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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
人間の世界へ
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魔導列車と凸凹コンビ

 あれから、私の脱走計画は次々と失敗を重ねていった。

 昼間はニコラスとメリッサが常に側にいるし、夜はカーミラさんを筆頭に夜魔族エムプサの見廻りがいてすぐに見つかってしまう。

 完璧な包囲網だ。

 お父様が裏で糸を引いているとしか思えない。

 おのれお父様め!


 などと逆恨みで鬱憤をためていた私に気付いたのか、お父様からこんな提案があった。


「“試験運転”に、私が……ですか?」

「うむ。アレの開発にはそなたもいくらか助言をしたのだろう?」


 アレというのは『魔導列車』のことだ。

 はじまりは、確かに「魔車(キャリッジ)を大きくしたら便利じゃない?」という私のひとことだった。

 そこに人間との関係悪化からくるギヨッド河周辺の砦建設ラッシュで『大量のヒトや物資を運ぶ必要性』というのが出て来たことが開発を後押しした。

 そうしてわずか七年で『魔導列車』とそれが走るための路線第一号が完成したわけである。


 ちなみに、私がした助言というのは別に大したことじゃない。

 あの時は大きな列車を浮かべるための魔力をどう捻出するかで開発が難航していた。

 大樹の根が保つ<地>の源理と<風>の源理の反発作用で浮かぶのが魔車キャリッジの仕組みなのだけど、単純に大きくするだけではバランスが崩れて用途を為さなかった。

 運搬能力をとれば速さが犠牲になり、速さをとればただの鉄の塊が移動するだけになる。

 開発者は頭を悩ませていた。

 たまたまお父様の視察に同行していた私はその話を耳にして、思わずこう言った。


「いや、車輪つけちゃえば?」


 魔車(キャリッジ)=浮かぶ。ということに固執していた開発車たちはそれを聞いて目から鱗だったらしい。

 別に無理に浮かべなくていいのだ。

 さらに反発力にプラスして別の動力も付けてしまえば魔力コストはかなり抑えられる。

 そんな感じで無事に問題は解決。

 ついに『魔導列車』は実用化に至ったわけだ。


 下手に魔法が発達し過ぎてるせいで、なんでもかんでも魔法で解決しちゃおうってなるのが魔族の欠点よねー。

 私に前世の知識があって良かったわ。


「是非、そなたに最初の乗客になってほしいとのことだ。どうする? 断ることもできるが……」

「いえ、絶対に行きます!」


 私は一も二もなく飛びついた。

 この時、私の頭の中には()()()()()が雷鳴のごとく閃いていた。


 *  *  *


 試験運転の当日。

 私とお父様は、首都アリカトルヤを離れて荒野のど真ん中に来ていた。

 目の前には魔導列車の実物が白い蒸気を吹き上げている。

 魔導列車は源理による反発作用と蒸気機関のハイブリット車なのだ。


「思ってたよりずっと大きいのね」

「当然だ! 実際に運用がはじまりゃ後ろに山ほど荷物を載せて突っ走るんだからな。必要なのはパワーと頑丈さだ!」


 鼻息も荒く解説してくれたのは豚鼻族(イディク)のライドだった。


「確かに運搬能力は重要ですがそこで運ぶものの多くはヒト。安定性や快適さこそが重要なのです」


 そんな技師ライドの意見に長耳族(ルネース)の男性が反論する。


「ディ! てめぇ、オレが間違ってるってぇのか!」

「間違いとは言ってません。どちらをより重視すべきかという話です」


 設計担当のディ・トレビシックと実際に作る技師のライド・スチーブンソン。

 このふたりが『魔導列車』の開発者だ。

 見ての通り、種族も違えば性格も真逆。何かと言い争いの絶えないコンビだけど、何十年来の幼馴染みで共同で会社も経営しているらしい。

 

「いいか! まずはパワーだ! そしてパワー! ついでにパワーだ!」

「まったく、あなたは昔からそうやってなんでも単純にしてしまう。悪いクセですよ」

「んだとぉ! やんのかコラァ!」

「いいでしょう。受けてたちます」


「これ、止めぬか。私はおまえたちのケンカを見に来たのではないぞ」


 見かねたお父様がふたりを止めた。

 よかった。このまま殴り合いのケンカがはじまるのかと思っちゃった。


「す、すんません陛下!」

「すぐに試運転に入ります」


 そうして凸凹コンビはキビキビと準備をはじめる。


 ポオオオオオッ!


