正しい勇者のもてなし方
「おまたせしやーしたー」
投げやりに言って、二人の前に皿を置いた。
それを見た嫌味王子が顔をしかめる。
「これが、一番人気だと……?」
「そうですよー」
一番人気はこの店で二番目に安い料理、つまりは具なしパスタだ。
ニンニクで香り付けして、最後に香草をちょこっと乗せただけのシンプル仕上げ。
ちなみに一番安いのはピクルスの小皿だ。
「小娘、貴様は俺をバカにしているのか」
「してません。ほんとにそれが一番人気なんですぅ」
うちの客なんてお金のない労働者ばっかりなんだから安い料理が人気になるのは当たり前だ。下町なめんなよ。
だけど、マトゥーカさんの料理がただ安いだけだと思うべからずだ。
「待ってください。確かに具も何もないパスタですが、変わった香りがします」
「なに……」
眼鏡が言うと、嫌味王子はあらためて料理の香りを嗅いだ。
「確かに、嗅いだことのない香りだ」
「やけにクセが強いですね。だけど、不思議と食欲をそそられます」
「どうぞ、冷めないうちにお食べくださーい」
私がうながすと、二人揃ってフォークを手にとってパスタを口に運ぶ。
さすが王子様。フォークひとつ扱ってもなんかこう優雅だ。
なんて、私が妙に関心している間、二人はゆっくりと最初のひとくちを味わった。
「……驚きました。最初臭みを感じたものの食べてみればそれが不思議と心地よくなっていく。このような味付けは初めてです」
そうだろうそうだろう。
それが魚醤パワーだ。
さて、嫌味王子の方はどうかな。
「…………」
あれ? 黙っちゃった。あんまお気に召さなかった?
不安になった私は恐る恐る聞いてみる。
「お、お味の方はいかがでしょうか……?」
「うるさい。少し黙っていろ」
なんだとおおおお!
ていうかこういうヤツだったよ! くそー! 油断した!
「エド、わざわざ足を運んだかいはあったか?」
「……ああ。悪くない」
あ、眼鏡の人には素直なんだ。
そういえばお互い名前で呼び合ってるし、仲良しなのかな。
ていうか、そういう感想は作ったひとに言うもんでしょ!
作ったのマトゥーカさんだけど!
「領主の館で出る料理よりははるかにマシだ。おい、給仕。もっと持ってこい」
えっらそーに!
でも、小娘から給仕に名称が変わってる。
ランクアップした?
「このパスタの味付けに使われているものは、他の料理にも使われているのですか?」
「うちの店のとっておきですから」
「なるほど。この店だけの味というわけですか。それはどのようなものなんですか?」
「企業秘密です」
「いくら払えば教えてもらえますか?」
「お金の問題じゃないです。そもそもここの店主の承諾を得てからでしょ」
「では、店主を呼んで来てください」
眼鏡男子はなかなか引き下がらなかった。
腹黒いうえに粘着とか、やはりこやつできる……。
仕方なくマトゥーカさんを呼びに行った。
「あ、あの……何かお気に障るようなことがありましたでしょうか……」
いきなり「店主を呼べ」なんてことなって、マトゥーカさんはすっかり怯えてしまっていた。
おのれ粘着眼鏡。マトゥーカさんをイジメると許さんぞ。
安心してマトゥーカさん、いざとなったら私がビシッと言ってあげるからね。
などと、心で堅く誓う私。
「いえ、料理はとても素晴らしいものでしたよ。私もエドワード殿下もとても気に入りました」
「そ、そうですか! よかったぁ」
「そこで、一つご相談があるのです」
今なんか、眼鏡がキラーンと光った気がした。
「我々がこの街に滞在する間の食事一切をこの店に任せたいのです」
「う、うちの店が勇者様の食事をですか!?」
うおおおおお! 何を言い出すんだこの眼鏡!
それじゃ、毎日ここへ来るつもりか!
「調理担当と、給仕をそれぞれ一人。領主殿の館へ派遣してもらいたいのです」
「うちは小さな店なんで、あたしがいないと営業ができなくなっちまいます」
「もちろん、それに見合うだけの報酬は払います。悪い話ではないと思いますが」
マトゥーカさんにとって、このお店は何より大事な場所だ。
いくらお金を積まれたからって、毎日来てくれる常連を無視して休業なんてしたくないだろう。
よーし、ここは私がビシッと言ってやらなきゃ。
「あのですね、お金の問題だけじゃ──」
「そういうことなら、この子が行きます!」
……は?
いきなり首を突っ込んできたアンが、私の肩を押しながらとんでもないことを口走った。
「そ、そうだよ! アリスなら一通りの料理は覚えてるし、給仕だってできるもんな!」
おい待てリズまで何言ってんだ!?
「アリスちゃん、ぜひ聖王国のお料理を覚えてきて!」
どさくさに紛れてメイまで妙なこと言ってるし!
「ちょ、ちょっと待って私は──」
「そうだね、アリスなら安心してうちの味を任せられるよ」
ぎゃあああああ! マトゥーカさんも何言ってるの!
「ほう……それは素晴らしい。どちらにせよ、給仕役は彼女にお願いしようと思っていたところです。エドワード王子がとても気に入っておられるようなので」
「おい、ルエイム、何を言って──」
「きゃあああっ!」
嫌味王子の言葉も、アンとリズとメイの歓声にかき消されてしまう。
「交渉成立ですね。それでは明日の朝、屋敷まで来てください。アリスさん」
「な……!?」
「ああ、それと。もう少しマシな格好をしてきてください。お側にいる者がそのように胸をはだけていては殿下の品格が疑われますからね」
なんでだあああああああああっ!




