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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
魔族のお姫様
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縦巻きロールの襲来

 『大樹』の異変に大図書館は上へ下への大騒ぎになっていた。

 大勢の長耳族ルネースがやってきて『大樹』に魔導具をかざしたり、文献を開いて議論を交わしたり。

 そんなわけで、邪魔にならないよう早々に退散することにした。

 まあ、私に関しては逃げ出したとも言える。

 だってスウェルさんがものすごーく疑わしげな目で見てたからね。

 建物を出るまでずっとスウェルさんは何か聞きたそうにしてたけど、なんとかシラを切り通してやったぜ!


 などと勝ち誇っている場合ではない。

 私には考えるべきことが山ほどあった。


 『地球』『日本』『東京』……そして『遠山リカ』

 

 『大樹』はこれらの言葉に反応した。

 おまけに最後に聞こえてきた男の人の声。

 聞き覚えがなかったけど、あの“声”の主は間違いなく前世の私──『遠山リカ』を知っていた。

 彼は、何かをしようとしていた。いやもうとっくにしてしまったのかもしれない。

 いずれにせよそれは『遠山リカ』の意志に反するようなことなのだろう。

 彼がしきりに謝っていたのがその証拠だ。


 ……まいった。ぜんぜん思い当たることがない。

 そもそもなんで『大樹』からそんな声が聞こえてきたのか──

 とにかくわからないことだらけだ。


「はぁ……なんかつかれたわ」

「だいじょうぶですか? アリステルさま」

「なんとかねー。まあ、ゆうしゃがいないってわかっただけでもしゅうかくってことにしとくわ」


 本物の『勇者(エインヘリヤル)』とは本来私たちのご先祖様のことで、ついでに女神様とこの世界の繋がりが断たれた今は新たな『勇者』が召喚されることはない。

 なら、たとえ人間の中に『勇者』を自称する連中がいてもそれは偽者だということだ。

 心配事の一つは片付いた……かもしれない。


「おまちあそばせ!」


 そんな、妙にお高くとまったセリフが飛んできたのは魔車に乗り込もうとしていた矢先のことだった。

 振り返るとそこには、小さな女の子がふんぞり返っていた。

 この世界に生まれ変わって、なかなかの美幼女になったと自負する私だけども、女の子はさらにその上をいくような美貌を幼い顔面にたたえていた。

 だけど何より目を引くのはそのドリル……もとい、見事な縦ロールだ


「えーと……だれ?」

「わたくしはどろしーよ。おぼえておきなさい!」


 そうかドロシーちゃんと言うのか。

 見た感じ同い年くらいだろうか。

 なにげに同年代の女の子とおしゃべりするのはこれが初めてかもしれない。 


「ドロシー……そうか、イルミナ殿のご息女だな」


 イルミナ様の娘? ってことは、ルネース族なのか。

 よく見れば派手に自己主張する縦ロールの隙間からとんがった耳が少しだけのぞいている。

 にしても、ドリルヘアとエルフの組み合わせはなかなか新しいかもしれない。

 ドリル+エルフで『ドリフ』なんて……うぷぷぷ。


「てぃうるしぞくちょうさま、ごきげんうるわしう」


 私が心の中でひとりウケている間に、ドロシーちゃんはティウル先生にご挨拶していた。

 スカートの端っこをちょこんとつまんでおじぎする様子は、主張の激しすぎる縦ロールを差し引いてもお人形さんのような愛らしさだった。

 これはぜひお友達になりたい……!

 

「わたしはありす──」

「あなたのことはよーくぞんじていてよ、ありすてるさん」

 

 と、こちらの挨拶を遮るようにドロシーちゃんは私の名前を口にする。

 気のせいかな。なんかこうさっきから妙にトゲがあるような……。


「わたくし、あなたにらいばるせんげんをしにまいりましたの」

「らいばるせんげん……?」


 そう言うと、ドロシーちゃんは私に向かってビシッと指を突きつけて──


「つぎの『まおう』になるのはこのわたくしですわ!」


 そう言い放った。

 えーと、今、『魔王になる』って言ったよね?


