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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
魔族のお姫様
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姫様vs王子様(順不同)

 秘密の会談からしばらく後、和平式典の準備がはじまった。

 式典と言っても記帳台で条文をしたためた紙にそれぞれサインするだけなんだけど、魔族と人間の軍隊がほんの数メートルの距離まで近づくのでそれなりの緊張感が漂っていた。

 同じ内容の書類が一対。それぞれお父さまとフランツ陛下がサインして、入れ替わってもう一枚にまたサインする。そうやってお互いのサインが入った書類を手元に残すわけだ。

 魔法なんてものがある世界だし、もうちょっとこうファンタジーな何かがあるかと期待してたけどそういうのはないみたいだ。

 それとも魔法の使えない人間に合わせたってことなのかな?

 式典の間、身辺警護の数人を除いてほとんどの兵士はそれぞれ橋の対岸に下がることになっている。

 護衛の兵士たちもナイフ一本たりとも所持することは禁じられている。

 フランツ陛下が指示したことらしいけど、かなりの反発もあったみたい。

 魔族には魔法という力があるから武器を取りあげても関係ないし、人間側から不公平だと不満が出るのも無理はないと思う。

 それでもフランツ陛下は「和平の場に武器は不要」と式典に参列する各国の人たちを説き伏せたらしい。

 さすが長年に渡って人間の国々をまとめてきたという聖王国の王さまだ。

 それに応えてかお父様も出来る限り友好的な態度をを示べきだって言って、魔族から式典に参列できるのはお父様と書記官が一人、護衛にはニコラスのお父さんと数名の兵士だけという最小限の人数にした。

