勇者を倒すには
「やったわねアリスちゃん!」
勇者様御一行が帰った後、アンたちはすっかりお祭りムードだった。
「相手は勇者様で王子様なのよ? お側に仕えたことがあるってだけで、それこそ家の格を上げたい豪商やら下級貴族やらから見合いの話が殺到するわよ!」
「んなのより、いっそ王子様のお手つきになっちゃえばいいんだよ。上手くすれば愛人としてお屋敷の一つくらいもらって一生悠々自適の生活がおくれるよ」
「そうなったら毎日美味しいもの食べ放題よねえ」
いや、私、屋敷っていうか離宮なら一つ持ってるし。
美味しいもの食べられるのはいいかも。
でも、こっちは料理に関してはまだまだ発展途上って感じだしなぁ。
どうせ嫁ぐなら魔界の方が……
「いやいや! なんで私の結婚とか愛人とかって話になってるの!?」
私がツッコむと三人娘たちは「何言ってんだこいつ」みたいな顔をする。
「だって、これってそういうお誘いでしょ?」
「王子様がわざわざ会いに来るなんてそれしかないじゃない」
「いいなぁ、美味しいもの食べ放題……」
二人とも恋愛脳かと思ってたら、もっと現実的というか生々しい話だった。
いや、一人ぜんぜん違うこと考えてるけど。
うーん、これが普通の考え方なのか。
「なんでもいいさね。とにかく、アリスにとっちゃ良い話じゃないか」
「マトゥーカさん……」
「王子様なら給料ははずんでくれるだろうし、上手くすりゃあんたが行きたがってた聖王国に連れてってもらえるかもしれないよ」
『打倒勇者』のため聖王国に行くつもりだった。
でも今、その『勇者』が私を雇うと言っている。
確かにチャンスかもしれない。
「こいつで勇者様の胃袋を掴んでおいで」
そう言って、マトゥーカさんは魚醤の入った瓶を私にくれた。
……やってやろうじゃない。
マトゥーカさん直伝の料理で『勇者』に取り入ってやるんだから!
* * *
「というわけで、領主のお屋敷……っていうか『勇者』のところで働くことになったから」
その夜、私はベッドの中でお店であった事をりっくんに話した。
枕元の籠の中でりっくんはまるで興味なさそうに後ろ足で頭をかきかきする。
「では、相手の懐に潜り込んで寝首をかいてやろうということかや?」
「んなことしないわよ。まあ、弱点くらいは探るつもりだけど」
「なんじゃ、結局殺さぬのか。つまらん」
めちゃくちゃなこと言ってる。
「私、何もしてない相手に危害を加えるつもりはないから。将来的に敵になるかもしれないから、念のために準備しておくの」
「なるほどのう。それがおぬしの“落とし所”というわけじゃな」
嫌な言い方をする。
でも、間違ってはいないので言い返せない。
りっくんの言う通り、今の私には誰かを殺す覚悟も度胸もない。
だから、出来る限り命を奪う以外の方法で勇者と戦うつもりだ。
「そうよ。方法はたくさんあるはずなんだから。たとえば、“勇者に魔王と戦いたくない”って思わせるようにするとか──」
あれ? なんだこれ?
今何か、妙なイメージが脳裏をよぎったような?
具体的言うと、嫌味王子と初めて会ったあの時の──
「どうしたのじゃ?」
「な、なななっ、なんでもない! 寝る!」
私は頭に浮かんだ妙な光景を振り払うように布団をかぶった。




