涙の理由
「お見事です殿下! ドラウグルと化した巨人を瞬く間に倒してしまうとは……!」
「当然だ。俺を誰だと思っている」
巨人を倒して戻って来たエドワードは、ジェイムソン将軍や兵士たちに手厚く迎えられた。
まさにヒーローの凱旋といった感じだ。
ていうか、なにあれ!?
三回斬っただけでドラウグルになった巨人が倒されたんですけど!
ルエイムの説明からすると、聖剣の能力はおそらく『三回斬ったら超凄い攻撃が出る。相手は死ぬ』ってところだろうか。
おまけに、巨人の攻撃にビクともしない魔法の盾まで持ってるなんて……。
いや、それもうチートじゃん!
このチート勇者!
「おい、なんだその顔は」
「なんでもないです……」
少なくとも、エドワードとは正面からやりあって勝てる気がしない。
倒すなら遠くから魔法の盾ごと吹っ飛ばすとかしかないだろう。
まあ、はじめからそのつもりだったし、それ自体は問題ない。
気になるのはやっぱり『聖剣』のことだ。
近くで見てわかった。
幻の中で見た『魔王』の身体を刺し貫いた勇者の剣。
それはおそらくエドワードが持つ『聖剣』と同じものだ。
あれが私の未来の光景なら、やっぱり私はエドワードの手にかかって死ぬことになるのだろう。
いいや、死んでたまるか!
絶対、何がなんでも勇者を倒して生き延びてやる!
「だからなぜ俺を睨む」
「気にしないでください。こういう顔なんです」
心の中でエドワードに宣戦布告をする私。
その時だった。
オォオオオオオオオオン……!
倒されたはずの巨人がふたたび立ち上がり、私たちの方へ向かってきたのだ。
「聖剣の力が効かなかった!?」
「ちっ……! お前たち下がれ!」
巨人が私たちの間近まで迫る。
ふたたび聖剣を抜き放ったエドワードが私を庇うように進み出た。
兵士たちも慌ただしく距離をとった。
「ア、アア……」
渓谷から覗く巨人の大きな顔。
その口が何かを言おうとしていた。
「アーリカ……」
アーリカ。
なぜか、巨人は私に言ったような気がした。
そして巨人の残った方の手がゆっくりと私たちに向かって伸びてくる。
「死に損ないめ。今度こそ確実に滅ぼして──」
「待って!」
ふたたび聖剣を構えたエドワードを私は止めた。
自分でもなぜそんなことをしたのかわからなかった。
だけど……
「もう、いいの。ゆっくり休んで」
巨人に呼びかけると、その大きな指先に触れた。
「アーリカ……」
最後にもう一度、その懐かしい名を口にして、巨人の身体は崩れ去った。
「お前、泣いているのか……」
「え……」
エドワードに言われて、自分の頬を伝う涙に気付いた。
なぜだろう、悲しいのと申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだった。
「これを使いなさい」
「あ、ありがとう……ございます……」
ルエイムがくれたハンカチを握りしめたまま、私はしばらく泣き続けた。




