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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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赤い企み

「なにが勇者だ! 俺の屋敷を好き勝手に使いやがって!」


 杯を叩きつけるようにテーブルに置いて、領主デッケルは叫んだ。

 そこはデッケルの私室。

 使用人たちを下がらせ、彼らは二人だけで杯を酌み交わしていた。

 そう望んだのはリンデンであり、上等のワインを持ち込んだのも彼だった。


「お気持ちお察しいたします。殿下は……口さがない言い方をすれば少々傲慢であらせられる」


 酔いの回ったデッケルはすっかり目が座っている。

 そんなデッケルとは裏腹に席を共にするリンデン司祭は普段(しらふ)と変わらない表情のまま空になった杯にワインを注いだ。


「調度品の趣味が悪いとか飯が不味いとか、俺が傭兵上がりだかって見下してやがるんだ!」

「殿下は生まれながらの王族。それに比べて領主殿は、実力で今の地位まで上り詰められた。どちらが優秀であるかは自ずと知れましょう」

「その通りだ! あんな名ばかりの勇者などに戦場の指揮が務まるものか!」


 イルランド王は貴族たちが武力を持つこと制限している。

 そのため貴族たちは傭兵団との契約というかたちで私兵を囲うのが一般的だった。

 そんな中でデッケルはいち地方貴族の私兵という立場から貴族位を得るまでに上り詰めた希有な男だった。


 もともと上昇志向の強かったデッケルは、ありとあらゆる手段を用いて傭兵団の中で地位を高めていき、ついには団長を事故に見せかけて殺し傭兵団を乗っ取った。

 そこからさらにデッケルは手段を選ばなかった。

 貴族のために暗殺などの汚い仕事をすすんで引き受け、逆らった部下は容赦なく殺した。

 そんなことしていれば貴族たちにとって自分たちの後ろ暗い『秘密』を知るデッケンは邪魔な存在になっていく。

 貴族たちはデッケルを殺そうと何度も私兵を差し向けた。

 デッケルはそのことごとくを返り討ちにした。

 傭兵としての実力はもちろん、狡猾さと残忍さにおいてもデッケルの方が一枚も二枚も上手(うわて)だった。

 自分を殺そうとした貴族をイルランド王に告発するというかたちで逆にすべての罪を押しつけることに成功する。

 そうしてイルランド王からは貴族位とこのフイディール地方の領主という地位を賜ったのだった。


 ただの傭兵が辿り着ける場所としては考え得る限り最高の高みに到達したと考えたデッケンは、この狭い彼の()()の中で金と権力に耽溺した。

 七年前までは。

 同盟が締結され、ギヨッド河にいくつも砦が建設されるようになると諸外国から貴族や軍人がひっきりなしにやってきた。

 彼らはデッケルにふたたび外の世界を見せつけた。

 中には傭兵上がりの地方領主を蔑み顎で使う者もいた。

 その極めつけがエドワード王子だった。


「いっそ、デッケル殿が同盟軍の指揮をとった方が良いかもしれませんな」

「わははは! それはいい!」


 その言葉に気を良くしたデッケルは杯をあおった。


「わたくしは本気でございますよ」

「ゲホッゲホッ……! な、なに……!?」


 急に言われてデッケルは思わずワインにむせた。

 

「ご存じですか? 魔力を持つ者たちには、魔族の血が流れているのですよ」

「そ、それは……!」


 デッケルもそのことは知っていた。

 かつて魔族が国を持たなかった時代、各国の権力者は彼らが持つ恐るべき力を取り込もうと婚姻や養子縁組などを積極的に行ったという。

 それは貴族社会に属する者にとっては口には出さないものの常識であった。


「貴族たちが魔族を敵視するのは、魔法の力を自分たちだけのものとしたいがためです。なんと浅ましく傲慢な行いでしょう。自分たちにも()()()()が流れているというのに」


 打って変わって憎しみも露わに語るリンデン。

 デッケルは思わず唾を飲み込んだ。


「リンデン、貴様なにをするつもりだ……」

「世界を取り戻すべきなのです。真に女神の寵愛を受けた我々無辜の民のもとに」


 デッケルの前に小瓶が差し出される。


「エドワード王子には死んでいただきます。そしてデッケル殿、あなたが真の『勇者』となるのです」

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