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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
魔族のお姫様
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空の旅とニコラスの家族

 というわけで式典だ。

 私たちは前乗りして離宮に滞在することになった。

 せっかくだからお母さまとの思い出の残る場所で過ごそうというお父さまの配慮だろう。

 いつも私のことを考えてくれているお父さまはステキだ。素直に嬉しかった。お父さまの娘だけあって私も案外チョロいかもしれない。

 おかげでその日は朝から上機嫌な私だった。

 上機嫌の理由は他にもある。

 それはなんと噂の『飛空艇』に乗れるからだ!


「うわー! たっかーい!」


 魔界を眼下に、私は大いにはしゃいでいた。

 飛行艇は現在の技術では作れないらしく、現存しているのは十艇にも満たない。

 普段は大事にしまわれているので、こんな時でもなければ乗る機会はまずないのだ。


「ひ、姫さまあんまり身を乗り出すと危ないですよぉ……」


 ニコラスは船から身を乗り出す私を心配そうに窘める。本人は甲板の縁にしがみついてぶるぶる震えているけど。


「だいじょうぶよ。おちたりしないわ。まあ、おちたらおちたでそのときはそのときよ」

「そんなにあっさり……」


 だって、実際そうだし。

 魔法を使えばどうにかギリギリ死なずにすむかな。


「とぶのはむりでも、かぜのまほうとかでゆっくりおちればなんとかなるかしら……?」

「ダメですよ! そんなの試したら!」


 いや、やらないってば。

 ちょっと考えてみただけ。

 あれば便利そうだけど、空を飛ぶのはしゅーきょー的にダメなんだっけ。

 おまけにあんまり高く飛ぶ何かにぶつかって黒こげになっちゃうとか言ってたような。

 あとで聞いてみよ。

 それにしてもニコラスってば、すっかり腰抜かしちゃって。


「そんなにこわいならせんしだんのヒトたちといっしょにくればよかったのに」


 離宮の警備を担当するニコラスのお父さんは戦士団を率いて先に出発している。

 あっちは陸路なので怖い思いをしなくてすんだのに。

 そう思って言ったのだがニコラスはきゅっと口をすぼめてからこう答えた。


「でも……ぼくはアリステル様の従者だから……」


 あら可愛い。

 私がてきとーに任命したのを律儀に守ってるなんて。

 後でお菓子をわけてあげなくちゃ。


「あれ? そういえば、おとうさまはどこ?」


 ニコラスはぷるぷると首を振る。知らないらしい。

 出発の時は私と一緒に見送りのヒトたちに手を振ってたのに、いつの間にか姿が見えなくなっている。

 仕方ないのでその辺にいた警護の兵士に聞いてみた。


「陛下ならお部屋に戻られました。ええと……少しお疲れの様子で……」


 兵士のヒトから、すごーく言葉を選んでる様子が伝わってくる。

 まさかのお父さまも高いところが苦手なヒトだったとは。


 *  *  *


 さすがは飛空艇。びゅーんと飛んであっという間に離宮に到着した。

 私とお父さまが飛空艇を降りると、先に到着していた戦士団が総出で出迎えてくれた。

 屈強な戦士たちがお父さまに向かって一斉に敬礼する様子はなかなか壮観だ。

 すると戦士団の長──ニコラスのお父さんが口を開く。


「陛下、お待ちしておりました。空の旅はいかがでしたか」

「ああ、快適だったよ」


 お父さまってば強がっちゃって。部下に情けない姿なんて見せられないもんね。魔王も大変だ。

 心の中でそっとお父さまを労っていると、ニコラスのお父さんが私に向かって言う。


「姫様、ニコラスはお役に立っておりますか?」

「ええ。わたしのごえいをするんだってさっきもがんばってたわ。たかいところにがてなのに」

「ひ、ひめさま!」

「はっはっは! これは痛いところを突かれたなニコラス!」


 ニコラスが慌てた様子で叫ぶと、お父さんは豪快に笑った。熊耳がぴくぴくしてる。

 ニコラスは犬科なのにお父さんは熊なんだ。お母さんの方が犬科なのかな。

 そんなどうでもいいことを考えながら、私とお父さまはそれぞれのお部屋に案内される。

 私の部屋の前には強そうな熊耳のお姉さんが立っていた。


「姫様の警護は我が娘エルマが務めさせていただきます」


 戦士長さんが紹介してくれた。

 ……ん? 娘ってことはニコラスのお姉さんか。

 振り返ると、妙に居心地悪そうにしているニコラスがいた。


