そこは人間たちの世界
この間のメンテの日に更新できなかったので、今日は2話投稿にしました。
世界の狭間から出た先は、緑豊かな土地だった。
荒れ地の多い魔界とはまるで別世界のようだ。
「ここが人間の世界……」
なんだか感慨深い。
『打倒勇者』を志してから初めて一歩を踏み出したような気分だった。
「で、これからどうするのじゃ?」
「まずは『聖王国』に向かうわ。そこに本物の『勇者』がいるらしいのよ」
エオスティア聖王国
飛空艇墜落事故で亡くなったフランツ王の国だ。
今は息子のカールって人が王位を継いでいるらしい。
同じく、飛空艇事故で亡くなったエドワード王子のお父さんだ。
エドワード王子かぁ。
生意気で嫌味な王子だった。
最後にやられたまんまで終わったのが悔しい。
今度会ったら絶対に仕返ししてやろうと思ってたのに……。
「どうかしたのかや?」
「ううん、なんでもない」
干渉に浸っていても仕方ない。
気持ちを切り替えて行こう。
目指すはエオスティア聖王国だ。
「で、ここはどのあたりなのじゃ? さっさと街か村に行ってゆっくりしたいわい」
「ギヨッド河の近くよ。この先、半日くらい歩いたところに小さな村があるはず」
「なんじゃ、聖王国ではないのか。『裂け目』とやらを通ればあっという間に遠くまで移動できるのではなかったのかや?」
「あー、それね……スキルニールさんが教えてくれなかったのよ」
最初は聖王国までひとっ飛びに行ける『裂け目』の場所を教えてくれるはずだった。
ところが──
「やっぱり君に教えると危ない気がする」
とか言い出して、結局はギヨッド河を越えてすぐの『裂け目』しか教えてくれなかったのだ。
ひどい話だ。私が普通の子供だったら「大人はみんな嘘吐きだ!」と心に深い傷を負っていてもおかしくない。
まあ、直前に私が『アニメとかでよくある超絶威力の大爆発魔法とかないの?』とか聞いちゃったせいなんだけど。
ちょっと興味があっただけなのに。
そんなわけで、ここからは地道にこの足で旅をしなければならない。
どこかで馬とか馬車くらいは手に入れたいところだ。
『聖王国に“勇者”が誕生した』
そういう話を聞いたのもずいぶん前のことだ。
今もいるのかどうかはわからない。
でも、私には他に『勇者』に関する情報がない。
お父様たち氏族会議はいろいろ調べているみたいだけど、当然ながら私には教えてくれなかった。
むしろ私だからこそ教えないようにひた隠しにしていたフシさえある。
おのれお父様め。
「やれやれ、歩くしかないのじゃな」
「りっくんはカバンに入ってるだけでしょ。歩くのは私」
ま、ぼやいてても仕方ない。
がんばって歩こう。
「っとと……!」
とか言った矢先に転びそうになった。
「うーん、急に背が伸びたから感覚がおかしくなってるわ」
「転んで妾を潰すでないぞ」
いざって時はりっくんをクッションにしてやる。
そう胸に刻みつつ歩きだした時だった。
少し離れた場所を何かが土煙を上げながら突き進んでいるのが見えた。
「なにかしら、あれ」
「……馬車じゃな。どうやら魔物に追われておるらしい」
私には遠すぎてわからなかったけど、りっくんには見えているらしい。
「馬車ってことは、きっと人間が乗ってるのよね」
「そうじゃろうな。ちなみに追っかけておるのは“ワーグ”じゃ」
「うげっ……」
ワーグというのはハイエナとオオカミの中間みたいな魔物だ。
一匹一匹は大して強くもないのだけど常に群れで行動する頭の良いやつらだ。
獲物を見つけると交代制でいつまでもどこまでも追ってくる。
旅人が三日三晩ずーっと追い掛けられ、心身共に疲れ果てついつい居眠りしたところを……。
なんていう話もよく聞かれる決して侮れない魔物だ。
数も多くお手軽に狩れるのだが、毛皮は変な柄でゴワゴワしてるし牙や骨も脆いので大して使い道がない。
なにより、顔が気持ち悪い。
そんなわけで魔物狩りでは不人気ワースト5に入る。
「こっちにもいるのね。何匹くらい?」
「二十匹といったところじゃの」
そこそこの群れだ。
馬だけならともかく、荷を積んだ馬車だと逃げ切るのは厳しいかもしれない。
「決めた。助けにいく」
「どういう風の吹き回しじゃ。相手はニンゲンじゃぞ」
「助けてあげたらきっと村まで乗せてくれるでしょ」
正直、ここで見過ごすのも寝覚めが悪いもんね。
「しかし、アレにどうやって追いつくつもりじゃ?」
「別に、追いつく必要なんてないわよ。向こうに来てもらうから」
複雑な魔法を構築するまでもない。
ちょっと<音>の源理に働きかけるだけでいい。
「こっちよー!!!!」
私の口から出た声は、大音量になって辺りに響き渡った。
「そういうことをするなら先に言わんか! 鼓膜が破けるかとおもったわ!」
「な、なによ、りっくん耳なんてないじゃん」
「ちゃんとあるわい!」
ナマコモドキみたいな見た目してるくせに。
とかなんとかしているうちに馬車が進路を変えてこちらに向かってくるのが見えた。
ワーグたちもしっかり着いてきている。
よしよし狙い通りだ。
「馬車に当てないよう気をつけて…………<災いの茨>」
源理を紡ぎ現象を構築する。それが魔法だ。
『世界はそのように在る』という強い確信が力に変わったその瞬間、魔法は発動した。
大地を突き破って現れた“黒い茨”が、ワーグたちの身体を絡め取る。
その途端「ギャイイィィッ!」と断末魔にも似た呻き声があがった。
<茨>の源理は『痛み』や『神経』を司る。
だから<災いの茨>という魔法は動きを封じると同時に、相手にとてつもない痛みを与えるのだ。
ワーグたちが抜け出そうと暴れれば暴れるほど茨は身体に食い込みさらなる“痛み”を与えた。
まさに一網打尽。さすが私!
「おい! 何匹か取り逃がしとるぞ!」
「え、ウソ!?」
りっくんに言われてハッと振り返る。
確かに数匹、黒い茨の網を逃れてしまっている。
「おっかしーなー。効果範囲ミスった?」
って、そんなこと言ってる場合じゃない。
運良く逃れた数匹がいよいよ馬車に迫ろうとしていた。
「させるか!」
私が腕を振ると、黒い茨が数本伸びていって残る数匹の後ろ足を捕らえた。
ちなみに<茨>の源理は<火>の系統に属している。
炎が次々に引火していく様子を、繁茂する茨の蔦になぞらえて『連なり』や『連続性』も象徴している。
なので、こういう派生技も可能なのだ。
しばらく痛みにもがいていたワーグたちだけど、すぐに自力で茨を食い破って抜け出した。
伸び縮みする分、斬ったり裂いたりには弱いのがこの魔法の弱点だ。
「逃げられてしまうぞ。よいのか?」
「こんだけ痛い目にあえばもう追ってはこないわよ」
頭のいい魔物っていうのは、基本的にみんな臆病だ。
引き際もちゃんと心得ている。
案の定、ワーグたちはすごすごと退散していった。
「さーてと、馬車の方は大丈夫かし……って、あれ……?」
急に目の前がチカチカして、身体から血の気が引いていく。
ヤバい。と思った時にはもう遅かった。
足の力が抜け、フワリと浮くような感覚と共に地面に倒れ込む。
そうして私は意識を失った。




