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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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七年前の傷痕

「どっせーい!!」


 重たい鞄を二つ、ドスンと床に置く。

 やっとのことでエドワードたちが滞在する部屋に荷物を運び込んだ。

 後で絶対に残業代と派遣手当を請求してやる。


「おい、出掛けるぞ。お前も着いてこい」

「へ!? また!?」


 こっちはやっと一段落ついたばかりだっていうのに。

 一休みくらいさせてよ……。


 なんていう風に心の中でボヤくしかできない私。

 雇われの身のつらい現実だった。

 

 言われるままエドワードたちに着いて行く。

 やってきたのは厩舎だった。

 いきなりの勇者様登場に、馬の世話をしていた人たちに緊張が走る。


「馬を借せ」

「はっ! しばしお待ちを!」


 世話係の人たちが大慌てで三頭の馬を連れてきた。

 芦毛と栗毛と黒鹿毛。それも手入れされてツヤツヤしてる。

 エドワードは芦毛を選んだ。

 手慣れた様子で颯爽と跨がる。


 おおっ、リアル『白馬の王子様』だ!


 ちょっと感動してしまった。

 正確には芦毛は白じゃなくて灰色だけど。

 続くルエイムは栗毛を選んだ。

 そして残される私。


「おい、何をしている」

「いや、馬、乗れないです……」


 私が答えると驚くエドワード。

 あんた忘れてたんかい。

 それで今朝ひと悶着あっただろ。


「ちっ……そうだったな。ルエ──」

「お断りします」


 食い気味に拒否するルエイム。

 だからそこまで嫌がられるとちょっと傷つくんだってば!


「仕方ない。おい、手を出せ」

「へ? なに……ふぎゃっ!?」


 手を差し出した途端、もの凄い勢いで引っ張られた。

 そして、顔面から馬の背に激突した。


「鐙に足をかけろ。お前はバカなのか?」

「さ、先に説明しておいてくれないとわかりません!」


 こっちは馬なんか乗ったことないんだってば!

 結局、他の厩舎の人たちにも手を貸してもらってやっとのことでエドワードの後ろに乗ることができた。


 ていうか、これけっこう怖いぞ!


 想像してたより高いし、スカートだから跨がれなくて安定しない。

 エドワードの背中に思い切りしがみついてないと落っこちそうだ。


「面倒だから落ちるなよ」

「ど、努力しまっす!」


 どうか落ちませんように!


 *  *  *


「俺を締め殺す気か!」

「だ、だって落ちるなって言われたから……」


 到着した途端、王子に怒鳴られた。

 いやね、悪かったとは思ってるのよ? 思いっきりしがみついちゃって。

 私たち魔族は人間より身体能力が高いってこと忘れてたわ。


「お前を乗せていては命がいくつあっても足りん。おい、ルエイム。帰りはお前が──」

「お断りします。というか、私は殿下ほど鍛えてないのですから本当に絞め殺されかねません」


 うう……なんか二人の間で私が怪物扱いなっているような気がする。


「まあいい。帰りのことは後でもう一度話合うぞ」


 そう言って、エドワードは歩き出す。


「あ、ここって……」


 しがみつくのに必死で気付かなかったけど、私たちがやってきたのはあの『ポール・ブリッジ』だった。

 魔界と人間界を結ぶ、唯一の陸路。

 それが『ポール・ブリッジ』だ。

 この巨大な橋をどちらかの種族の軍隊が越えた時、それは宣戦布告を意味する。

 お父様からはそう教わっている。

 そんな場所をエドワードは平然と歩いていく。

 おいおい、いいのか。


「殿下、あまり進んでは……」

「安心しろ。渡りきるつもりはない。少し行きたい場所があるだけだ」


 行きたい場所ってなんだろ?

 この『ポール・ブリッジ』は村一つ収まりそうなくらいバカでっかいだけで飾り気も何も無いし、どこまでも同じような石畳が続いているだけでしょ。

 そう思ったけど雇い主には逆らえないので大人しく着いて行く。

 そうして橋の真ん中辺りまでやって来たところエドワードは足を止めた。


「七年ぶりか……」


 そう呟いたエドワードの視線の先では、橋の欄干が大きく欠けていた。

 ん? もしかして私が壊したとこ!?

 う、うわー……不可抗力とはいええらいことになってるわ。

 そういえばこっから落っこちたのよね、私。


「おい、怪力女」

「は、はいっ」


 いつの間にかただの『女』から『怪力女』にランクアップ(?)している。


「お前は魔族をどう思う」

「へ!? ど、どうって?」


 な、なんでそんなこと聞くんだ。

 もしかして私が魔族だってバレた!?

 い、いや、そんなわけないよね。


「えっと、見たことも会ったこともないので、ほんとにいるのかなー……なんて」


 とりあえず、適当に誤魔化してみた。


「いないわけがないだろう。なんのための砦と軍だと思っている。バカかお前は」

「んなっ!?」


 バカって言われた!


「殿下、これが普通の反応ですよ。実際、この数百年の間、魔族は一度も橋を越えていないのですから」

「ふん。気楽なことだ」


 気楽とは言ってくれるじゃない。

 よーし、こうなったら私も前々から思ってたことを言ってやる。


「むしろ、貴族の方々はどうしてそんなに魔族を怖がっているんですか?」


 私が言うと、エドワードとルエイムは驚いた顔をする。


「魔族って、ツノとか尻尾があるだけで私たちとそんなに変わらないんでしょ? 言葉だって通じるんだからケンカする前に話をすればいいのに」


 なんてね。

 そう簡単にいかないことくらいわかっている。

 じゃなきゃ、元の世界ではとっくに戦争はなくなってる。


「お前の言う通りだ。話をする。ただそれだけのことができない。いや、できてはいたんだ。だが“あの日”を境にすべてが変わってしまった。この俺自身も含めてな……」


 “あの日”っていうのは、飛空艇が墜落した日のことを言っているのだろう。

 確かに、フランツ王が今も生きていたら人間と魔族はもうちょっと歩み寄れていたのかもしれない。

 今さら言っても仕方ないことだけど。


「どうして私をここに連れてきたんですか?」


 最後に私はもう一つ聞いてみた。


「別に、大した理由はない。しいて言えば……そう、お前に“ツノ”がないからだろうな」


 なんじゃそりゃ。

 意味わからん。


「用はすんだ。戻るぞ」


 そう言って、エドワードはまたひとりでさっさと歩き出す。

 結局、何がしたかったんだか……。

 本当に自分勝手な勇者様だ。

 だけど、なぜか、私の質問に答えた後のエドワードのどこか遠くを見るような表情がやけに印象に残っていた。

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