「てぃうるせんせい、あんなこといってるけど……なれるの? まおう」

「ああ、氏族会議の承認さえあれば誰でもなれる」


 『魔王』の座、意外とゆるかった。


「だが、魔王の仕事は激務だ。何をやるにも氏族会議に伺いを立てねばならんし、なりたがる者はほとんどおらん。結局は一族の者が後を引き継ぐのが常だ」


 確かに、お父さまがめちゃくちゃ忙しいのは端で見ている私にもよくわかる。

 でも……なーんだ。別に私がやらなくてもいいのかー。

 てっきり世襲制だとばかり思ってたよ。

 私としては別に『魔王』の座にそれほど執着はない。せっかくお姫様に生まれ変わったというのに前世以上にブラックな仕事にはつきたくないのが本音だ。お父様には悪いけど。

 というわけだから、やりたいというヒトがいるなら喜んで譲ってあげたいと思う。

 それにドロシーちゃんとは仲良くなりたいし『魔王』の座を争って戦うことなんかないよね。


「うん。わかった。おうえんするね!」

「へ……?」


 ドロシーちゃんは目を丸くする。

 

「お、おまちなさい! おうえんするってどういうことですの!?」

「そのまんまだよ。がんばってまおうになってね。あ、なんならおとうさまたちにいっといてあげようか?」

「そうではなくて!」


 喜んでもらえるかと思ったのに、なぜかドロシーちゃんはヒステリックに叫ぶばかりでちっとも嬉しそうじゃなかった。

 むう、いったい何が気に入らないのやら。


「あの、もしかしたらドロシーさまはアリステルさまと正々堂々、魔王様の座を争いたいのではないでしょうか」

「そう! それでしてよ!」


 ニコラスの言葉に激しく同意するドロシーちゃん。


「あなた、みどころがありましてよ。わたくしのじゅうしゃになりなさい!」

「え、いやです」

「そくとうですの!?」

「だって、僕はアリステルさまの従者だから……」


 あら、ニコラスってば律儀でかわいいじゃない。

 だけど、フラれたドロシーちゃんもかわいそうよね。

 他に紹介できるヒトはいないかしら……あ、そうだ。


「にこらすはあげられないけど、かわりにこのクワガタっぽいむしなんてどう?」

「いりませんわよ! むしなんて!」

「むしなんてとはひどいいいぐさね。ほら、みてよ。おなかとかわしゃわしゃしてけっこうキモかわ……」

「ひぎゃー!!」 


 ドロシーちゃんの声に驚いたのか、ぴゅーっと飛び去っていくクワガタっぽい虫。

 ここまでずっと私の肩にとまっていたけれど、ついにお別れとあいなってしまった。

 さようなら、長生きするのよー。


「アリステルさん! あなた、どこまでばかになさりますの! もうゆるしませんわよ! わたくしのまほうでやっつけてさしあげますわ!」


 どうやらクワガタがお気に召さなかったらしいドロシーちゃんは、ドリルを振り乱してそう言うと真上に向かって自分の手をかざす。


「“バエティ”!」


 ドロシーちゃんの口から呪文が唱えられると、かざした手の上に急激に<水>が集まっていく。

 自分で使ってみた時は意識していなかったけど、どうやら空気中の水分を集めているようだ。

 それにしても……。


「えっと……まだ?」

「もうちょっとですわよ!」


 私の時と違って、ドロシーちゃんの魔法はずいぶんと時間がかかっているようだ。

 初めのうちはみんなこんなものなんだろうか?

