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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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姫様の変身

「あったあった。これね」


 列車を降りた私たちは『裂け目』の目印を探していた。


「しっかし『お正月みたいな岩』って……いや、確かにその通りなんだけど」


 丸くて平べったい大きな岩の上にもう一つ一回り小さな岩が乗っていて、その上にさらにもう一つ丸っこい岩。

 普通の人にはちょっと変わった形の岩くらいに見えるだろうが、私たち転生者にとっては「どう見ても鏡餅じゃん!」とツッコミ必死。確かに目印としてはこれ以上無いのかもしれない。


 岩の前でスキルニールさんにもらった“石”をかざし、その石で解錠のためのルーンを刻むと、空間が溶けるように開いて『裂け目』がその姿を現した。


「やれやれ、またあの感覚を味わうのかや」

「がまんがまん。すぐに着くわよ」


 そうして、私たちは世界の狭間(ギンヌンガガプ)に足を踏み入れた。


 *  *  *


「うう……うんにょりするのじゃ……」


 『裂け目』から世界の狭間(ギンヌンガガプ)に入り、スキルニールさんの小屋までやってきた。

 グネグネと常に色や形を変える空間を通ったせいか、相変わらずちょっと変な感じがする。

 私は目眩程度ですんでいるけど、りっくんはだいぶやられてしまったようで到着するなりベッドにダイブしてグッタリしていた。


「……スキルニールさん、やっぱりまだ来てないみたいね」

 

 小屋の中は前に来た時と何一つ変わっていなかった。

 簡素な内装にミスマッチな私が持ち込んだ場違いに可愛い家具。

 そして、机の上に積み重なった私からの手紙。

 初めてスキルニールさんに会ったのが七年前。

 あれから何度も手紙のやりとりをして情報交換をしてきた。

 スキルニールさんは人間の世界のこと、私は魔族のこと。

 最初の数年はちゃんと手紙がなくなっていたが、この一、二年くらいは私からの手紙ばかりが机に積み上がっていくばかりだった。

 つまり、スキルニールさんはこの小屋に来ていないってことだ。

 何かあったのだろうか。


「心配なら連絡してみればよいではないか。確か、その石ころを叩けば相手にも伝わるのじゃろう?」

「うーん……それも考えたんだけどね。これは緊急の連絡手段だから。何かあったならスキルニールさんの方から連絡してくるでしょ」


 そのうち読まれることを願って、私は新しい手紙を一番上に置いた。

 

「さてと……準備するから、りっくんあっち向いてて」

「んー?」


 お気に入りのよそ行き服を手早く脱いで、すっぽんぽんになる私。


「なんじゃ、ついに露出趣味に目覚めたのか」

「あっち向いててって言ったでしょ」

「そなたの裸なんぞ興味ないわ。だいたい妾はメスじゃと言うとるじゃろうが」


 そういえばそうだった。

 でも、なんかヤなんだもん。

 気を取り直して魔法に集中する。

 そっと両手を頭のツノに添えて呪文を唱えた。


「<肉体操作(シェイプ・シフト)>」


 スキルニールさんに教わった身体を変化させる魔法だ。

 この七年間しっかりと練習してきたが本気で使うのは初めてだった。

 

「う……!」


 ツノの根元から何か熱いものが流れ込んでくる感覚に思わず呻いた。

 熱は、首から下へどんどん広がっていき身体の中で煮えたぎるように渦巻いていく。

 

 けっこうキツいぞこれ!?

 いや、でも我慢しないと……これをしないと人間の国に行くことなんてできないんだから。


 きっと上手くいっているはずと信じて私は魔法を続けた。

 そうしてしばらく耐え続けると、やがて熱も引いていった。


「うまくいったかな……?」


 恐る恐るあたまに触ってみる。

 ……ない。

 ツノが、すっかりなくなっている。


「やった! 成功よ! 見て見てりっくん!」

「見るなと言ったり見ろといったりどっちなんじゃ……ん?」


 しぶしぶベッドから起き上がったりっくんが、奇妙なものを見たような顔をする。

 いや、ナマコの王様みたいなりっくんの表情なんてわからないんだけど。


「そなた、なにやら背が伸びておらんか?」

「へ……?」


 慌てて姿見を確認する。

 あれだけ主張していたツノはすっかり消えてなくなり、ついでに髪色も地味な赤茶色になっている。

 うん。ここまでは私のイメージ通りだ。

 でも……。


「ほんとだ! なんか私大きくなってる!?」


 私の身体は、ちょっと大人になっていた。

 だいたい十五、六歳くらいだろうか。

 背が伸び、どうにも成長が芳しくなかった胸もしっかり膨らんでいる。

 やったー!


「いや、『やったー』じゃないって!?」


 そういえば<肉体操作(シェイプ・シフト)>の魔法について、スキルニールさんからの手紙に注意事項が書いてあったのを思い出した。

 

「肉体を変化させても、君という存在の“量”が変わるわけじゃない。たとえば、腕を増やそうとすればその分の材料を身体のどこかから持ってこないといけないし、耳を小さくすれば減った分はどこかに格納されるんだ」


 その他にも、羽だの尻尾だの元々持っていない“器官”を作ることはできないとか、肉体は元の形をちゃんと覚えていて自然と元に戻ろうとするだとか。


「ってことは、“ツノ”を消した分がこの身体の成長ってわけ……?」


 身体が数年分成長するって、いったいこの“ツノ”には何が詰まっていたんだ。


「まあ、でも結果オーライよね。だってさすがに十二歳の女の子がひとりでウロチョロしてると目立つし」

「前向きじゃのう。それはいいが、さっさと服を着たらどうじゃ?」


 おっと、そうだった。

 ナイスバディ(個人の感想)に成長した自分に見惚れている場合じゃなかった。


「うーん、でもまいったわね。用意しといた服がどれも入らなそうだわ」


 さすがにお姫様に用意された服で人間の国をウロウロするわけにはいかないので、兼ねてからここに庶民の衣服を準備しておいたんだけど、無理に着たら破けちゃいそうだ。


「スキルニールさんのをいくつか借りちゃお」


 男物だけどこの際仕方ない。

 ズボンと上着を見繕うことにした。

 さすがに下着はどうにもならなかったので、いらない布を裂いて簡易なのを作った。

 見た目は漂流者かアマゾネスだ。


「よし、こんなもんでいいでしょ」


 ズボンにブーツ、その上から短衣を重ねた。

 ズボンはウェストを軽くつめて長い丈は折ってブーツの上に出す。

 短衣も邪魔にならないよう腰の辺りにまくり上げて余った布を後ろで結んだ。

 うん。ウェストもキュッとしまってなかなかいい感じだ。

 最後に、上から外套を羽織れば完成だ。

 とりあえずしばらくはこれでなんとかしよう。


「そんじゃ、出発するわよ」

「もう行くのかえ? どうせなら一晩休んでからに……」

「だーめ。ほら、カバンに入って入って」

「ぬぅ、妾を荷物扱いするでない」


 りっくんを無理矢理カバンに詰めこんで、私は小屋を後にした。

変身すると身体が縮んだり大きくなったりしちゃうのいいよね……

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