表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
魔族のお姫様
21/131

人間の王子様

本日二話目の投稿です。

 式典の会場はギヨッド河にかかる巨大な橋──『ポール・ブリッジ』の上で行われる。

 ちなみに『ポール』は、例の河に落っこちて亡くなっちゃった王子様の名前からつけられたらしい。

 自分のドジが橋の名前と共に永遠に語り継がれてしまって王子様も草葉の陰で泣いていることだろう。かわいそうに。


 それはさておき。

 この『ポール・ブリッジ』は飛空艇と同じかそれより昔に作られたもので、遺跡としても貴重なものだとか。

 魔族にとっても人間にとっても貴重な文化遺産として見られているから傷つけたり壊したりなんてもっての他。この橋が『和平式典』の場所に選ばれたのもそういう理由かもしれない。

 式典の目的はこの度条文に一部修正が加えられた和平協定書に魔族側と人間側の両代表がサインすること。

 たぶんだけど、内容の修正よりもこうやって人間と魔族の代表が直接会って握手を交わすっていうのが本当の目的なんじゃないだろうか。

 まあ、そんなことより私にとって大事なのは、人間を直接この目で見られるということだ。

 橋の中央に調印のための台が置かれ、そこを中立地帯としてを橋の北と南にそれぞれ人間と魔族のテントが設置されている。

 魔族も人間もお互いの陣地から出てこないでいる。

 和平の場なんだからちょっとはおしゃべりすればいいのに。

 じゃないと私が生の人間を観察できないじゃない。


「アリステル様っ、ダメですよあんまりジロジロ見たら」

「いいじゃないちょっとくらい」

 

 ここから見る限り私の知ってる人間とそう変わりはないみたい。

 『勇者』はいないとわかったからって、人間と魔族が敵対している限り私の生活が脅かされていることに代わりはない。

 敵を知り己を知ればナントカカントカってやつだ。

 こういう機会でもなければ人間を間近に見られないんだからどうにかこうにか出て来てくれないものかしら。

 もうちょっと近くでみたいなーと、身を乗り出す私の首根っこをわしっと掴んだのはエルマだった。


「姫様、陛下がお呼びです」

「おとうさまが?」

 

 なんだろ。もしかして式典が始まる前に私に釘を刺しておこうってことかな。

 信用ないなー。まあ当然っちゃ当然だけど。

 そんな風に我が身を省みつつ、エルマに先導されるままに連れていかれたのは人間側の立派なテントだった。


「陛下、お連れしました」


 エルマと一緒にテントの入り口をくぐる。

 中にいたのはお父さまと、知らないお爺さんだった。

 

「ご苦労だった。そなたは外で待っていてくれ」

「はっ」


 エルマを下がらせると、お父さまは私にむかって微笑みかける。


「アリステル、こちらへおいで」

「はい。おとうさま」


 ちょこちょこと歩いてお父さま前に立つ。するとお父さまは私の背を押すように謎のお爺ちゃんの方に向き直らせた。


「私の娘、アリステルです」

「おお……」


 お爺ちゃんは、ふっと目を細める。その目をなぜか不思議と優しいと感じた。

 

「面立ちが奥方殿によく似ておる。目元は、そなた似か」

「そうでしょうか。自分ではよくわかりません」


 今度はお父さまの方が照れくさそうにしていた。

 なんだろう、この和んだ雰囲気。


「アリステル、この方はエオスティア聖王国の国王、フランツ・ヨーゼフ陛下であらせられる」


 そう紹介されて、私はすぐにスカートの端をつまんで礼をする。

 身分を聞いて咄嗟に身体が動くなんて、お姫さま生活も板についてきたのかもしれない。

 

「おはつにおめにかかりますフランツへいか。まおうフリエオールがむすめ、アリステルにございます」

「実に優雅な挨拶だ。アリステル殿下は幼くしてすでに淑女であるな」


 お爺ちゃんことフランツ・ヨーゼフ陛下はカラカラととっても楽しそうに笑った。

 今さら気づいたけど、この人は私が生まれ変わって初めて会う『人間』なのだ。

 見たところ、あっちの世界の人間とそう変わらないように見える。

 身体つきは思ったよりがっちりしていて背も高い。髪もヒゲもすっかり白くなって顔の皺も深いけど、かなりの男前だ。若い頃はさぞモテたに違いない。

 どことなくお父さまと雰囲気が似てるような……? いや気のせいか。


「余もアリステル殿下に紹介したい者がおる。孫のエドワードだ」


 すると、フランツ陛下の影から一人の少年が姿を見せる。

 少し黄色味がかったさらさらの金髪に蒼い瞳の絵に描いたような美少年だった。


「国は王太子カールに任せてきたゆえ代わりにその息子のエドワードを連れてきた。アリステル殿下とは歳の頃も近い。良い話し相手になるかと思いこうして引き合わせたのだ」


 ええと、王太子は次に王さまになる人って意味よね? その息子ってことはいずれ王さまになるかもしれない子ってことか。

 外交的立場としては魔王の娘である私の方が上? 