「お初にお目にかかります姫殿下。エルマにございます。ここからは弟に変わり自分が警護いたします」

「あ、姉上、でも、ぼくは……!」


 ニコラスが焦った様子で食い下がる。

 すると戦士長さんがそれを制した。


「落ち着けニコラス。何もお役御免にするわけではない。いざとなれば姫様の寝所に立ち入ることになるのだ。女のエルマの方がよいだろうという判断だ」

「……はい、わかりました父上」


 ニコラスなら別に部屋に入ってきても気にしない。……とは言えない雰囲気だね。

 それはそれでニコラスのプライドを傷つけちゃう気がするし。

 そんなわけで、私の警護役はニコラスのお姉さんのエルマに引き継がれた。

 部屋に入るとさっそく側仕えのメイドたちに着替えさせられる私。

 その間、エルマさんは部屋の扉の前で立っていた。

 年齢はニコラスより五つくらい上だろうか。

 見た目は若くても堂々としている。しっかり訓練を積んだ戦士って感じだ。


「ねえ、エルマさん」


 話しかけたら迷惑かなーと思いつつ、我慢できなくなってしまった。


「姫様、どうかエルマとお呼びください」

「じゃあ……エルマ。ぐんじんさんになってどのくらいなの?」


 私が尋ねると、エルマは少し考えてから口を開く。


「戦士団に入ったのは一昨年です。それまでに訓練兵として二年、研鑽に務めておりました」


 ということは兵士になって四年目ってことか。

 初等科を出てすぐなら今は十六歳? 堂々としてるせいかもっと大人っぽく見える。


「兵士としてはまだ未熟ですが、幼い頃より父や母に鍛えられておりましたから腕にはそれなりに自信があります。ご安心ください」


 私の質問が「若いのに大丈夫?」みたいに聞こえたのかエルマは答えた。そういうつもりじゃなかったんだけど。どちらかと言えばニコラスのお家のことを聞くきっかけにしたかったんだが。


「じゃあ、ニコラスも? おうちではくんれんしてるの?」


 私の質問に、エルマはなぜか言いにくそうにする。


「弟は……ニコラスはあの通り気弱ですから。がんばってはいるのですが……」


 ニコラスの家族はみんな戦士団に所属してるって聞いたことがある。

 お祖父さんもそのまたお祖父さんも戦士だったらしい。

 生まれた時から戦士になるのが当たり前って感じの家だから、ニコラスもやっぱり目指してるんだろう。

 でもあの性格だからなぁ。エルマの心配もうなずける。


「それでも、父や母、一族の者たちは期待せずにはいられないのです。ニコラスは"ルーガルー"と同じ印を持って生まれたのですから」

「るーがるー?」


 それはいったいなんだろうと首を傾げていると、エルマが詳しく話してくれた。

 大昔、魔族の英雄たちが邪神を倒したってあの話。

 その英雄の一人が、ニコラスと同じ"蒼銀色"の毛並みを持った狼の獣人族だったらしい。

 そしてその英雄の名前が『ルーガルー』だったそうだ。

 ていうか、ニコラスって狼の獣人だったのか。てっきり犬だと思ってた。

 それと、獣人族は別に親と同じ耳や尻尾が生えると決まっているわけでもないという。

 生まれた時は耳も尻尾もなくて、成長すると『祖霊』っていう守護霊みたいなのが憑いて"獣の身体の一部"が表れるのだという。その"獣の身体の一部"を『祖霊の印』と呼ぶそうだ。

 ちなみに一家はみんな熊系。ニコラスだけが狼の耳と尻尾らしい。

 聞いてよかった。知らずに見ちゃってたら複雑な家庭なのかと勘違いしていたかもしれない。


「ニコラスも父や母の期待に応えたいとがんばっています。姫様にお声がけいただいたことにもとても喜んで『自分が姫殿下お守りするんだ』と……」


 ニコラスってばなんて健気なんだ。お姉ちゃんのエルマもこれは応援したくなるよね。私もだけど。

 それから私はエルマといろんな話をした。ニコラスの家族のことや、獣人族全体のこと。

 それに、ちょっとだけ恋の話も。エルマには憧れの先輩がいるらしい。

 もっと詳しく聞きたかったけど「姫様にはまだ早いです」とお断りされてしまった。

 おのれ五歳な自分がうらめしい。それでもじゅうぶん楽しかったけどね。

 そういえば、こんな風に女子トークをするなんて何年ぶりだろうか。

 城には歳の近い子はほとんどいないし、『姫』なんて立場だと声をかけても相手が萎縮してしまう。  

 何不自由ないお姫さま暮らしだけど、それだけはちょっと寂しいかな。

 初等学院に通いはじめれば、また友だちできるかな……。

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