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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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大空洞の戦い

バトル回。

 坑道の中は思っていたよりもずっと狭かった。

 というよりも、あちこち崩落していて進めないところが多いって感じだ。

 おまけに、こういう穴蔵を住処にしがちな魔物とまったく遭遇しない。

 おかげであっという間に最奥までたどり着いてしまった。


「さてと……“ベオース”」


 手の平を地面にかざし呪文を唱える。


 <誕生(ベオース)>は<(ルーティ)>に属する源理だ。

 その名の通り『誕生』の他に、『発見』や『発覚』を象徴する。


 手の平からポタリと落ちた雫は地面に触れると光の波紋になって土の中に広がっていった。

 私は目を閉じ『返事』が返ってくるのを待つ。

 しばらくしくそうしていると、私の放った光が目当ての物に触れた。


「見つけた。この下ね。けっこう深いけど……まあ、なんとかなるでしょ」


 あとは掘るだけだ。


「<穴掘り(ディグ・ダグ)>」


 魔法が発動した途端、目の前の地面にボカッと穴が空いた。

 本来、工事現場なんかで使われる魔法だ。

 城の庭に地下道を作るためだけに覚えたんだけど、まさかふたたび日の目を見るとは思わなかった。

 なんでも学んでおくものである。


「よーし、どんどんいくわよー」


 気を良くした私は<穴掘り(ディグ・ダグ)>を連発して下へ下へと掘り進めていく。

 後になって、この時もうちょっと慎重になっていればと思う。


「もういっちょ、<穴掘り(ディグ・ダグ)>!」


 ビシッ


 なんか嫌な音がしなかった?

 そう思った直後、足下の地面が崩落した。

 岩塩がある場所はもともと大昔に海水が溜まっていた場所だ。

 長い時間をかけて水が干上がり、そこに塩の結晶が残るわけである。

 つまり高確率で空洞があるのだ。


「うにゃああああああああ!」


 そうして私は真っ逆さまに落ちていった。

 

 *  *  *


 気付けば地面に突っ伏していた。

 どうやら生き埋めとかにはならなくてすんだようだ


「いたたた……念のため防御魔法かけておいてよかったわ……それにしても、ここ……」


 ちょっとした村が収まりそうなほどの大空洞だ。

 しかも壁や地面が一面、薄桃色がかった結晶で出来ている。

 そうだ。これは間違いなく──


「岩塩だ!」


 お目当ての塩を見つけた。

 しかもとんでもない量の。


「これなら一生お塩に困らないわね」


 ううん、それよりも岩塩採掘が再開してこの辺りが一大産地になるかも。

 そしたら街も潤ってマトゥーカさんや街の人たちも大喜びかな。

 さっそく掘り出して……と思った矢先、私の目は大空洞の中央に釘付けになっていた。

 塩の結晶が作る地下の白亜の宮殿の中で、それは周囲とは違い自ら輝きを放っていた。

 

「な……なんで『大樹』があるのよ……」


 見間違うはずがない。

 大図書館にあった『大樹』とそっくりだ。

 だけどあれよりももっと大きい。

 まるで大空洞を支える一本の大きな柱のように『大樹』はそびえ立っていた。


「よく見たら少し色が違う……? じゃあ別のものなのかな……」


 確認しようと近づいていった時だった。

 ()()()()()が『大樹』の後ろから鎌首をもたげたのだ。


「蛇……ううん、竜かな? えっと、ご機嫌よう?」


 一応、お姫様らしくご挨拶してみた。


 グラララララッ


 どこからか雷にも似た音が響いてくる。

 見れば背中にある無数の突起のようなものが震動している。

 さながらガラガラヘビの威嚇音のようだ。


 ……ん? 威嚇音?


 唐突に、大蛇は頭を下げこちらに背中の突起を向けた。

 突起がさらに激しく震動したかと思うとそこから“つぶて”のようなものが私に向かって発射された。


「うわっと!?」


 雨のように降り注ぐ“つぶて”を思いっきり後ろに飛び退いて避けた。

 “つぶて”は地面に当たって砕け、白い破片になって散らばった。


「塩……岩塩を弾丸みたいに飛ばしたってわけ!?」


 塩のつぶてと言っても私の拳よりも大きな塩の塊だ。

 当たればただじゃすまないだろう。


「でっかいくせに器用なことするじゃない。まあ、でも、宣戦布告ってことよね? これって」


 無益な殺傷ってやつは好むところじゃないけど、おそらく……いや、間違いなくこいつは私を逃がしてはくれない。この大空洞にやって来た者は誰一人の例外もなく死を与える。そういう存在だ。

 直観というよりも本能みたいなものが私にそう告げていた。


「こっちだってあんたのお腹におさまるわけにはいかないの! お塩持って帰らなくちゃいけないんだから!」


 大蛇を中心に弧を描くように走り出す。

 正面にいたらまたあの塩の“つぶて”が飛んで来る。

 あれを連発されているとこっちも回避一辺倒になってしまう。

 そこをあの巨体で襲い掛かってこられたらわりとキツい。


「回り込んで、魔法で動きを止めて──」


 と思ったら、いきなり何かが目の前から突っ込んできた。


「うわっ!?」


 私はそれを背面跳びの要領で咄嗟に飛び越えてかわした。

 見ればそれはやつの尻尾だった。

 

