確にはラーメンもどきのスープパスタって感じだけど。

 なぜラーメンにしたかって?


 食べたいからだよ! 私が!


 魔界を離れて幾年月。

 いろいろと不便なのには慣れたけど、米と麺にありつけないのだけはどうしても我慢できない。

 いっそ魔界に戻って食べてこようかと思ったくらいだ。

 そんなことできないから、いつか麺を作ってやろうと機会をうかがっていたのだ。


「というわけでパスタ生地を作りましょう」


 調理担当だけあって、みんなパスタの作り方は心得ていた。

 小麦粉に水を加えてこねる。ただそれだけ。

 卵を加える方法もあるけど、どうやらこの辺りでは水だけのようだ。

 よりラーメンっぽさを出すため『かん水』を加えたいところだけど、そこまで準備する時間はなかった。

 確か、草木を焼いて灰にしたものを水につければアルカリ性の溶液ができてかん水の変わりになるとか聞いたことがある。

 あとはパンに使うふくらし粉でも代用できるらしい。

 今度探してみよう。

 

 などと、あれこれ考えているうちに兵士たちが作るパスタ生地がだいぶかたちになってきた。

 いやー、ほんと楽でいいわ。

 もっと、働くがいい我が部下たちよ。

 

「あ、生地はできるだけ薄くのばしてくださいね」

「薄くのばす? 何か包むの?」

「そういうわけじゃないんですけど、実際にやって見せた方が早いと思います」


 こっちの世界でパスタと言えば、小さく千切ったパスタ生地を親指でテーブルに押しつけるようにして平たくする作るショートパスタ。俗に『耳たぶ』と呼ばれてるものだ。

 あとは、茹でた芋を小麦粉と錬って作る『ニョッキ』だ。

 兵士の人たちは、例のカチカチパンの他にこの『ニョッキ』も作って食べていた。

 食べ応えもあって腹持ちも良いので、遠征中は『ニョッキ』の方が評判がいいらしい。

 マトゥーカさんのお店では『耳たぶ』の他に、シート状にした生地をで具材を包んで煮込んだりもしている。

 そう、私たちの見慣れた麺状のパスタはまったくもって一般的じゃないのだ。

 だけど、スープと合わせるなら絶対に麺の方がいい。

 他にもう一つ、麺にしたい理由があるんだけど……それはまた後で説明しよう。


「薄くのばした生地を折りたたんで、包丁で切っていきます。これもできるだけ細く」

 

 パスタマシンはないので、うどんや蕎麦のように包丁で切って麺にするしかない。

 押し出し式なら構造も簡単なので、これが上手くいったら職人に頼んで作ってもらうのも悪くないだろう。

 長すぎると食べにくいので、本当はもう少し短くしたいんだけどこの後の工程を考えるとある程度の長さが必要だ。

 そんなわけで、最後はちょっと苦労したけど無事にロングパスタが出来上がった。

 

「変わった形のパスタだね。こんな紐みたいにしたら食べにくいんじゃない?」

「フォークでくるくるっと絡めるんですよ。せっかくだし、試食してみましょうか」


 その途端、兵士の皆さんが歓声をあげた。


「おお! やった!」

「もうずっとイイ匂いがしててたまらなかったんだ!」

「ああ、腹減った!」

「実は私もお腹が空いてたんです」


 つまみ食いは作る人の特権だよね。

 そんなわけで、さっそく調理だ。


 まずは、ニンニクをみじん切りにしてオリーブオイルで炒める。

 後から唐辛子も入れてちょっと辛みもだす。

 短く刻んだ生のパセリを加えて香りを出したら、そこにパスタのゆで汁を加えて素早くかき混ぜ、トロッとしてきたらパスタを投入。

 フライパンの中でパスタとソースをしっかり絡めたら、ご存じアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノの出来上がりだ。


「ずいぶんシンプルなんだな」

「でも、すごく良い匂いだね」


 ジェドさんたちが興味津々で皿を覗き込む中、私はフォークでパスタをくるっと巻いてみせる。


「へえ、そうやって食べるのか」

「ちょっとコツがいりますけど、すぐ慣れると思います。皆さんも食べてみてください」


 最初に口をつけたのはジェドさんだった。

 私の見よう見まねでパスタを巻き取ると思い切って口に運ぶ。

 次の瞬間、ジェドさんは声をあげていた。


「美味しい!」


 それを聞いて、他の兵士たちも次々にパスタを口に運ぶ。


「本当だ。旨いぞこれ!」

「ニンニクと塩とパセリだけで、こんなに美味しくなるのか!」

「ソースが全体によく絡んでる。紐みたいにしたのはそういうわけか」


 まあ、麺にした理由は他にもあるんだけどね。

 そろそろスープの様子も見てこないと。

 ここまでだいたい二時間くらい煮込んだかな?

 味の方は……と。


「……うん。いい感じ」


 ショウガやネギがなかったので、どうなるか不安だったけど元のスープに比べたらずっと臭みも少ない。

 本格的なスープにするなら水を足しつつ朝まで煮込むところだけど、魚醤もあるしこれくらいで充分だろう。

 というわけで、魚醤をちょっと足してジェドさんたちにも味見をしてもらった。


「美味しい! しかもぜんぜん臭くないよアリスちゃん!」

「なんだろうな、この良い香りは……」

「塩っ辛いわけじゃないのに、なんだかいくらでも飲みたくなる」


 ふっふっふ、それ『旨み』というやつだよ。

 スープに加えて魚醤も入っているから旨みのダブルパンチが味わえるのだ。


「これを茹でたパスタにかけてもいいですし、一緒に煮込んでも美味しいです。具材は後からお好みで。だいたいなんでも美味しくなります。ちなみに、味付けはうちのお店でも使ってる調味料です。気に入ったら是非食べに来てくださいね」


 そしてお店の宣伝も欠かさない私。

 やったね、マトゥーカさんお客さんが増えるよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