私の帰る場所
「ううっ……ぐすっ……ぶぇえええ……」
ドラウグルと化した巨人を倒した後、私たちは砦への帰路についていた。
泣き続ける私を乗せてくれたのはエドワードだった。
「うっとうしい。いい加減泣き止め」
「ずびばぜん……」
私の頭の上でエドワードが苛立たしげに呟く。
涙と鼻水で顔面をベチョベチョにした娘を抱きかかえるようなことになってしまい大変申し訳ないと思うが、どうしても涙が止まらなかった。
前世の記憶があっても、実際の私はまだ十二歳の子供なのでいろいろと情緒が追いつかないのかもしれない。
もっかい鼻かんどこう。
ちーん。
「あ、ルエイム様もすみません。ハンカチ、後で返しますね」
「いえ……差し上げます……」
こんな高そうなのタダでくれるの? ラッキー。
それにしても、なんかいろいろあって疲れちゃった。
早く帰りたいなぁ。
マトゥーカさんやお店のみんなに会いたいよ。
そんなこんなで、砦に戻ったのはだいぶ日が傾いた頃だった。
「ええっ! 今日は街に戻らないんですか!?」
「もうじき夜です。安全のためにも今夜は砦に一泊した方が良いでしょう」
ルエイムの言うこともわかるけど、今の私は街に帰りたくてしかたなかった。
「そこをなんとかお願いします! 今の私は完全に情緒不安定なんで、早くお家に帰らないとまた泣いちゃいますよ! 一晩中、女のすすり泣く声が砦に響き渡りますよ!」
「妙な脅しはやめてください」
げんなりとするルエイム。
前世では使ったことがなかったけど、女の涙ってやつはほんとに効くらしい。
「そういうことでしたら、わたくしの馬車に乗って行ってはいかがですかな?」
と、口を挟んできたのは例の教会の司祭リンデンだった。
「護衛もおりますので、街まで安全にお送りできますよ」
「乗ります! いえ、乗せてください!」
私は一も二もなくその提案に飛びついた。
「雇い主を無視して、勝手に決められては困ります」
「かまわん。行かせてやれ」
意外にもエドワードがOKしてくれた。
「しかしエドワード様……」
「これ以上こいつに泣かれてはたまらんからな。だが、リンデン、くれぐれも丁重に扱えよ」
「承知しておりますとも。殿下のお気に入りでございますれば……」
「ただの側仕えだ」
そう言い残して、エドワードは踵を返して砦へと戻って行った。
ルエイムもその後に続く。
「それでは参りましょうか」
「はいっ。よろしくお願いします!」
やった! これで帰れる!
* * *
馬車の中でリンデン司祭は、私にあれこれと質問をしてきた。
「ほう、では殿下のお食事はすべてあなたが? よほどの美味だったのでしょうね、そのマトゥーカさんの料理は」
「はい。最近では他の街からもマトゥーカさんの料理を目当てにお客さんがやってくるんですよ」
「それは素晴らしい。わたくしも是非一度味わってみたいものです」
リンデン司祭、なかなかの質問上手聞き上手だった。
つい、私もいろいろと話してしまった。
そのおかげか行きは苦行だった馬車の旅も帰りは思ったより快適に過ごせた。
「マトゥーカさんただいま!」
私が帰り着いたのは、お店の営業が終わった後だった。
ちょうどみんなが揃って後片付けをしていた。
「おや、今日はずいぶんと遅かったねぇ」
「それが聞いてよマトゥーカさん! 砦に行ったらこーんなでっかい巨人が──」
「ちょっと落ち着きなって。まだ掃除が終わってないんだから」
アンに首根っこ掴まれて止められる。
「じゃあ、私も手伝う!」
「遠出して疲れてるだろ。いいから休んでなよ」
「いいの。手伝いたいの」
リズからモップを奪い取ると、さっそく床を磨きはじめる。
「アリスちゃん、お夜食あるよー、あとで食べようねぇ」
「さすがメイ! 食べる食べる!」
その夜は、私の土産話を聞いてもらいながらみんなで食事をした。
楽しい時間だった。
このまま、一生をこの街で過ごすのも悪くない。
そう思えるくらいに。