 そんなわけで私も対岸でお留守番とあいなった。


「たいくつだわ」


 お父様たちが準備に勤しんでいる頃、私は天幕の中でふてくされていた。


「しきてんにさんかできるとおもったのに、はしのむこうでまってろなんてひどいとおもわない?」

「でも、ぼくたちまだ子供ですから。大人の邪魔になっちゃいけないと思います」


 ニコラスってば相変わらず真面目ー。


「だめよニコラス! そんなききわけのいいこといってちゃ、しょうらいおおものになれないわよ!」

「ええっ!?」

「というわけで、しきてんにしのびこむわよ」

「だ、ダメですよ! それに、どうやって……」

「ふふーん♪ じつはさくせんはもうかんがえてあるのよね。ついてきて!」

「あ、アリステル様待ってください!」


 そんなわけで私たちはこっそりと天幕を抜け出した。

 みんな式典の準備で忙しくて私たちのことなんか気にしてる余裕がないみたいだった。都合の良いことにエルマもその準備に駆り出されていなくなっていた。

 思った以上にあっさりと私は目的の場所にたどり着くことができた。


「みて、あそこ」

「荷車……ですか?」

「あれはニンゲンにあげるけんじょーひんがつんであるらしいわ。あそこにかくれてればかんたんにしのびこめるはずよ」

「む、むむむ無理ですよ! すぐに見つかっちゃいます!」

「しんぱいしょうねぇ。だったらニコラスはのこりなさい」

「え……」


 気の弱いニコラスを巻き込むのも気が引けるし、ここからは私ひとりで……。


「ぼ、ぼぼぼ、ぼくも行きます!」

「いいの? あとでめちゃくちゃおこられるとおもうわよ」

「そ、それでも! ぼくはアリステルさまの従者ですから!」


 あら、ニコラスってば可愛いこと言ってくれるじゃない。

 そこまで覚悟を決めた男の子を置いて行くわけにはいかないわね。


「じゃあ、ついてきなさい」

「はい! アリステルさま!」

「しーっ! こえがおおきいってば!」

「あ……す、すみません……」


 しゅんとなったニコラスも可愛いかったけど、今はケモショタを愛でている場合ではないのでグッと堪えることにした。

 戦士団のヒトたちに見つからないように、コソコソ隠れながらなんとか荷車にたどり着く。


「隠れるところ、ありますか……?」


 荷車の中を覗き込んだニコラスが不安そうに言う。


「ふっふっふ。あんしんなさい。すでにてはうってあるわ」


 私はニンマリと笑うと、手前の木箱の蓋を開けた。

 そこには大きな壷が入っていた。


「まさか、この中に隠れるんですか?」

「そうよ。わたしとニコラス、ふたりくらいならよゆーでしょ」

「でもこれ、魔力を注ぐと水が湧いてくる魔道具ですよ」

「だいじょーぶよ。おくりものなんだから、だれかがかってにつかったりはしないでしょ。そんなこよりいそいでかくれるわよ」


 そうしてさっそく隠れる私たち。

 思った通り、なんとか二人くらいなら入れた。ちょっと窮屈だけどね。

 

「いたたっ! アリステル様っ、ツノが!」 

「あ、ごめん」


 私の立派なツノがニコラスの頬をチクチクしていた。

 うーん、最近はコレにも慣れたと思ってたけど、やっぱ邪魔だわ。

 そんな感じで不幸な事故はあったものの、私たちは見事に隠れることに成功した。

 しばらく待っているとガタンと壷が揺れる感じがする。どうやら荷車が動きだしたらしい。


「いい? しきてんかいじょうについたらここをでるわよ」

「わ、わかりました」


 蓋をしめちゃったので暗くてよく見えないけどニコラスから緊張した様子が伝わってくる。


「そ、それで、ここを出た後はどうするんですか?」

「……………………」

「何も考えてなかったんですね……」

「ち、ちがうわよ! そこからさきはりんきおーへんにっていいたかったの!」


 いや、ほら、式典会場の様子なんてわからないし。アドリブだって必要よ。うん。

 とか言ってたらまたガタンと音がして荷車が止まった。

 ニコラスの信頼ポイントを若干目減りさせつつも、無事に到着したらしい。

 荷車の周りからヒトの気配がなくなったのを見計らって外に出ることにした。


「ぬ、ぬけない! はいるときはかんたんだったのに!」

「アリステル様! あんまりあばれないでください!」

「ああっ! ツノ! ひっかかってる! にょわ!?」


 もぞもぞしてるうちに入っていた壷がひっくり返って、私たちは文字通り外に転がり出るハメになってしまった。


「おい、何か大きな音がしたぞ」


「ニコラス! いそいでしたにかくれて!」

「は、はい!」


 這いつくばって荷車の下に潜り込む私たち。

 間一髪、兵士たちがやってくる前に隠れることができた。


「献上品の魔道具が倒れているぞ!」

「おかしいな、ちゃんと固定してあったはずなのに」

「誰かが中に潜り込んでたんじゃないだろうな」


 ま、まずい、ひとりカンの良いのがいる。


「ははは。まさか。そんなこと姫様だってしないって」

「だよな。いくら姫様がアレだからってなー」


 おいこら。アレってなんだアレって。


「アリステル様っ、飛び出して行っちゃダメですよ? ね?」

「わかってるわよ」


 ニコラスに言われなくたって私にも分別くらいある。

 今はグッと我慢しよう。だけど顔は覚えたぞこのやろう。

 兵士たちが壷を梱包し直して立ち去るのを待って、ふたたび動きだした。

 次の目標は式典の中心、記帳台だ。

 お父様とニンゲン側の偉い人──たぶんフランツ陛下だろう──が和平協定文にサインするための台。その後ろには魔族の国と聖王国の両方の紋章が入った天幕が掲げられている。

