勇者に一撃食らわせるために
ローガン家政婦長が去った後、私の前には二つのマヨネーズとソーセージ、あと傷んだ野菜がという燦々たるラインナップがあった。
「さて、これだけで勇者様に出すメニューを考えなきゃいけないわけかー。無茶振りにもほどがあるわね」
なんて言いつつもだいたい決まってはいるんだけどね。
「なんじゃ、まだ出来ておらんのか」
食材と睨めっこしてたらぴょんと黒い物体が作業台に飛び乗った。
「りっくん、散歩はどうだったの?」
「んー、まあそれなりに面白かったぞ」
ソーセージをつまみ食いしようとしていた手にチョップしながら聞いた。
「この屋敷、外側はともかく、中は下品極まりないのう」
「あー、確かに」
建物自体は立派だけど中に置いてある調度品は派手でゴテゴテしたものばかりだ。
屋敷に入ってすぐ領主の巨大な肖像画が飾ってあったのには唖然としてしまった。
どうやら領主の趣味はあんまりよろしくないようだ。
お仕着せのメイド服が攻め攻めなデザインでなくてよかった。
「あと、いくつか紋章を削った跡を見つけたぞ」
「それって、元は他の貴族のものだったってこと?」
「中身と外側の毛色が違う理由から考えると、そうかもしれんのう」
そういえば、この辺りはもともと違う国だったとマトゥーカさんが言っていた。
この屋敷も元々はその滅亡した国の貴族か何かが使っていたのかもしれない。
「いやいや、余計なこと考えてる場合じゃなかった。早く料理を作らないと」
「期待しておるぞ」
「言っておくけど、りっくんのために作ってるんじゃないからね」
さて、まずはトマトの処理からだ。
皮を湯むきしてざくざくと切って、タマネギとニンニクもできるだけ細かく切って混ぜ合わせる。
あとはひたすら潰す!
「うおりゃああああああっ!」
「何やっとるんじゃおぬしは」
「何って、潰してるのよ! どりゃああああ!」
これから作ろうとしてるものは滑らかさが重要だ。
ここで手を抜くわけにはいかないのだ。
「いや、そんなもの魔法を使えばよかろう」
「あ……」
言われて気づいた。
そういえば、魔法があったんだった!
「おぬし、魔族のくせに忘れておったのか」
「ち、違うって。ほら、料理は愛情って言うじゃない? 魔法でパパッとなんて気持ちがこもってないってゆーか……」
「食わせる相手は勇者じゃぞ」
「魔法使います」
愛情とかないし。
パパッと魔法でやっちゃおう。
「えーと、イメージはフードプロセッサーかな? 潰すのは<撃>で攪拌するのは<駆>って感じで、あとは外に飛び散らないよう<守)で覆いをして……」
誰にも見られていないのを確認して、パチンと指を鳴らすと、ボールの中のトマトと野菜があっという間にペースト状に変わった。
マヨネーズの時もこうすればよかったな……。
「あとはこれをじっくり煮詰めるだけ……と、これは魔法でパパッとってわけにはいかないね」
一瞬で燃やし尽くすとかならできるけど、弱火でじっくりコトコト煮込むっていうのは無理だ。
時間を早く進める魔法でもあれば別だけど。
そんなわけでトマトを火にかけつつ、私は別の作業をすることにした。
「うーん、このマヨネーズなんで色が違うんだろ?」
私が作ったマヨネーズは黄色味が強く、お屋敷の人が作ったのは白っぽい。
味は私が作ったものの方がこってりとしていて、もう一方は淡泊でさっぱり。
そして、どちらもツンとする酸味がある。
私が魔界で食べてたマヨネーズとはだいぶ違うものだ。
「酸味はビネガーのせいだと思うけど、なんなのかなこの物足りない感じは……」
不味いわけじゃない。
だけど、何かひと味足りない。
「あ、そっか。こっちは卵の白身も入ってるんだ」
日本では卵黄だけ使ったマヨネーズが主流だけど、海外では全卵を使うって聞いたことがある。
それともう一つ、よく海外のものより日本のマヨネーズの方が美味しいと言われる理由。
それは『旨み成分』の有無だ。
「どっちのマヨネーズも“ひと味足りない”って思ったのはそういうわけかー」
なら、対応は簡単だ。
「じゃじゃーん、ここで魚醤の登場!」
マトゥーカさんが持たせてくれた瓶。
この中の魚醤は『旨み成分』の塊だ。
ただし、魚醤は塩分もかなり多いので注意が必要だ。
私のマヨを塩分控えめにしといたのは幸運だった。
ともかく、マヨネーズにも今煮詰めているトマトにも魚醤をほんの少し加えるだけでもグッと味が引き締まって美味しくなるはずだ。
やはり魚醤。魚醤はすべてを解決する!
「さーて、いっちょ勇者に一発食らわせてやりますか!」
UMAMIはすべてを解決する