 だとしたら私ってけっこう才能あるのかも。

 とは言っても、初歩の魔法はすごく使い勝手が悪いからなー。

 メリッサが最初に見せてくれた二つの『源理』を組み合わせるってやつを早く教えてもらいたい。

 <氷>の魔法なんて夏場には重宝しそうだ。

 

「アリステル様……?」


 ニコラスが困惑したように首をかしげるのを横目に、私は一歩前へと踏み出す。

 あの時、メリッサが口にした呪文はまだ耳に残っている。

 そう、確かこんな──

 

「“バエティ・ディ・グエティ(果てしなきもの)ア、ディウ・ム・エウディ(渦巻く風)ア、トゥ・イティウム・ハ(真白き種子を運び)ガル、ワオ・スティプ(ありし流れを切り取る)”……」


 なぜだかわからないけど、今なら呪文の意味がわかる。

 なるほど。メリッサはずいぶんと丁寧に魔法を構築してみせてくれてたんだ。

 だけど……丁寧な分、無駄も多い。

 <果てしなきもの>は<水>を意味するものだ。同じように<真白き種子>は<雹>のこと。つまりは、わざわざ<雹>の源理で<水>の調和を崩してから<風>の源理で凍らせるてるわけか。なんて面倒なことを……。そもそも<雹>は<風>のアティルに属するんだからそこはどちらかを省略して──


「“トゥイル(逆巻く風) ワオ・スティプ・エウディ(ありし流れを切り裂け)ア”……!」


 “呪文”が自然と口をついて出た。

 その瞬間、私の足下から放射状に広がった魔法の力が地面を凍らせていき、あっという間に辺り一面が真っ白な霜に覆われる。

 そしてドロシーちゃんが必死に準備していた<水>の魔法も凍りつき、そのまま頭の上に落っこちてくる。


「みぎゃ!?」


 ドロシーちゃんの口からヒキガエルを踏んづけたみたいな悲鳴が飛び出した。

 うわー、痛そう。

 一応、ドロシーちゃんが凍らないように気をつけたつもりだったんだけど、こういうのは想定してなかった。

 まあ、でも私に水をぶっかけようとしてたんだから自業自得と思ってもらおう。

 それにしてもこの魔法、広範囲をカバーできるけど威力が犠牲になっちゃってるわねー。

 <水>の魔法を凍らせたとこまではいいとして、たとえば相手の足を氷漬けにしたり地面をツルツルにできれば、足止めとして使えるかも。やっぱり<水>の源理を省いたのが失敗だったかなー……。


 って、ちょっと待って! 私ってば、なんでそんなことわかるの!?

 さっきの呪文の意味といい、なんか知らないはずのことが、いつの間に頭の中にあるみたい。

 なんか気持ち悪いんですけど!


「姫様……今、何をしたのだ」

「へ!? あ、いや、あの……」


 ティウル先生がすごく驚いた顔で私を見ている。

 いや、どういうことなのか知りたいのは私なんですけど!


「アリステル様、すごいです!」


 うってかわってニコラスの方は喜色満面。まるで憧れのヒーローにでも出会ったみたいな顔で近寄ってくる。

 ふふふ。可愛いやつめ。

 

「アリステル様がこう足を踏み鳴らすと、辺り一面が一瞬で冬になったように……まるでおとぎ話に出てくる『霜の巨人』みたいでした!」

「ちょっとまてい!」

「へ? ぼ、僕なにか変なこと言っちゃいました?」


 ちなみに『霜の巨人』はこの世界に冬を運んでくるという伝説の存在だ。

 名前の通り、この巨人が通ったところは霜が降りると言われている。

 優しくて力持ち。だけど身体が大きすぎたせいで乗り込んだ船を沈没させちゃったおっちょこちょいでもある。

 悪気はないんだろうけど、乙女に対しての評価としてはどうかと思う。

 だけどニコラスがあまりに純真無垢な目で見つめてくるので、結局何も言えない私だった。


「うう……こぶができちゃいましたわ……」


 そうこうしていると、ドロシーちゃんがむくりと起き上がった。

 目から溢れそうな涙を必死にこらえ、私にビシッと指をつきつけると。


「きょ、きょうのところはこのくらいにしてさしあげますわ! いつか……そのうち……ぜったいにやっつけてさしあげますわー!」


 そんな捨て台詞を残して脱兎のごとく逃げ出していくドロシーちゃん。

 結局、お友達になれなかったなー。

私の作品には高確率で縦ロールが出て来ます。

理由は察してください。

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