首都に降る雨
その日は珍しく朝から雨が降っていた。
魔界は広く、地方によって気候がぜんぜん違う。
首都周辺は一年を通して雨が少ないところだ。
その首都アリカトルヤが泣いていた。
「ベルク・フォーリアは戦士だった。よき父であり、兄であり、友でもあった──」
墓地に竜人族の司祭の祈りが響きわたる。
私たちはそれを静かに聞いていた。
この世界でのお葬式は二度目だ。
お母さまの時とは、ずいぶん違っていた。
「彼はここにはおらず、ここは終わりではない。ベルク・フォーリアのジンが天へと還るその日まで……」
司祭がそう締めくくると、私たちは順番に『リタの花』を置いていく。
それが終わると棺は土の中に埋められる。
火葬じゃないのは、霊核を傷つけないためだろう。
「陛下! なぜですか!」
突然、エルマがお父さまに詰め寄った。
その目は赤く、ずっと泣きはらしていたことがわかる。
「父は、ずっと王家に仕えてきました! それなのに……!」
「やめなさい! エルマ! 陛下に対して無礼ですよ!」
エルマを止めたのは、姉のエルダだった。
「でも、姉上! 父上は亡骸すら帰ってきてないのですよ!」
「それは……」
飛空艇が墜落したのは、聖王国の南にあるイルランド王国の土地だった。
お父さまたちはすぐにイルランド王国に使者を出し、墜落の原因究明に協力したいと願い出た。
ところがイルランド王国からの返答は「国内への一切の立ち入りを許さない」というものだった。
そのせいで、ベルクさんや飛空艇の船員たちの遺体は家族の元に戻ってきていない。
魔族には「霊核を大樹に捧げることで天へと還る」という独特の葬送の風習がある。
それができないのだ。エルマが嘆くのも当然だった。
「ベルクのことはすまないと思っている。彼の国には引き続き交渉を続けるつもりだ」
沈痛な面持ちでお父さまが伝える。
ベルクさんとは戦士団にいたころからの旧知の間だったはず。きっと、お父さまだってつらいはずだ。
ううん、つらくないヒトなんてここにはひとりもいない。
悲しみの重さを比べるなんて意味がないことだ。
「ニコラス……」
そういえば、ニコラスがいない。
さっきまでエルマの隣にいたはずなのに。
私は辺りを見回してニコラスの姿を探す。
……いた。
ベルクさんの棺から離れた場所で、ひとり佇んでいる。
私はニコラスの方へ歩いていった。
「ニコラス……」
声をかけようとして、思わず口をつぐむ。
ニコラスは泣いていなかった。
拳を強く握りしめ、どこか遠くを睨みつけていた。
とても声をかけられる雰囲気じゃなかった。
私は、後ろ髪をひかれるような気持ちになりながらもその場を離れる。
ニコラスの視線の先にあるものがなんなのか──
できるだけ考えないようにしながら……。