 その天幕の後ろに隠れてこっそり式典を見物するつもりだ。


「いまよ、ニコラス!」


 ふたたび隙をみて天幕の後ろへとダッシュする。

 なんとか見つからずにたどり着き、作戦成功! と喜ぼうとしたのも束の間、私は何かにぶつかった。


「んぎゃ!?」

「うわっ!」


 可愛い悲鳴をあげて私と同じように尻餅をついたのは、なんとエドワード王子だった。

 あやうくツノで串刺しにしちゃうとこだったよ。


「ウシ女!? なんでおまえがいるんだ!」


 むか。誰がウシ女じゃい。妖怪か私は。

 やっぱ串刺しにしとけばよかったか。

 いやいや、冷静に冷静に。ここで喧嘩しちゃったら外交問題……にはならないかもだけど、お父様の顔がつぶれてしまう。

 あくまで優雅に、淑女らしく対応してやろう。


「まあ、エドワードでんか。ごきげんうるわしう。こんなところでおあいするなんてきぐうですわね」

「なにが奇遇だ! おまえ、まさか式典を邪魔するつもりか!」

「まあ、そんなこといたしませんわ。エドワードでんかこそ、なぜこのようなところに?」

「フン。魔族と和平などお祖父様は騙されている。だから僕がお止めするのだ」


 邪魔しようとしてるのそっちやんけ!


 あー、危ない危ない。思わずツッコミそうになったよ。

 ていうかこの王子、うすうす感じていたけどかなりの自己中くんだわ。

 まあ、王子様なんて生まれじゃそうなるのも仕方ないのかもしんないけど。


「エドワードでんか、そんなことをしてはフランツへいかにしかられてしまいますわよ」

「お祖父様は僕を叱ったりするものか」

「さっきおもいっきりしかられてたじゃん」

「おい、何か言ったか」

「いえいえ、なにも」


 うーん、説得を試みてみたけど無駄っぽいな。

 あ、こういうのはどうだろう。

 しばらくは式典を見物して、飽きたところで自己中王子をけしかける。そんで騒ぎになったところをドサクサに紛れて逃げ出すのだ。

 おお! これなら忍び込んだことがバレない! お父様に叱られずにすむかも!


「アリステル様、すごく悪いこと企んでる顔になってますよ」

「そ、そんなことないわよ。おほほほ」


 ニコラスめ、だんだん私の心を読むようになってきている。


「わかりました。でんかをじゃましたりしません。ですが、しきてんをやめさせるにしてももうすこしおまちになったほうが……」

「うるさい。僕に指図するなウシ女のくせに」


 むかむか。

 また、言った。

 ウシ女のくせに、ですって……。


「あーら、さしずなんておそれおおい。ただ、でんかのさくせんがあまりにようちでいきあたりばったりなのでごちゅうこくさしあげてますのよ?」

「な、なんだと……!」


 自己中王子が驚いた顔で私を見る。

 もしかして他人に嫌味を言われるのは初めてだったのかしら?

 ふっ……温室育ちのお坊ちゃんはこれだから。


「行き当たりばったりなのは、アリステル様も同じでは……」


 そこは余計なこと言わなくていいのよニコラス。


「おまえ、僕に対してなんて口の利き方だ。僕は王子だぞ!」

「あーら、ひれいにはひれいでおかえししただけですわよ。で・ん・か♪」


 なんだかどんどん楽しくなってきたわ。

 悪役令嬢ってこんな気分なのかしら。いやーやみつきになる気持ちがわかるわ。

 今こそヒラヒラのついた扇子とかほしい。


「だいたい、わたくしもおうじょ。しかも、でんかはおうさまのまごですけど、わたくしはおうのひとりむすめですからたちばじょうはうえのはずでは?」

「なっ! む、むずかしいことを言って僕を騙すつもりか! やっぱり魔族は悪いやつだ!」

「おほほほ。このていどのことがわからないなんて、でんかはれいぎだけでなくおつむもたりませんのね」

「な、な、な……!」

 

 ついに言い返すこともできなくなって口をパクパクさせる自己中王子。


 完 全 勝 利。


 ……いや、よく考えたら子供相手に何やってんだ。

 と、私が我に返ったその時だった。


「これはどういうことだ!」


 式典会場にフランツ陛下の怒声が響き渡った。

ラブコメ展開(?)

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