 うーん……でも、とりあえずは目上の人と思って挨拶しといた方がいっか。


「アリステルでございます。エドワードでんか、どうかなかよくしてくださいませ」


 なーんて。別に仲良くしたくないけどね。

 これも情報収集のためだ。

 そんなわけで、私史上最上級の愛想振りまいてやった。

 ところが……。


「フンッ……変なツノだな。牛みたいだ」


 なっ……! なんだとおおおおおおおおっ!


「これ、エドワード! 失礼であろう!」

「だけどお祖父さま! こやつらは魔族です! 魔族は邪悪な存在だと皆が言っております! ポール叔父上だって魔族のやつらに殺されたって!」


 おのれ誰が邪悪だ。

 ……いやそれはわりとどーでもいい。

 一番許せないのはこのツノを「牛みたい」とか言ったことだ。

 ひとのコンプレックスを的確に突いてくるとは、この王子、天性のイジメっこ気質と見た。

 そこまで言うなら突き刺したろか。闘牛みたいに。ふもーっ!


「これ、アリステル。あまり鼻息を荒くするな」


 お父さまがこっそりと私を窘める。

 いかんいかん。私としたことがこんなガキンチョに腹を立てるなんて。

 いや、私の方がもっとガキンチョなんだけど。


「良いか、エドワード。我が息子ポールは事故で亡くなったのだ。それは余が自ら確認した紛うことなき事実じゃ。そなたの父もよく言っておるだろう。『己が目で見、耳で聞き、その手を下せ』と。宮廷の口さがない者たちの噂を真に受けてはならん」

「う……。申し訳ありませんお祖父さま」


 あら、意外と素直。

 よっぽど国にいるお父さんが好きなのかしら。

 それにしても『己が目で見、耳で聞き、その手を下せ』かー。私のモットーと同じだ。カール王太子とは話があ合いそうだ。


「すまぬ、アリステル殿下。いまだ我が国にはポールのことで大きな誤解が残っているのだ……」


 ポールって河に落っこちて死んじゃった王子様だっけ。

 ってことは、フランツ陛下は息子さんを亡くされたんだ……。

 そう思うと怒りがぷしゅーっと頭の後ろから抜けていく気がした。

 その後、私はお父さまとフランツ陛下が他愛ない話をするの横でお行儀よく聞いていた。

 国同士の関係っていうより、お互いの近況とか昔の話が多かったように思う。

 王太子のカールは幼い頃は病気がちだったけど今は健康で、それなのに相変わらず本を読んだり書をしたためたりと部屋に籠もることが多いとか。

 どう聞いても身内の愚痴なんだけど、お父さまは妙に楽しそうで「でしたらいくつかこちらの書をお贈りいたしましょう」とか言っちゃったり。

 人間と魔族の間には深い溝があるんだとばかり思ってたけど、王さま同士はお互い歩み寄ろうと努力をしてきたのかもしれない。

 なによりこの人間の王さまはとても穏やかで、私も不思議と親近感をおぼえた。

 孫は感じ悪いけどね!


「アリステルさま!」


 秘密の会談が終わり、テントから出て来た私のとことへニコラスが駆け寄ってきた。


「人間の王さまと会ったんですよね。どんな話をしたんですか?」


 興味津々なのか尻尾がパタパタしてる。やはりわんこだ。


「ニコラス。私たちは姫様の護衛なのですよ。立場をわきまえなさい」

「ご、ごめんなさい姉上……」


 今度は耳がしゅんとなってる。かわいい。


「いいのよエルマ。ニコラスだってニンゲンのことしりたいのよね」

「姫さま……あまり弟を甘やかさないでください」


 無言でうんうん頷いてるニコラスに、エルマは盛大に溜息をつく。

 いいじゃん。かわいいし。

王子様登場。

わりと重要キャラになる予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