「ていうか、長っ! どれだけでっかいのよ!」


 大きいっていうのはそれだけで脅威だ。

 おまけにここには逃げ場もなければ隠れる場所もない。

 あ、いや、ひとつだけあったわ。


 その後も、大蛇は尻尾を使って、私を叩きつぶしにかかる。

 どうやら“つぶて”は連発できないようだ。

 私は尻尾をかわしながら『大樹』の後ろへと飛びこんだ。

 その途端、尻尾の攻撃がピタリと止む。


「やっぱり。あんたこれを傷つけたくないのね」


 こんな餌も何も無い場所に、これほどの巨大生物が自然に生息するようになったとは思えない。

 コイツはおそらく『大樹』に近づけさせないために置かれた守護者のような存在なのだろう。

 誰が、何のために、ここを守らせているのかはわからないけど、少なくともその誰かにとって『大樹』が大切な物であることは間違いない。


 そんなことはともかく、ほんの一時でも大蛇の攻撃が止んだのならこっちのものだ。


猛々しき獣(エ・ブイドゥヤ) 火の沼を泳ぐもの(バディエ・ドゥ) |狂喜の坩堝より沸き立て《ウィル・ウル》」


 呪文と共に私の周囲が高温になっていくのがわかる。

 熱を帯びた空気が揺らめき景色を歪ませ、地面が融解しグツグツと煮えたぎる。

 さながら地獄の釜の上にいるような気分だった。

 

「<黒き巨人の威容(スルト)>」


 初代魔王アリカトルヤが創り、好んで使ったというこの魔法には長らく名前がなかった。

 その理由は非常にシンプルだ。

 誰にも扱えなかったのだ。

 自分の周りに超高温の壁を作りだし、あらゆる攻撃を防ぐと共に触れた相手に大ダメージを与える。

 まさに攻防一体の最強スタイル。

 しかしながら継続的に大量の魔力を消費するわ、上手くコントロールしないと自分が大やけどしちゃうわでめちゃくちゃ使い勝手が悪い。

 それなら別の防御魔法を使った方がよっぽど効率的だし、攻撃だって魔法で火球を飛ばす方が手っ取り早い。

 じゃあ、なんで私がそんな魔法を使っているかと言えば──


 めんどくさいことがしたくないからだ!


 いや、ほら、火球とか相手に投げるわけじゃん?

 あれってちゃんと当てるには練習が必要なわけよ。

 自慢じゃないが、私のコントロールは壊滅的だ。


 小学生の時、ドッジボールで男子の眼鏡を破壊したのを皮切りに、中学の時は体育の授業のキャッチボールで教頭先生の愛車のドアミラーを破壊した。

 サッカーをすれば運動場の照明を破壊し、バスケをすればゴールを破壊。

 バレーをすればレシーブしたボールが体育教師のスマホに命中。そのせいで浮気相手とのL〇NEを奥さんにご送信してしまう。結果、体育教師の家庭も破壊してしまった。


 そうしてついたあだ名が『破壊王』である。

 私はどこかのプロレスラーか。


 まあ、ぜんぶ前世の話なんだけど。

 とにかく私と『投げる』という行為の相性はすこぶる悪い。

 だから、()()()()()()のは早々に諦めた。


 グラララララッ!


 またあの音だ。

 大蛇の背中の突起が振動し、塩の“つぶて”が降り注ぐ。

 だけど、それらは私に届く前にジュッと音を立てて蒸発してしまう。


「それはもう効かないわよ」


 私の言葉が伝わったのか、大蛇は突起を振動させるのをやめた。

 そして今度はその大きな口を開いて私に襲い掛かってきた。


「これを……待ってたのよ!」


 狙って当てられないのなら、()()()()()()()()()()

 それがこの魔法を選んだ理由だ。


 私は声をあげ、そして牙を剥きだしにして迫る大蛇の横っ面を……《《ぶん殴った》》。

 腕をつつむ高熱の空気は巨大な拳になって大蛇にカウンターを叩き込むと、その威力で見上げるような巨体が宙に浮く。


「まだまだぁ!」


 吹っ飛ばされる大蛇を見送りながら、私は足下の煮えたぎる地面に腕を突っ込む。

 熱を制御し溶けて灼熱する地面に形を与える。

 イメージは『鎖』だ。

 大蛇を縛りあげるほど長く強靭な鎖。

 腕の中に確かな感触が現れた。

 私はそれを引きずり出す。

 灼熱する鎖は、蛇のようにのたうち壁にぶち当たって動きを止めた大蛇へと向かうとその身体を縛り上げた。


 シャアアアアアアッ!


 大蛇が苦しみもがく声が大空洞に響き渡った。


 大蛇にもここを守る理由があったのだろう。

 だけど、こっちだって殺されるわけにはいかない。

 だって私にはまだまだやるべきことがあるのだから。


「ごめんね」


 わずかに芽生えた罪悪感と共に腕に絡まる鎖を引いた。

 灼熱の鎖は大蛇の身体を一瞬で焼き切った。

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