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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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温かくて優しい手

 何等分にもされた巨体が鎖の間からバラバラと零れ落ちる。

 絶命した大蛇の身体はサーッと色が抜け、真っ白な塩の塊へと変わってそのまま崩れ落ちた。


「ふぅ……疲れたぁ。この魔法、強いのはいいんだけどめちゃめちゃ暑いのが難点よねぇ……ああ、シャワー浴びたい……」


 なんて、ぼやいている場合ではない。

 気になることがいっぱいある。


「まずはこの『大樹』よね……」


 『大樹』はまるでクリスタルのように透き通り淡い光を放っている。


「確か、『大樹』って神様の世界と繋がるためのもの……なのよね」


 魔界にあったのと色が違うし、これは天に向かって生えているというよりこの地下を支えているようにも見える。


「あーもー、どうせ考えてもわからないんだし、さっさと触ってみればいいのよ!」


 覚悟を決めた私は、そっと『大樹』の幹に触れた。


「あれ? なんにも起きない?」


 頭の中で質問をしてみたが、以前のように答えが返ってくることもない。

 『大樹』が光ったりすることもなかった。

 やっぱり同じというわけではないみたいだ。

 結局、何度やってもウンともスンとも言わなかった。


 *  *  *

 

 『大樹』のことは気になったけど、


「ただいまー……って、りっくんも大変だったみたいね」


 土人形を纏ったままのりっくんの周りには魔物の死体がいくつも積み重なっている。

 馬車も無事だ。


「まったく、妾をここまで働かせたのはおぬしが初めてじゃ。で、そっちはどうだったじゃ?」

「じゃーん、見て見て」


 大空洞からかついできた岩塩の塊を見せた。

 

「ほう、見事なものじゃ。……ところで、おぬし。またツノが生えてきておるぞ」

「ええっ!? ウソ!」


 慌てて頭を触ってみる。


 ……ほんとだ。


 完全に元通りというわけではないけど、確かにツノがもどってきてる。

 <肉体操作(シェイプ・シフト)>の魔法は時間経過で徐々に解けていくとは聞いている。

 だから、つい一昨日前に魔法をかけ直したばかりだ。


「もしかしたら、魔法を使いすぎると解除されるのも早まるのかも。強力な魔法に対応するために自然と身体が元に戻ろうとしたって線も考えられるわね……」

「考えるのは後にせい。いい加減、妾をここから出すがよい」


 りっくんの言う通りだ。

 考えるのは街に戻ってからにしよう。


「もうちょっとそのままでいてよ。岩塩を運ぶの手伝ってほしいから」

「やれやれ、まだこき使うつもりかや……」


 りっくんは溜息をつきつつ立ち上がる。

 そうして私はひとりと一匹?がかりで塩を運び出した。

 夜中までかかって馬車に積めるだけ積んで山を降りる。

 結局、フイディールの街に戻ったのは翌日のお昼をまわった頃だった。


 あの『大樹』のことは気になったけど、今は調べようがない。

 長耳族ルネースのヒトたちを連れてくれば何かわかるかもしれないが、それも難しいし。

 そんなわけですっぱり諦めることにした。

 わからないものはいくら考えてもわからない。

 無駄な事はしないのが私の信条だ。

 そんなわけで、塩を採れるだけ採って大空洞の入り口は魔法で念入りに塞いでおいた。


「ふふーん♪」

「ずいぶん上機嫌じゃのう」

「だって、これだけ塩があればいろいろできるもん」


 料理の味付けはもちろん、塩竃焼きや塩漬けなんかもできる。

 塩が遠慮無く使えるだけでお料理の幅はあなり広がるのだ。


「お醤油とかお味噌とか作れないかな。でも、こっちには大豆がないかー。そのためだけにわざわざ魔界まで戻るのもどうかと思うし……うーん……」


 あれこれ考えていると、お店が見えてくる。

 店の前にマトゥーカさんがいた。


「アリス! ああっ、やっと帰ってきた!」


 マトゥーカさんは私を見つけると慌てた様子で駆け寄ってきた。


「マトゥーカさんどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、あんたがなかなか帰ってこないから……!」


 そっか。馬車がないといろいろ不便だもんね。


「大丈夫大丈夫。馬も馬車も無事だから。それにほら……!」


 荷台にかけてあった布をとっぱらう。

 そこには大量の岩塩が積んである。

 これを見ればマトゥーカさんも大喜びのはずだ。


「どう? これだけあれば当分お塩に困らないでしょ」

「このバカ娘!」


 マトゥーカさんは大きな声で怒鳴った。


「え……」


 なんで、怒ってるんだろう。

 お塩が足りないっていうからとってきたのに。

 きっと喜んでくれるって、そう思ってたのに……。


「いくら魔法があるからってねぇ、無茶なことはするんじゃないよ! あたしゃ心配で心配で眠れなかったんだ!」

「あ……」


 心配、してくれたんだ……。

 ぜんぜん想像もしていなかった。

 だって私は魔族で、たまたまマトゥーカさんと出会っただけの赤の他人で……。


「あんたボロボロじゃないか。服だってこんなに煤だらけになって……」

 

 マトゥーカさんの手が私を抱き寄せる。

 水仕事で荒れた手のざらざらした感触。

 だけどそれはとても温かかった。

 温かくて働き者の優しい手。

 それがどれだけ素敵なことか私はあらためて気付かされた。

 前世の記憶があって魔法もある。

 いつの間にか私はなんでもできるつもりになっていたのかもしれない。


「塩なんて買えばいくらでもどうにでもなるんだ。だけど、死んじまったらどうしようもないんだよ」

「うん……ごめんなさい」


 マトゥーカさん腕の中で、私は不思議とお母様のことを思い出していた。

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