 しばらくすると魔導列車が盛大に汽笛をならした。

 どうやら準備ができたらしい。

 コンビ仲は微妙でも腕は確かだ。


「陛下、どうぞお乗りください」

「うむ」


 折りたたみ式のタラップ降りて、私たちはそこから列車に乗り込んだ。

 お父様を先頭に、私、メリッサ、ニコラスに加えてメイドと護衛を数名引き連れていく。なかなかの大所帯だ。

 それでも車内は広くて充分なスペースがあった。


「しゅっぱぁつ!」

「進行!」


 全員が着席したのを確認すると、列車はふたたび汽笛を鳴らす。

 運転はライド&ディのコンビだ。息の合った掛け声と共に列車が動きだす。


「おお! 動いた、動いたわよ!」

「アリステル様、危ないですからどうかお席にっ」

「そんなに心配しなくてもへーきよ。そのへんをぐるっと走るだけなんだから」

「で、ですが……」


 ニコラスがあまりに不安な顔をするので大人しくしていることにした。

 身体はでっかくなっても心配症なのはそのまんまだ。

 

 列車はだんだんと速度を上げていく。

 それにつれて次第に揺れも大きくなっていった。


「こ、こんなにも揺れるものなのか」

「試運転だし、仕方ないんじゃない?」


 お父様もなんだか顔色が悪かった。

 うーん、でも思ったより揺れるのは確かだ。

 元の世界の電車と比べるのはどうかと思うけど、もうちょっとなんとかならないもんか。お尻が痛くなりそうだ。


 *  *  *


 一時間ほどの試運転を終えて列車は元の場所に戻ってきた。

 屋根も何もないただの目印だけの簡素ホームに、私を含めた乗客が降り立っていた。


「お父様もニコラスもだらしないわねー」

「も、申し訳ありません……」

「そなたはなぜ平気なのだ……」


 どうやら列車の旅はあまり好評とは言えなかったらしい。お父様やニコラスはすっかり酔っちゃったみたいで青白い顔で座りこんでいた。

 平気なのは私とメリッサくらいのものだ。


「メリッサ、お父様たちを頼んだわね。私はもう一回乗ってくるから」

「かしこまりました」

「あ、アリステル様……自分も……」


 すると、ニコラスがすかさず立ち上がって私に着いてこようする。


「気持ちは嬉しいけど、吐いても背中さするくらいしかできないわよ、私」

「う……」


 主に迷惑をかける未来が想像できたのか、諦めて座り混むニコラス。

 ふっふっふ……これで準備は整ったわ。

 私は内心ほくそ笑みながら列車に向かった。


「もっと車輪と車体をでっかく重くすりゃいいだろ! そうすりゃ荒れた地面なんぞものともしねぇって!」

「そんなことをしたら圧倒的に燃費が悪くなります。やはり、キャリッジ同様に浮かせるのが……」

「それじゃ最初っからやり直しじゃねぇか!」

「しかし、今のままではヒトを運ぶのに適していません。積荷が壊れる可能性だって……」


 列車に戻ると、案の定ライド&ディのコンビが口論の真っ最中だった。

 どうやら、お父様たちを苦しめた“揺れ”をどう改善するかでもめているようだ。


「列車じゃなくて、道の方をなんとかすれば?」


 私が声をかけると、ライドとディがハッとした様子でこちを振り返る。


「道が悪くて揺れるなら、道の方をなんとかした方がいいでしょ」

「姫さん、そりゃ無茶だぜ。首都から砦までどんだけの距離があると思ってんだ」

「でも、列車の設計からやり直すよりは手っ取り早いでしょ?」

「理屈はわかるけどよぉ……」

「いえ、悪くない案かもしれません」


 ディは考え込むようにして言った。


「問題は、<地>の力が場所によってバラバラだということです。そのため列車側から発する<風>の力をコントロールして安定させているのですが、どうしてもタイムラグは起きてしまう。その結果、速度を上げれば上げるほどむしろ揺れはひどくなる。ならば最初から()()()()()()()()を通るようにしてしまえばいい」

「しかしよぉ、それじゃ決まった場所だけしか行き来できねぇぞ」

「いいじゃないですか。もともと『魔導列車』の目的は決まった場所にヒトと物を運ぶことです」


 なんだかよくわからないけど、要するに『線路』を作るってことよね。

 結局そうなっちゃうのか。

 やっぱり元の世界で列車を考えた人たちは偉大だったってことね。


「決められた道順を外れることなく運行する列車! 一定の速度で定刻には必ず到着する! そこにあるのは鉄よりも硬い秩序! ああっ、なんと美しい! まさに道具のあるべき姿です!」


 興奮気味に語るディ。ライドは「やれやれ」と頭をかいた。


「ディの野郎がこうなっちまったらやるしかねぇか。わかったよ付き合うぜ。帰ったら図面をひくぞ」

「ええ、任せてください!」


 なんかイイ感じに「その時、歴史は動いた」的な流れができつつあったけど、私の目的は魔導列車開発の立役者として名を残すことじゃない。

 ふたりと魔導列車には今ここで、どうしてもやってもらわなきゃならないことがあるのだ。

 

「盛り上がってるとこ悪いんだけど、私からひとつお願いがあるの」

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