姫様落下中
どうもこんにちは。
百メートル級の谷底へただいま絶賛落下中のアリステルです。
確かひょうめんちょうりょく? だっけ? この高さでは水面も鉄みたいに硬くなるはず。助かる見込みはほとんどないだろう。
奇跡的に落下では死ななかったとしても、激流と名高いギヨッド河に飲み込まれては絶望的だ。
思えば贅沢な人生だったのかもしれない。
ごくごく平凡だった私が生まれ変わった先では『姫様』なんて呼ばれて、立派なお母さまと優しいお父さまに愛され、たった五年とはいえ不自由のない暮らしをさせてもらった。
ヒトの一生において幸運と不運が天秤の上で釣り合っていて、最終的にはプラスマイナスゼロになるのだとすれば、ここらが潮時なのかもしれない。
お父さま、先立つ不孝をお許しください。
お母さま、そっちへ行ってもあんまり驚かないでね。
あと、自分の魔法のせいで河に落っこちて死んだと聞いても呆れないでください。
ニコラスも泣かないでね。がんばって立派な戦士になるのよ。
ついでに、顔も知らないどっかの国の王子様ポール。さんざんドジとか言っちゃってごめんね。私も負けないくらいのドジでした。
他にも謝ったりお礼を言ったりしたい人はたくさんいるけれど、もうあまり時間がないみたい。
さようなら。
できることならまた来世で会いましょう。
完。
「って、そんなかんたんにあきらめてたまるかー!」
やばかった。あやうく遺言めいたものが脳裏をよぎっちゃったわ。
でも走馬灯とやらじゃないだけマシだったかも。
とにかく、私はこのまま死ぬつもりなんてもーとーない。
じゃあ、どうするかと言われれば、できることをすべてやる。
幸い、私には『魔法』という以前はなかった力があるのだから。
まずは落下して水面に叩きつけられるのに対処しなければならない。
それには<火>の魔法を使うことにした。
<風>の方がいいんじゃないのと思った人もいるかもしれない。
しかしそれはおそらく上手くいかない。
これまで試してみてわかったけど、どうも<風>の魔法は私が思っていたようなものじゃないようなのだ。
ともかく詳しい話は助かってからだ。
「“フウディン”!」
いつものようにサッカーボールくらいの火球がかざした手の平から飛び出した。
思った通り身体にグッと上方向の力がかかる。
よし、これを何度か繰り返せば……!
「“フウディン”! “フウディン”! “フウディン”!」
おお! 速度が落ちてきてるのが実感できる! 私って天才かも!
「って、うひょああああ! ま、まわる! 身体がまわる〜!」
と思ったら魔法を撃ち出す方向がズレていたらしくバランスを崩して身体が回転しはじめる。
これ、ちゃんと真下に撃たないとダメだ。
だけどこんな状態で正確に狙うのは無理だ。
となると方法は一つしかない。
「“フウディン”!」
両手の平からバーナーみたいに連続して<火>を噴き出すという状態にしてみた。
うーん、見た目はどこぞのスーパーヒーローかって感じだけど瀬に腹は代えられない。
そして確かに落下速度は収まってきたけど、でもまだまだパワーが足りない。
そこで火力を高め、さらにギュッと絞るように噴射していく。
余計にナントカマンめいてきたけど効果は抜群だった。
水面に到達する直前で落下速度はほぼゼロになった。
やっぱり私ってば天才!
よーし、このまま岸の方まで移動して……と思ったら。
「あ、あれ……? なんか……めまいが……」
ついでに、ぷすんぷすんと魔法の<火>が燃料切れを起こしたみたいに途切れ途切れになる。
これ、もしかしなくても魔力切れってやつ?
「やば……もうげんかい……」
ふっと意識が遠のく、せっかく危機を乗り切ったというのに私はそのままぼちゃんと河に落っこちたのだった。
どんなヒーローかはご想像にお任せします。




